第六十二話:旅路、そして王都
前回のあらすじ:旅の道中、奇妙な魔物の襲撃を受けた。
第六十二話です。王都に到着します。
ソラウルフの群れの襲撃から数日、王都まで残り少しという状況。付き添いのアベル先生と俺は深刻そうに顔を突き合わせていた。
俺たちの前にはソラウルフの群れから入手した奇妙な魔石が不気味に輝いている。
「うーん、多分魔法陣だと思うんだけど、全然知らない術式だから断言はできないな。」
アベル先生は魔法陣の専門家、しかもその基礎理論をメインに研究している。つまり、魔法陣について世界で最も詳しい人間の一人のはずだ。だが、そんな先生でも検討もつかない魔法陣とは、何だか不気味だ。
「でも効果は何となく想像できるね。冒険者の話を聞くに、ソラウルフは本来の生態とは異なる動きをしていた。それなら、この魔法陣によって行動が操られていたと考えるのが自然かな。」
俺も同じ想像だ。何者かが魔石に魔法陣を刻み付け、魔物の行動を操っていた。
アベル先生には話していないが、俺にはもう一つそう考える根拠がある。それは魂に干渉する魔法の存在だ。
かつて俺は、エスカを救うためにその魂に干渉する魔法を発動した。つまりこの魔法の存在を知っているからこの魔法陣がそれと同種のものであると直感的に理解していた。
しかし、その理解を否定したい気持ちもある。なぜなら、魂に干渉する類の魔法に関する魔法陣というのは今のところ俺ですら不可能なのだから。
(一体誰が……?どうやって……?)
現在の魔法の水準では魂に干渉する魔法を使える人間などいないはず。このような魔法陣を使いこなせるような人間がいるとしたら、明らかに魔法のレベルが違いすぎる。
一番ありうる選択肢としては、魔族の仕業と考えることだろう。魔族にはまだ未知のことが多い。もしかしたら、魔族の中にはその領域に到達しているような者がいるのかもしれない。
断言できないことだらけだ。いったん考えることを止めた方が良いだろう。このままでは沼にはまってしまいそうだ。
俺とアベル先生はいったんそこで切り上げ、休憩とばかりに大きく伸びをする。今は道中の休憩時間だ。馬車の外であまり人に聞かれないように話をしていたが、話が終わったのを感じたのかアイヴィとエスカが近づいてくる。
「お疲れ様です、アイン君。お水いかがですか?」
そう言って水が差しだされる。旅において水は貴重とよく言うが、魔法が存在するこの世界において、水は簡単に入手できるので貴重なものではない。
俺はありがたく水をいただく。エスカもアベル先生に水を渡しているようだ。
「難しいことは分からないですけど、また厄介なことになりそうですか?」
「どうだろう?厄介ごとの香りはぷんぷんしてるけど、まだ断言はできないかな。王都にいる間は何も問題が起こらないと良いんだけど。」
実際、ソラウルフの襲撃の後も何回か魔物の群れに襲われた。しかし、その魔物からはソラウルフの時のような奇妙な魔石は見つけられず、ごく普通の襲撃と判断された。最初の襲撃だけ異常だったのは偶然なのか必然なのか、少なくとも対抗戦の間は何も動きがない様に祈ろう。
「これは……、壮観だな……。」
俺は感心したように言う。隣ではアイヴィがぽかんと口を開けて目の前の街並みを見る。そんな中、一人冷静そうなエスカが口を開く。
「これが王都の街並みですわ。ドレッド領も大きい領ではありますが、王都とは比べ物にもならないでしょう。」
ドレッド家の娘であるアイヴィの前で言うのもなんだが、確かにこの王都の街並みはすごいとしか言いようがない。
人の数も多く、町は活気づいている。門の近くだからか、宿の客引きが多いようだ。
「エスカは来たことあるんだっけ?」
「ええ。父に連れてきてもらったことがありますわ。さすがに王にお目通しはかなわなかったですが、いろいろな経験をさせていただきましたわ。」
一人驚きが少ないのはそのためだろう。俺たちの様子を観察していたアイズ生徒会長も笑いながらこちらに近づいてくる。
「始めてくる人はみんなそうなるよ。アイン君はもっと驚いても良いと思うんだけどね。」
十分驚いているが、そう見えないのならやはり前世の経験があるからだろう。前世では研究者という職業上、いろいろな国を回ることがあったのだ。
「さあ、このまま宿の方に向かうよ。宿は手配済みだから、そこら辺の客引きに引っかからないようにね。特にアイヴィ。」
アイヴィの方を見ると、まさに宿のおばさんに客引きを受けているところだった。俺は一回ため息をついて、アイヴィを助けに行った。
王都の街並みを眺めながらゆっくり歩き、ようやく宿につく。どうやら貴族御用達の宿のようで、非常に豪勢な建物だ。
建物に入るとロビーに並べられた椅子で優雅に紅茶を飲む一人の男が目に入った。その姿を見て、アイズ生徒会長が顔を思い切りしかめる。
俺たちに気づいたその男は優雅な所作で紅茶を置き、こちらに近づいてきた。
「ようこそ、第二魔法学院の皆さん。私は第一魔法学院所属、第二王子のレオ=ノーベルだ。今度の対抗戦ではよろしく頼むよ。」
そう言って爽やかな笑顔を浮かべる。アイズ生徒会長は一歩前に出てしかめっ面のまま返事をする。
「ふん、相変わらず猫をかぶってるんですね、殿下。」
「猫をかぶっているとは心外だな。いつもこんなもんだろう?」
「ええ、二年前の純情な僕はすっかり騙されましたよ。」
アイズ生徒会長にそこまで言わせるとは一体どんな性格なのか逆に気になる。レオ殿下はやれやれといった感じで髪をかき上げる。
「まあ、茶番はこれくらいにしておくか。ふむ、そっちが噂のアインシュ=ヴァレンタインだな。それと、そっちがアイヴィ=ドレッドにエスカ=ヴィレッジか。大胆な作戦だな、一年生をこんなに起用するとは。」
レオ殿下はそう言って俺たちをじっと見つめる。俺は慌てることなく一歩前に出て礼をする。
「お初にお目にかかります、殿下。俺はアインシュ=ヴァレンタイン。ヴァレンタイン領の三男です。」
「ふふ、貴族の礼節を完全には崩さず、口調を多少崩すと……。なかなか豪胆な性格をしているな。実に面白いな、対抗戦が楽しみだ。」
俺に続いてアイヴィとエスカも挨拶をする。
「にしてもお前たちは災難だな。あの二人と戦う可能性があるんだからな。まあ面白い戦いを見せてくれると期待してる。」
そう言って片手をあげながら宿を出て行ってしまった。随分と言い方に棘がある。まるで第一魔法学院が負けることはないと確信しているようだ。
レオ殿下が立ち去った後、エスカはゆっくりと握りこぶしを作る。
「ふふ、随分私たちを下に見ているようですね。目にもの見せて差し上げますわ。」
闘志十分のようだ。対抗戦まで残り数日。出来ることはやり切った、後は全力を尽くすだけだ。
六十二話いかがだったでしょうか。次回対抗戦と言いたいところなのですが、次回は王都デートです。
体調を崩しました。一応PCR検査では陰性だったのですが、正直怪しいと思ってるので体調次第で次回更新が崩れるかもしれません。とりあえずの次回更新は1/28(金)とします。水曜はお休みにします
。
お知らせ:1/22(土)に短編を一つ投稿しました。本作とは一切関係ありません。SVB大賞に応募する用の恋愛(現実世界)の作品です。本作とは全く異なる作風ですが、もし良かったら読んでいただけたら嬉しいです。




