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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第四章:学院対抗戦編
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第七十二話:襲撃、そして容疑者

前回のあらすじ:治療を受けるエスカ・アイヴィ達のもとに魔族たちの襲撃があった。


第七十二話です。皆さんは怒りで我を忘れるという経験をしたことありますか?自分はありません。


追記:"双子の聖女"の姉の名前をジンからリンに変更しました。理由はアインの父親と名前が被っていたためです。


<アイン視点>


人混みをかき分けて、医務室の扉を開ける。部屋の中央のベッドで横たわるエスカ、そしてその隣に立つ"双子の聖女"の妹ルン=ライトの姿が目に入った。


俺は走って近づこうとする。そんな俺を"双子の聖女"の姉リン=ライトが前に立って止める。


「ごめん、今はルンが治療している。集中してるから少し待って。それとちょっと話があるから外に出て。」


そう言ってリンさんは俺を部屋の外に引っ張り出す。俺はかすれた声で質問する。


「一体何が……?」


「私たちにも分からないわ。試合の後、私たちは別室で治療を受けてたの。治療を終えた後、試合中のいろいろについて謝りたくてこの部屋に訪れたら、部屋の前で倒れている見張りの騎士を見つけた。慌てて部屋の中に入ったら、血まみれで倒れてるエスカさんを見つけて、アイヴィさんの姿はすでに無かった。」


俺の試合中に何が起こっていたのか。思わず歯をギリっと食いしばる。まさかこんなタイミングで襲撃があるなんて想像していなかった。


「アイヴィさんだけがさらわれているこの状況が不可解だわ。何か心当たりはある?」


アイヴィだけがいなくなっているこの状況。間違いない、魔族の襲撃だ。以前、学院に魔族が襲撃してきた時と同じ可能性が高い。

以前の魔族は勇者の魔力に反応して、勇者を倒そうとするために襲ってきた。その旨をリンさんに伝える。すると頭を抱えてため息をついた。


「それでもやっぱりおかしいわね。以前は問答無用で殺しに来てたんでしょう?連れ去る理由にはならない。」


リンさんが考えにふけろうとするが、それより早く俺は口をはさむ。


「エスカは無事なんですか?怪我の具合は?」


「私たちが来た時には大量に血を流して倒れていたわ。少しでも遅かったら手遅れになってたかもしれないけど、今はルンが治療しているわ。けど、まだ大丈夫とは言い切れない。」


血を流しすぎていたからだろう。治癒魔法について詳しくないが、失った血液まで補填してくれるとは思えない。

俺は抑えきれないほどの怒りを覚え、強く拳を握る。


「誰がやったんですか?」


声を振り絞る。俺の声色のせいか、それとも表情のせいか知らないが、リンさんが少しおびえたような表情をする。


「わ、分からない。けど、被害の範囲は貴族席の方から医務室にかけてなの。信じたくはないけれど、貴族に協力者がいる可能性がある。その線で騎士に協力をお願いしたんだけど……。」


リンさんが口どもる。俺はじっと黙ったまま話を聞く。


「騎士団の方でも問題が起こったらしく、動かせる人材がいないって……。」


俺は再び歯を食いしばる。何があったのか知らないが、こっちには死人も行方不明者も出ているのだ。できることならこちらを優先してほしい。


俺は背後から急に肩を組まれる。驚いてそちらの方を見ると、王都騎士団所属であり俺の実兄のヨーダが立っていた。


「よっ、気持ちは分かるがあんまり怖い顔するなって。心配すんな。アイヴィちゃん探すのに俺も協力するぜ。」


ヨーダ兄さんが手伝ってくれるとは心強い。突然の見知らぬ人の乱入に目の前のリンさんが困惑しているようなので、俺は説明する。


「こちらはヨーダ=ヴァレンタイン。ヴァレンタイン家の長男で、王都の騎士団に所属しているんです。」


「どうも、リン=ライトです。」


ヨーダ兄さんはしっかりと頷き、俺の方に向き直る。


「おおよその事情は把握している。今こっちでも問題が起こってて動ける人材はほとんどいないんだが、志願して俺ともう一人が手伝ってくれることになった。今はそいつが情報を収集している。っと、ちょうど来たようだな。」


ヨーダ兄さんの視線の方を向くと、そこには見たことのある顔がこちらに向かってきていた。確か、アイヴィのお兄さんのデザルグさんだったはず。


前会ったときはアイヴィと仲が悪そうな感じだったが、デザルグさんも志願したということはアイヴィを心配しているのだろうか。


二人が来たことにより、ほんの少し心にゆとりができたのだろうか。物事を冷静に考えられるようになった気がする。


「それでデザルグ、何か分かったか?」


「ああ。仮に貴族の協力者がいるとしたら、それはフーシェ家当主のゾイさんだろう。事件が起こっていただろうタイミングから姿を消している。単純に用事で席を離れただけの可能性もあるが、タイミングが良すぎる。」


しかし、そのタイミングでいなくなった人ならもっと多そうなものだが、なぜそのゾイさんだけ特定できたのだろうか。その疑問をデザルグさんに伝えると、簡単だと言わんばかりに応えてくれる。


「事件が起きたタイミングは君の試合と同じタイミングだからな。今いる貴族たちの多くはアインシュ=ヴァレンタインの実力を見てみたいという者たちばかりだ。おかげで簡単に特定できた。」

運が良かったというべきかなんというか。特定ができたのなら、今すぐにでも行くべきだ。俺はそのゾイ=フーシェとやらの家の場所を聞く。


「場所は俺も知っている。アイン、俺についてこい。」


ヨーダ兄さんも腕をまくり、張り切った様子を見せる。そんなヨーダ兄さんとは対照的に、デザルグさんは落ち着いた様子だ。


「まだ確定というわけではないから、俺は再び情報収集するとしよう。そっちは任せたぞ、ヨーダ。」


「心配すんな。アイヴィちゃんは絶対に助ける。任せとけ、俺とアインにな。」


そう言って俺の肩をたたく。俺はリンさんの方を向いてエスカのことをお願いする。


「エスカの事、よろしくお願いします。」


「ええ、"聖女"の名に懸けて。」


短く言葉を交わして俺とヨーダ兄さんは駆け足で会場を後にした。





<三人称視点>


「聞いてた話と違うな。王の周りの警備も薄くなるはずじゃなかったのか。まあ良いか、やるぞ。」


先頭に立つ魔族の男は笑いながら言う。突如現れた魔族に観客席は阿鼻叫喚に包まれる。王を守るように警護の騎士たちは剣をとる。


しかし、魔族の男は笑みを崩さない。


「はは。王を守る心意気は良いけど、一般市民も守れるのか?野郎ども、やりな!」


男の合図に一人の魔族が近くで逃げ遅れていた貴族に向かって爪を振るう。それをかろうじて剣で防いだのは、レオ=ノーベル第二王子だった。


「お前たち、何をしている!騎士ならすべてを守って見せろ!」


レオ第二王子の声に続けて、ロウ=ノーベル国王も大きな声を出す。


「勇猛なる騎士たち、剣を構えよ!目の前の魔族どもを全力で打ち倒せ!」


騎士たちが「うぉー!」と大きな声を上げて、魔族の方にそれぞれが切りかかっていく。リーダー格の魔族の男は王に向かって爪を突き出す。


「王の守りがおざなりになってるんじゃないか!」


「お前ら如き、王の守りは私一人で十分だ。」


王都騎士団団長のケイト=ハインリヒは簡単にその爪を弾き飛ばす。


「外の魔物どももお前ら魔族の仕業か。だが、お前たちは我々騎士団をなめすぎた。後悔しながら死ぬが良い。」


対抗戦会場の観客席。ここで魔族対騎士団の戦いの火ぶたが落とされた。


七十二話いかがだったでしょうか。魔族の目的はあくまで"アイヴィの誘拐"です。それ以外は全部騎士団の目をそらすための陽動です。


今週忙しいのと、発見した重大なミスをいろいろと治したいため次回更新は来週2/28(月)にしたいと思います。更新間隔があいてしまい申し訳ありません。

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