第六十一話:来訪、そして道中
前回のあらすじ:第一魔法学院には隠し玉がありそうだ。アインの母が急に来訪してきた。
第六十一話です。第四章はやっぱり盛りだくさんになりそうです。
今日は王都へ出発する日。俺を含めた対抗戦のメンバーは学院にて盛大な見送りを受けていた。今は学院長が出発前の挨拶をしているところだ。
「諸君らは学院の代表として対抗戦に出場するわけじゃが、気負う必要はない。十分な実力を持っているのじゃから、自信をもって対抗戦に臨むと良い。そうすれば自ずと結果はついてくるじゃろう。」
そう挨拶を締めくくり、メンバーは全員馬車へ乗り込む。
ここから王都まで一週間ほど。そこまで遠くはないが、十分旅と呼べるレベルだ。学院に通う生徒は基本的に貴族なので、旅に耐えられるか不安だったが、冷静に考えたらドレッド領に来るまでにある程度の旅は経験しているため問題ないのだろう。
それに想像以上に快適な旅になりそうだ。馬車も上級生用・下級生用・付き添いの教員用と三台用意されていて、おまけに護衛の冒険者までついている。しかも、馬車自体も貴族用の豪華なもので、座り心地もかなり良い。
もちろん俺は下級生用の馬車で、いつもの通りアイヴィやエスカと一緒だ。
馬車が動き始め、揺れが少ないことを確認すると俺は紙束を鞄から取り出す。すると、隣に座っていたアイヴィが手元の紙をのぞき込んできた。
「それは何ですか?」
アイヴィが質問してくる。そして中をほんの少し読んだのか、しかめっ面をして顔をそらす。この紙にはいろいろな魔法陣に関する考察がつらつらと書かれていて、普通の人が読んで理解できるようなものではない。
「これは今までの実験や研究をまとめた資料だよ。アベル先生やルミーネさんとの共同研究の内容も書かれてるね。いろいろな実験を同時並行で行ってるからこんな風に資料にまとめて定期的に見直しているんだ。忘れちゃいけないからね。」
これは前世の俺からの性だ。こまめに見直すことで新たな発見があったり、あるいは自分でも忘れている内容を思い出したりするために行っている習慣だ。
もう一度アイヴィがのぞき込んでくるが、再びしかめっ面に変わる。
「ダメです。私には何が書いてあるのかさっぱりです。」
「私もさっぱりですね。かろうじて魔法陣のことが書いてあるな、くらいしか分かりません。」
エスカも身を乗り出して紙をのぞき込む。
確かに今読んでいるのは魔法陣に関する基礎研究であるため、二人にとってはさっぱりだろう。しかし、ものによっては二人にも分かる内容はある。
「まあ、これは特に難しい内容だからね。例えば、こっちなら何となく分かるんじゃない。」
そう言って一枚の紙を二人に見えるように取り出す。二人は興味深そうにそれをのぞき込む。
「これは……、設計図ですか?」
「タイトルがありますね。"長距離通信手段の確立について"。通信……?」
あまり聞きなれない言葉だっただろうか。
「それは言ってくれた通り、長距離通信するための魔道具の設計図だよ。通信っていうのは、簡潔に言えば遠方への情報の伝達を瞬時に行うことかな。例えば、王都へ手紙を送るのに現状だと早馬でも数日かかる。それが一瞬で手紙を送ることができると思ってくれたらいいよ。」
「そんなことができるんですか!?」
アイヴィの顔が今度は驚愕に染まる。対照的に、エスカは非常に難しい顔をしている。
「それは……、革命的な魔道具ですわね。ぜひ各領地に置きたいものです。」
きっとエスカはこの魔道具の重要性を理解したようだ。例えでだしたものは日常的な例だが、より有用性を感じられる使い方はやはり軍事利用だろう。情報の瞬時伝達というのは軍事において非常に重要だ。
本当は電話を開発しようと思っていたのだが、現状では技術的に難しいと判断し前世でいう電報の開発を考えたのだ。
しかし、なかなか開発はうまくいっていないのが現状だ。
「それもまだ開発段階なんだよね。ルミーネさんと一緒に作ってるけど、なかなかうまくいってないんだよね。」
文字情報を送る送信機の構想はおおよそできたのだが、受信機の方がなかなかうまくいかない。それと、機密性保持のための暗号化およびその復号についても考えなくてはならず、まだまだ開発には時間がかかりそうだ。
機密性保持とはいっても、今この世界で通信は発達していないので、必要はないのかもしれないが。
そんな風に俺の実験や研究、開発を道中の馬車の中ではいろいろ話したのだった。
一日で王都につくわけではないので、もちろん野営をする必要がある。俺は冒険者の人と一緒に野営の準備をしていた。
「お貴族様なのに野営慣れてるんだな。魔法の腕も確かとなれば低ランクの冒険者の数百倍は頼りになるな。」
そう言うのは護衛の冒険者の一人だ。別に野営に慣れているわけではないが、ヴァレンタイン領からドレッド領へ行くための長い間野営をし続けていたので、嫌でも身についたのだ。
今回護衛についている冒険者はランクはCランクで、以前会ったBランクパーティ『パーツェン』よりランクは下だが、それなりに修羅場をくぐってきたらしい。
そんな野営の準備をしていた時、周囲を警戒していた冒険者が慌てて叫ぶ。
「魔物だ!魔物が接近している!」
「数と種類は?」
リーダー格の冒険者が落ち着いて聞く。
「目測で十程度。ソラウルフです。」
「ソラウルフだと……。十程度なら対処は可能だろう。全員、迎撃態勢をとれ!」
リーダー格の冒険者は少し怪訝な顔をするが、すぐに全員へ号令する。俺はその男に近づき、剣を手に取る。
「お手伝いします。連携の邪魔にならないように動きますので。」
「君の話は聞いているから実力は申し分ない。こちらこそ、頼む。」
そして俺と冒険者は連携をとってソラウルフの群れの迎撃に移るのだった。
ソラウルフを無事殲滅し終わった後、冒険者たちはその死骸の処理を行っていた。そんな中、冒険者パーティのリーダーが浮かない顔をしていたので、俺は話しかける。
「何か気になることでも?」
「ああ、君か。ちょっと奇妙だと思ってな。ソラウルフというのは本来群れない魔物なんだ。戦闘力が高いわけではないが、足が速く、もし危機を感じるとその足の速さを生かして逃げる。そんな性質の魔物なんだ。」
それは妙な話だ。襲ってきた魔物たちは群れを成していたし、群れが全滅するまで俺たちに襲い掛かって来ていた。
「変異種が率いているのかと思ったが、そういうわけではなかった。それにこの魔石を見て見てくれ。」
そう言ってソラウルフの魔石が差し出される。俺はそれを手に取ってよく見てみる。すると、魔石に奇妙な模様が彫られていることに気が付いた。
「これは……、もしかして魔法陣?」
「魔法陣だと?俺は魔法に詳しくないからそれは分からん。だが、ただの魔物というわけではなさそうだ。こんな魔石は今まで見たことがない。」
かなり細かいうえに見にくいからはっきりと言えないが、魔法陣のような痕跡が見て取れる。しかし、この魔法陣自体はさっぱりロジックが分からない。それなりに魔法陣については詳しいと自負しているが、この魔石に彫られた魔法陣らしきものは俺にはさっぱり理解できなかった。
「この魔石、一ついただいても良いですか?」
「もちろんだ。なんだか嫌な予感がする。出来ることなら徹底的に調べてほしい。」
俺は不安を抱きながら、魔石を握りしめる。俺も同じだ、この魔石からは嫌な予感しかしない。
六十一話いかがだったでしょうか。魔石に彫られている魔法陣らしきものの正体とは……?
次回更新は1/24(月)を予定しています。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ:1/22(土)に短編を一つ投稿します。本作とは一切関係ありません。ストーリービジュアルブック大賞に応募する用の恋愛(現実世界)の作品です。もし良かったら読んでいただけたら嬉しいです。




