第六十六話:初戦、そして結界
前回のあらすじ:アイズ生徒会長対レオ第二王子の戦いはレオ第二王子の勝利で終わった。
第六十六話です。何でアインの番じゃないのかと思った人もいるかと思いますが、この後の展開でミスがあったので急遽順番を変えたからです。つまるところ、その場のノリです。
<アイヴィ視点>
いよいよ対抗戦。一生懸命練習してきたし、アイン君から今までにないような魔法を教わってきているので大丈夫……だと思いたい。
"双子の聖女"が発動する結界は強固なものらしい。「十分に解析できていない現時点ではそれを突破するのは難しいだろう。」というのがアイン君の分析だ。だったら作戦は一つ、結界が張られる前に無詠唱魔法で勝負を決める。それしかない。
今でも自分がこんな対抗戦の場に立っているなんて信じられない。ほんの数か月前までは魔法を一切使うことのできなかった私がここまでこれたのは、すべてアイン君のおかげだ。
目をつむり大きく深呼吸をする。
大きな歓声が聞こえてくる。ただこの歓声は私たちに向けられたものではない。"双子の聖女"に向けられているものだ。
昔の私ならこの歓声に飲み込まれてしまい、何もできなくなっていただろう。でも、どうしてだろうか。怖いくらいに冷静でいられている。ゆっくりと目を開けて、周りを見渡す。
大きく歓声を上げる観客たちがいる。
先ほどまで私たちがいた場所で、こちらを見ているアイン君がいる。
隣に立って私の方を見ているエスカさんがいる。
「どうやら大丈夫そうですわね。さあ、行きますわよ。」
しっかりと頷き、私たちはそろえて一歩踏み出した。
「先に忠告しておきますわ。あなたたちに勝ち目はありません。降参することをお勧めします。」
「お姉ちゃん!そんなこと言っちゃダメだってば。」
"双子の聖女"の姉、リン=ライトさんがそんなことを言っている。そして妹のルン=ライトさんはそれを慌てて止めようとしている。
エスカさんがやれやれといった感じでため息をつく。
「随分と余裕ですね。終わった後に泣いてしまっても知りませんよ。」
エスカさんの言葉にリンさんは少し額をピクつかせる。
「へえ、闘志だけはあるようですね。ですが、それだけではどうしようもないということを教えて差し上げますわ。」
「お姉ちゃん、落ち着いて。」
妹のルンさんは姉のリンさんを諫める。今のやり取りだけでも二人の性格というか関係性が分かる気がする。
姉のリンさんは少し激しい、というか攻撃的な性格。妹のルンさんはそれを抑えるような、冷静な性格。正反対の性格だが、だからこそうまくいっているのだろう。
審判の方から「そろそろ始めます。」というコールがかかる。
私たちも"双子の聖女"も所定の位置につく。全員が準備できたことを確認して審判が声を上げる。
「対抗戦第二試合、リン=ライト・ルン=ライトペア対アイヴィ=ドレッド・エスカ=ヴィレッジペアの試合を始める。始め!」
私とエスカさんは素早く無詠唱で魔法を発動させる。私は火球の魔法を、エスカさんは雷の魔法だ。
妹のルンさんは膝をつき、神に祈るような姿勢で詠唱を始める。まるで私たちの魔法を意に介していないようだ。
「『……。光よ、魔を打ち払いたまえ。』」
ルンさんの一歩前に出た姉のリンさんの詠唱が完了する。私たちの魔法が着弾する直前に、リンさんから放たれる光の線によってかき消されてしまった。
「同じ作戦は何度も見てきましたわ。これは二対二のペア戦。やすやすと詠唱を止めさせはしませんわ。」
私たちにとっては予想外であった。"双子の聖女"の結界。私たちは二人でそれを詠唱するものだと思っていた。実際に複数人で協力して魔法を発動するというのは、技術として存在する。だからこそ、最高位の魔法である結界を一人で発動させるとは思っていなかったのだ。
私たちは続けて魔法を発動させる。火球の数を増やし、一人では対応できないような数の魔法を放つ。
私たちの焦りが現れたのだろうか、数は多いが多少狙いが甘くなってしまったようだ。リンさんは焦ることなく、自分たちに向かってくる魔法だけを狙い打つことで私たちの魔法はかき消されてしまった。
「『……。この祈りが神に届きますように。光よ、私たちを守る盾となりたまえ。』」
詠唱が完了すると同時に、ルンさんを中心に半透明の球状な膜が生成される。
これが噂の結界魔法……。私は試合前に話したアイン君との会話を思い出す。
「次に、結界魔法を発動されてしまった場合の話なんだけど。はっきり言って作戦は立てられない。」
アイン君の言葉に私たちはがっくりと肩を落とす。
「仕方ないだろう。その結界とやらがどの程度の強度を持っているのか、どんな原理で魔法を防ぐのか。性質が一切分かっていないんだから。分かっているのは、その強度がとても固いらしいということだけだ。」
「そうは言っても……。予想とかはできませんの?今のままでは発動されたら終わりということになってしまいます。」
エスカさんの言葉にアイン君は腕を組んで悩む姿勢をする。しばらくしてお手上げとばかりに両手を上げる。
「ダメだ。やっぱり情報が少なすぎる。情報がないから逆にいろいろ想像することはできるけど、それを伝えると先入観になってしまう。できるアドバイスとしては、冷静に分析し続けることかな。さっき言ったように、どの程度の強度を持つのか、どんな原理で魔法を防いでいるのか。それが分かればきっと活路が見えてくるよ。」
一度冷静になるために、大きく深呼吸する。エスカさんもアイン君の言葉を思い出したのだろう、目に迷いはない。
「アイヴィさん、まずは強度の確認です。出来る限りでっかい魔法をぶつけてやってください。」
「うん、任せて。」
私は集中して魔力を練る。その間もリンさんの攻撃はこちらへ降ってくる。どうやらルンさんの方は結界の維持のために攻撃はできないようだ。リンさんの攻撃魔法に対して、エスカさんは魔法をぶつけて迎撃する。
私はゆっくりと右手を上にあげ、魔法を発動する。
「……なっ!?」
リンさんの焦る声が聞こえる。信じられないものを見たような表情をしている。その視線の先には私が魔法で作った巨大な火球が燦燦と輝いていた。
観客からもどよめくような声が聞こえてくる。私たちが無詠唱魔法を使った時もどよめきがあったが、それとは比較にならないほどの声だ。
ゆっくりと息を吐く。そして私は手を勢いよく下ろす。その勢いに合わせて、巨大な火球が落ちていく。
火球と結界がぶつかり合い、轟音とともに熱風が吹き荒れる。砂埃が巻き上がり、周囲が何も見えなくなる。
急に多量の魔力を使ったからか、少しめまいがする。しかし、私は少しの変化も見逃さないように、相手の方を見据えていた。
ほんの一瞬、何かが光ったのが見えた。私は慌てて横にずれる。先ほどまで私が立っていた場所に光線が横切る。
砂埃が晴れる。そこには無傷で立っている"双子の聖女"の姿があった。
六十六話いかがだったでしょうか。"双子の聖女"に関してはいずれ閑話で背景とかを描きたいと考えています。
次回更新は2/7(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
追記:"双子の聖女"の姉の名前をジンからリンに変更しました。理由はアインの父親と名前が被っていたためです。




