第六十三話:王都、そして観光
前回のあらすじ:王都に到着し、レオ第二王子殿下と出会う。
第六十三話です。デート回のつもりでしたが、全然それっぽくならなかったです。
俺たちが王都について二日が経った。旅の疲れが出ていたのか、昨日はほとんどのメンバーが宿でゆっくりしていた。例にもれず俺も疲れていたので、日課の訓練だけ行うにとどめておいた。
ちなみに対抗戦用に訓練場を貸し出してくれるとのことで、昨日は広い訓練場を一人で独占して使用することができていた。
今日もその訓練場にて訓練と簡単な実験を行っていたが、昨日との違いは近くに他のメンバーがいることだ。アイヴィとエスカは言わずもがな、アイズ生徒会長や残りの二人のメンバーも訓練場にて黙々と魔法の練習を行っていた。
練習の様子を少し見渡してみる。エスカはいつも通りのようだが、アイヴィはどうやら緊張しているようだ。本番が近くなってきたからだろうか。
練習の手を止めて、アイズ生徒会長がパンパンと手をたたく。その場にいた全員がその音に反応しアイズ生徒会長の方を向く。
「対抗戦まであと三日。焦る気持ちも分かるけど、今日は軽めにこれくらいにしておこうか。明日は本番想定の練習試合、明後日は最終調整をして本番に臨むとしよう。王都に来るのが初めての人もいるし、今日は王都の観光とかしたらどうかな?」
悪くない提案だ。今更あれこれしたくらいで大して実力は変わらない。だったら気分転換でもしてリフレッシュしたほうが精神的に良いだろう。特に、アイヴィにとっては。
「僕は学院代表としてちょっと仕事があるから、一緒には行けないけど楽しんでおいで。あ、すりには気を付けるようにね。街中を歩いている貴族なんて狙われやすいんだから。」
アイズ生徒会長はどうやらやることがあるようだ。残り二人のメンバーもどうやら一緒には来ないようなので、俺・アイヴィ・エスカの三人で王都を観光することになった。
「それにしても、本当に大きいですね……。」
俺たちはまず初めに王都の中心である、ノーベル城に来ていた。中に入ることはできないが、一般の人でも観光できるように城の間近まで来ることができる。
その大きな城にアイヴィは口をぽかんと開けてしまっていた。
前世で見た城を含めても最大級の城で間違いない。重機などがないこの世界でこれほどの物を作ることができるとは、人類の力はすごいと再認識させされる。
「確かこの城は勇者様が生きている頃に建設されたものですね。魔王に対抗するために建設されたので、軍事的にも非常に強固なものになっているらしいです。」
エスカがあたかも観光ガイドのような口ぶりで補足してくれる。確かに城の周囲は大きな城壁で囲まれているし、パッと見た感じ攻めにくそうだ。……あくまで人間目線での話だが。
魔王というのは魔族だ。ということは、転移の魔法を使えるような魔族もいただろうし、そう考えると城壁というのも無意味に感じる。当時はきちんと機能していたのだろうか。
俺がそんなどうでも良いことを考えている間も、エスカはいろいろと説明をしてくれる。意外にもエスカは観光ガイドの才能があるかもしれない。
「現在の王族であるノーベル家。この一族が王族となった大きな要因は、勇者様との婚姻ですね。当時は魔王を打ち滅ぼした勇者様の子孫を誰が残すかで争いになりかけたとか。最終的にはノーベル家の娘と熱い恋愛の末に結ばれたと言われています。」
その話は知らなかったが、何ともロマンチックなものだ。勇者との恋愛譚なんて劇にでもなりそうなものだ。
「エスカ=ヴィレッジは詳しいんだな。もしかして、あの芝居よく見ているのか?」
「ええ。私のお気に入りの一つです。……って、え?」
いつの間にやら俺たちの隣にレオ殿下が立っていた。この口ぶりからして割と長くいたのかもしれない。全然気が付かなかった。気を抜きすぎだろうか。
いや、それよりもエスカが恋愛譚の芝居をよく見ているというのも少し意外だ。エスカの方も思わず言ってしまったのか、顔を真っ赤にしてしまっている。
「こんにちは、殿下。俺たちに何か用でも?」
「つれないな。いや、別に用があるわけではない。たまたま城に用があってな、向かう途中で君たちの姿を見かけたというわけだ。」
そういえば、アイヴィが随分と静かだ。そう思い、アイヴィの方を見てみると、目の前で起こった出来事がキャパオーバーしたのか目を回してしまっていた。
「立ち話も何だし、君らも中に入るかい?僕が保証すれば許可がなくとも入れるが。それに君はいろいろと興味深いからね。ぜひ話を聞かせてくれないかな。」
この目は見覚えがある。自分の陣営へと引き込もうと考えている人間の目だ。具体的にはドレッド家領主と同じような目をしている。
俺は首を横に振る。
「せっかくのお言葉ですが、殿下もお忙しいでしょう。今日俺たちはただ王都の観光をしているだけなので。どうせなら観光にちょうどいい場所を教えていただけたら助かります。」
俺の言葉に殿下はクスリと静かに笑い声をあげる。
「だったら大通りの方が良いだろう。並んでいる店の数でいえば、この国随一だ。目当てのものが無くても、いろいろ見て回るだけで楽しむことができるだろう。」
という殿下の言に従って大通りの方にやってきた。本当に王都に来てからは何回もスケールの大きさに驚かされる。
「本当にこの大通りにはいろいろなお店があるんですわね。」
エスカが一枚の紙を見ながら感心するように言う。
「その紙はどうしたの、エスカ?」
「これですか。これは観光者向けに発行されている『王都ゆるり旅』ですわ。アイズ生徒会長から渡されたものです。」
ちらっと見せてもらったが、王都の大通り周辺の店についていろいろ書かれているようだ。こんなものまで用意されているとは、観光者も多いのだろう。しかし、『王都ゆるり旅』とは何だか前世でもありそうな観光ガイドの名前だ。
「そんなもの持ってるなんて、もしかしてエスカって結構楽しみにしてた?」
「い、いえ。別に楽しみというわけでは……。ちっ、違います!」
俺たちのやり取りにアイヴィがふふっと笑顔になる。その笑顔を見て俺とエスカは少し安心する。
「ようやく笑ってくださいましたね。王都に来てからずっとこわばった顔をしていて心配してたんですよ。」
「アイヴィの性格はそれなりに知っているけど、ここまで緊張しやすいとは知らなかったよ。本番までずっとこの調子だったらどうしようかと思ってたんだ。」
先ほど城を観光していた間も、うつむきがちでずっと黙り込んでしまっていた。少し驚いたような顔でアイヴィはおずおずと俺たちに尋ねる。
「もしかして……、そんなに態度に出てました……?」
「少なくともメンバー全員分かっていましたね。アイズ生徒会長もきっとそれをお見通しで、このような時間を作ってくださったのではなくて?それすらもしかして気づいてませんでしたの?」
今度はエスカが驚く番だった。まさかそこまで周りが見えなくなっていたとは、俺も予想外だ。
「では、ここでの買い物は精一杯楽しみましょう、アイヴィさん!」
王都観光の第一ラウンドでアイヴィは少し緊張がほぐれたようだ。そして第二ラウンドの買い物が始まる。
六十三話いかがだったでしょうか。体調最悪な中書いたので、全然話進まなかったです。申し訳ありません。次回はもう少しまともなデート回を書きたいです。
大分体調は回復しました。ちなみに2回目の検査でも陰性だったので、本当にただの風邪だったようです。次回更新は1/31(月)とします。1月ももう終わり、時がたつのは早いですね。




