第六十話:友人、そして来訪
前回のあらすじ:アイヴィとエスカの実力を先輩たちに見せた。二人の友情はより深まったようだ。
お久しぶりです。第六十話です。しばらく書いていない間に細かい部分が頭から抜け落ちてしまって、なかなか書くのに苦労しました。
追記:"双子の聖女"の姉の名前をジンからリンに変更しました。理由はアインの父親と名前が被っていたためです。
<三人称視点>
「随分と機嫌が良さそうじゃない。何を考えてたの?」
「いや、今度の対抗戦が楽しみでな。メンバー見たか?噂になってるアインシュ=ヴァレンタインも出るらしいし、面白くなりそうだ。」
王都にある第一魔法学院のとある教室。第二王子のレオ=ノーベルは、双子の聖女の姉リン=ライトの質問に心底楽しそうな顔をして答える。
「そっちは面白くなりそうよね。私たちの方は大して期待できないかな。去年も私たちに惨敗した二人に、一年生二人のペアでしょ?アインシュ=ヴァレンタインがこっちに出てくれればよかったのに。」
「そんなこと言わない方が良いと思うよ、お姉ちゃん。」
双子の聖女の妹であるルン=ライトは姉のリンをたしなめる。しかし、そう考えてしまうのも無理はないのかもしれない。彼らは一年生のころから対抗戦に出場してきて、それから第一魔法学院は無敗。毎年圧勝してきていたのだから。
おまけに今回のルールは明らかに第一魔法学院に有利なものだ。一対一はともかく、二対二のルールでこの二人に勝てる者は大人を含めてもそうはいないだろう。
「油断して足をすくわれるなよ。お前らなら心配はいらないだろうが。」
「当然よ。勝負で手を抜くなんてありえないわ。二度と戦いたいと思わないように徹底的に叩き潰すわ。」
レオは肩をすくめる。怖い考えをしているリンにあきれているようだ。
「それに、今年からはあの子も出るんでしょ?万が一にも第一魔法学院が負けることは考えられないわ。」
「あいつは性格に難があるが、実力は確かだからな。個人的には無詠唱を扱えるアインシュ=ヴァレンタインとの戦いを見てみたいものだが。」
「私もそのカードが見たいかな。組み合わせは完全に運だからどうなるか分からないけど。」
妹のルンも同じように考えているようだ。姉のリンも納得したという風に大きくうなずく。
「無詠唱魔法を実際に見たことがないからどんなものなのか知らないが、あいつとどっちがより早いんだろうな?」
<アイン視点>
対抗戦が近づいてきたある日、俺はいつも通りアイヴィとエスカに魔法を教えていたのだが、こちらに向かってくる寮の管理人の姿が見えた。
「アイン君。君に来客だよ。」
「来客?」
もしかして俺が予定を忘れてしまっていたのだろうか?いや、誰かと会う予定はなかったはずだ。
「お母さまが来てるよ。早くいってあげなさい。」
「か、母さんが!?」
動揺を隠しきれない。以前手紙をもらったときはそんなこと一切書いていなかった。俺はアイヴィとエスカの方に向き直り、慌てて両手を合わせて謝る。
「ごめん!ちょっと行かないといけないから今日はこれまでにしよう!」
俺の慌てた様子に二人は少しきょとんとするが、数瞬の後二人はクスリと笑う。
「気にしないでください。早くお母さまのところに行ってあげてください。」
「そうですわ。なかなか会えないんですから、久しぶりの再会を楽しんでください。」
俺は急いで片づけを行い、寮へ向かう。俺が去る直前に二人が、「抜け駆けはなしですよ」「そちらこそ」という会話が聞こえてきたが、何も聞こえないふりしてただ走った。
寮の待合室に入ると、優雅に紅茶を飲んでいる母さんの姿があった。俺が入ってきたことに気づいてゆっくりと紅茶を置く。
「久しぶり、母さん。どうしたの急に。連絡もなかったからすごい驚いたよ。」
「ふふ。アインを驚かせたくてつい、ね。」
本当に心臓が飛び跳ねるかと思った。母さんと対面するように俺もソファに座り込む。何だかすでに疲れた。
「それで、どうして来たの?こっちで何か用事が?」
「あら、母親が息子に会いに来るのはいけないこと?……ふふ、冗談よ。いろいろ用事があるのは確かよ。」
母さんが真剣な顔して座りなおす。いつになく真剣な様子に俺はごくりと息をのむ。
「アインが対抗戦に出るって聞いてね。親としてこれは観に行かなくてはならないと思ったのよ。アインなら来年以降も出られるでしょうけど、やっぱり初めての対抗戦は見たいじゃない?」
その返答に俺は思わずずっこけるような感覚を覚えた。ヴァレンタイン領からここ、そして王都までどれだけ遠いと思ってるんだ。
いや、ちょっと待て。俺は矛盾に気づく。今このドレッド領についているということはかなり前にヴァレンタイン領を出発していたはずだ。その時には俺の対抗戦出場は決まっていなかったはず。だったら、この理由もふざけて行っているだけに違いない。
そこまで考え付いた俺は思わずジト目で母さんを見る。
「そんな目で見ないでちょうだい。もともとは王都に住んでいるとある貴族に会いに行く予定だったの。でも、アインが対抗戦に出るって聞いてそっちの方が"ついで"になっちゃった。もちろん、あの人は仕事があるからこっちには来れないけど。」
ふざけた口調で言ってはいるが、王都までわざわざ会いに行くほどの貴族。それにこの間聞いたばかりの世界情勢。それらを鑑みると、ただ事ではないということが推測される。
俺のそんな表情を読み取ったのか、母さんは俺に優しく微笑みかける。
「そんなに心配する必要はないわ。真面目な話をするのは確かだけど、貴族としての付き合いという意味が大半よ。ほんと、貴族って嫌になるわ。」
それは貴族が言っていいセリフではないと思う。だが、母さんがいつもの調子で少し安心した。と思って安心していると、今度は母さんの攻撃が始まった。
「それに、人を心配させているのはあなたの方でしょう、アイン。どういうこと?学院で魔族を討伐するって。それにクーデターの鎮圧にも協力したとか。私がどれほど心配したと思ってるの?」
俺は思わず目をそらす。隠すわけにもいかないので、いろいろ濁しつつも手紙で事のあらましを説明していたのだ。なるべく心配させないような言葉を選んだつもりではあったが、母さんにはお見通しだったらしい。
「まあ、どちらも女の子を助けるためだったということなので、怒るつもりはないけど。そうだ、その話も聞きたいわ。ヨーダとラットの話ではまだ進展には時間がかかりそうってことだったけど、実際のところどうなの?すっごく気になるわ。」
あのバカ兄共めが……。前会った時の様子を考えると、あることないこと吹きこんでいる可能性がある。正しい認識に直すようにきちんと説明しなくては。
それからは久しぶりの親子の会話に花を咲かせることができたのだった。
第六十話いかがだったでしょうか。急に母親が来るとめちゃくちゃびっくりしますよね。一人暮らし始めたころは、よく母が急にやってきてびっくりすることが多かったです。
次回更新は1/21(金)を予定しています。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ:活動報告の方に書きましたが、新作の短編を一つと連載を近いうちに始めようと思っています。ですが、こちらがメインで更新して新作の方は不定期にするつもりです。読んでいただけたら嬉しいです。




