第六十五話:開会、そして初戦
前回のあらすじ:大通りでの買い物デートも無事に終わった。不穏な空気を醸し出しながら開会を迎える。
第六十五話です。想定外に長くなってしまいました。
<アイズ視点>
「はあ……。」
思わずため息がこぼれる。今年も彼と戦わないといけないのかと思うと、腰が重い。
二年前、僕にとって初めての対抗戦。同じく彼も初めての対抗戦だったはずだが、完膚なきまでに叩き潰された。
昨年、僕なりに努力を重ねて大きく成長したと思って挑んだ対抗戦。一対一ではなくチーム戦で再び彼と相まみえた。今年こそはと意気込んでみたものの、成長したのは僕だけではなかった。彼の魔法一つだけで、僕のチームは壊滅へと追い込まれてしまった。
入学当初、多くの人にもてはやされていた僕のプライドはズタズタに引き裂かれてしまった。確かに第二魔法学院の中ではトップクラスの実力を持っていると自負している。しかし、世界は広いということを思い知らされてしまった。
そんな僕が魔法省の内定をもらえたのははっきり言ってコネによるところが大きい。魔法省には父が勤めていて、かつては祖父も勤めていた。そんな家柄もあって魔法省の内定を嬉しいことにいただくことができた。しかし、第一魔法学院には僕なんかよりよっぽど良い人材がいることだろう。
しかし、卑屈になっていた僕は、今年ある意味吹っ切れることができた。理由は簡単。アインシュ=ヴァレンタインと出会ったからだ。
"勇者の再来"とまで呼ばれているレオ第二王子も才能の塊だと感じたが、僕からすればアインシュ=ヴァレンタインという男はそれをはるかに凌駕しているのではないかと感じている。
最初にアインシュ=ヴァレンタインと会った時の第一印象は「思ったより普通だな」だった。確かに年の割には大人びているが、ただ魔法が大好きな少年のようにしか見えなかったのだ。しかし、接すれば接するほど彼の異常性を実感することになった。
魔法が大好きな少年という印象は間違っていなかったが、その程度が異常だった。彼にとって魔法とは、小さい子供に与えられたおもちゃなのだ。
与えられたおもちゃを壊れるまで遊びつくそうとする子供。
それが今、僕がアイン君に持っている印象だ。他の人にとって魔法とは一生懸命努力してようやく習得していくものだ。実際、僕にとってもそうだ。
アイン君の圧倒的な才能に比べれば、僕やレオ殿下など凡人でしかないのだ。そう考えると、ほんの少しだけ気が楽になった。
対抗戦のために借りられた決闘場。僕が立っている反対側にレオ殿下が自信ありげに立っている。僕の実力は殿下には及ばないのかもしれない。けど、アイン君の前座なら前座なりに精一杯抗わせてもらおう。
「本当に君のその精神には感服するよ。これで三度目になる。君と僕では実力の差があるということをいい加減理解しても良いと思うんだけどな。」
決闘場にてレオ殿下と向かい合う。殿下の自信満々な態度にももう慣れた。
「理解してますよ。それでも対抗戦という形式上、あなたの前に立たなきゃいけないんです。でも、今年は殿下も楽しめると思いますよ。まあ、殿下が楽しめる相手は多分僕じゃないでしょうが。」
レオ殿下はふっと不敵に笑う。僕たちの会話が終わったため、審判がゆっくりと手を挙げる素振りを見せる。
「それでは対抗戦第一試合、レオ=ノーベル対アイズ=フロストの試合を始める。……始め!」
審判の手が振り下ろされると同時に僕とレオ殿下は詠唱を開始する。
「『氷よ、礫となりて目の前の敵を穿て』」
「『熱き炎よ、求めに応じて竜へと姿を変え』っ!」
殿下が詠唱したのはかつて勇者が使っていたという超級魔法。それに対し、僕の発動した魔法は中級魔法だ。詠唱は圧倒的に僕の方が早い。
殿下は詠唱を中断し、僕の魔法を軽々とよける。騎士から剣術も習っている殿下の身のこなしは非常に軽やかだ。
間髪入れず僕は同じ魔法を発動する。殿下に詠唱の暇を与えてはならない。もし、先ほどの超級魔法を発動されたら僕では返すことはできないだろう。
「はあ。詠唱はゆっくりさせてほしいものだ。観客たちも僕のこの魔法を見に来ているのだというのに。」
「何を言ってるんですか殿下。これは勝負ですよ。」
「それはそうだな。」
結構激しく動いているはずなのに、息一つ切れていない。一対一の戦いにおいては相手に詠唱させる暇を与えないというのは非常に有効な戦術だ。
しかし、有効な戦術であるからこそ、それに対する対抗策がたてられるのだ。
「『土よ、壁となりて僕を守れ』」
殿下の目の前に土の壁が現れる。僕の魔法はこの土の壁に阻まれてしまう。
「『熱き炎よ、求めに応じて竜へと姿を変えよ。』……」
この詠唱を完成させてはならない。僕は慌てて魔法の詠唱を始める。
「『氷よ、塊となりて天より降り注げ』!」
壁の向こうに届く魔法を発動する。殿下に向かって氷が降り注ぐ。しかし、殿下は詠唱を止めない。
「『竜よ、その炎ですべてを包み食らい尽くせ』」
殿下のもとから炎の竜が天へと昇る。僕の魔法はその竜に飲み込まれて消え去ってしまう。
この魔法の発動を許してしまった以上、僕の勝ち目はないだろう。ならば最後の抵抗をするとしよう。
「『氷よ、すべてを切り裂く剣となりて敵を切り裂け』」
氷が巨大な剣へと形を変える。迫りくる炎の竜と氷の剣がぶつかり合う。ほんの少しだけ拮抗するが圧倒的な威力の差に、氷の剣は砕け散る。
そしてそのまま炎の竜が迫ってきて。
<アイン視点>
「あれがかつて勇者が得意としたという超級魔法……。凄まじいですわね。」
「うん……。生徒会長も頑張ってたけど……。」
エスカとアイヴィは先ほどのレオ殿下の魔法を見てショックを受けいているようだ。そんな二人とは違い、俺は別のことに気を取られていた。
「それにしても、この結界ってすごいな。どういう仕組みか分からないが、高威力の魔法も自動的に人体が耐えられる程度まで威力が下げられるのか。この決闘場は神が作ったと言われているけど、ここまで規格外の魔道具がおいてあるとは……。一目見てみたいな。」
この決闘場は勇者の時代よりはるかに前。いつなのか分からないほど昔に、神の手によって建てられたと言われている。そして、この決闘場の誰も入ることのできない場所にその魔道具がおいてあると言われている。明らかに時代にそぐわないオーパーツだ。
俺の発言にアイヴィが少しむっとした顔をする。
「他に言うことがあるんじゃないんですか、アイン君。生徒会長の頑張り見ていたでしょう。」
おっと、さすがにデリカシーが無さ過ぎたか。
「ごめん。アイズ生徒会長はベストを尽くしたと分かっているよ。相手に詠唱をさせないよう短い詠唱の魔法を連発。相手の防御をかいくぐろうとする工夫。高威力の魔法を打ち消そうと、自身にできる最高火力で迎え撃つ。どれをとっても最高の作戦だったと思う。」
アイズ生徒会長の作戦は完璧だった。ただそれを返しきったレオ殿下がそれ以上に強かった。
「それに殿下の魔法は確かにすごいけど、ここで見る限りではそこまでじゃない。魔道具のおかけで威力も下がっていたからね。エスカとアイヴィだったら対処することも可能だと思う。」
俺も戦うことになるかもしれないからしっかり分析も行っていた。いつも通りやればおそらく勝てるだろう。
だが油断はしてはならない。それに俺の初戦の相手は情報の全くないニュートという人。目の前の戦いにまず目を向けよう。
とはいっても、次の試合は二対二の一戦目。つまりアイヴィとエスカの出番だ。俺は二人の目をしっかりと見据える。
「次は二人の出番だね。大丈夫、落ち着いていつも通りの実力を出せば勝てるさ。頑張れ!」
二人は大きく縦にうなずき、席を立つ。そして決闘場の方へと向かっていった。
六十五話いかがだったでしょうか。冷静に考えたら超級魔法なんて食らったら、消し炭になってしまうということに気づいたため、仕方なく後半部分を付け足しました。アイズ生徒会長は救護班に運ばれましたが大丈夫です。ちゃんと生きてます。
次回更新は2/4(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




