第五十七話:情勢、そして生徒会長
前回のあらすじ:アイン達とともに依頼を達成した冒険者パーティはヴァレンタイン領へ向かう。その道中で怪しい連中と出会う。
第五十七話です。第四章「学院対抗戦編」の始まりです。
夏季休暇が終わった。学院の授業が始まったが、俺の日常はそこまで大差ない。
朝起きたら軽い訓練をして、学院の授業を受ける。その後、いろいろな実験を行いつつアイヴィとエスカに魔法を教える。さらに剣と魔法を交えた訓練をして一日が終わる。そんな端から見れば単調に見える日常は、俺にとって非常に充実したものであった。
今日もそんないつも通りの日常を行っていた放課後、一人の来訪者によって俺の"いつも通りの日常"は変化することとなる。
「こんにちは、アインシュ=ヴァレンタイン君。ちょっと話をしたいんだけど良いかな?」
話しかけてきたのは一人の若い青年。その顔に見覚えは何となくある気がするが、全然思い出せない。俺達より少し年上といったところだろうか。誰だろうかと怪訝そうな顔をしていると、その青年も困惑の顔を見せる。
「えっと覚えてないかな。入学式の時に挨拶したと思うんだけど。」
入学式、挨拶。その言葉を聞いてようやく思い出す。
「あっ、生徒会長。」
俺の言葉に青年はほっと安堵の息を漏らす。
入学式の挨拶以降一回も顔を見ることがなかったため、完全に忘れてしまっていた。だが、それはそれで妙な話だ。いろいろな事件があって、良くも悪くも目立ってしまっている俺が一度も顔を見ていないなんてことあるのだろうか。
「じゃあ改めて自己紹介をするね。僕の名前はアイズ=フロスト。この第二魔法学院の生徒会長を務めている。春の間は魔法省の仕事の手伝いに行っていてね。僕が学院を空けている間にいろいろ大変だったことは聞いているよ。君のすごさもね。」
魔法省の仕事の手伝い?学院の生徒が手伝いに行くような状況が想像できない。そこまで人手不足なのだろうか。
「ああ、勘違いしてもらっては困る。僕は卒業後、魔法省に勤めることが決まっていてね。体験就業という感じかな。」
なるほど、前世でいうインターンシップのようなものか。魔法省の内定をもらっているなんてさすがだ。
魔族の襲撃や教師の不祥事に対して生徒会長が何もしなかったのは、そもそも学院に居なかったからということか。
「それで、その生徒会長が僕に何のようでしょうか。諸々の事件についての話ならもう散々いろいろな人に話したので、情報は得られると思うんですけど。」
「君から直接話を聞いてみたい気持ちはあるけど、今日の用はそれじゃない。というか今の時期に僕が声をかけている時点で予想はついているんじゃないか?」
時期が関係あること?何かあっただろうか。さっぱり思いつかない。
自慢じゃないが俺は世情に疎い。幼少期から魔法の本ばかり読んで、少し大きくなってからは魔法の研究に剣の訓練といろいろなことをやってきたからだ。
学院に入ってからは町に出たりもしているが、季節の行事などについては地元のもの以外はさっぱり知らない。いや、季節の祭りなどの代表的なものは知っているが、俺が関係ありそうな行事については皆目見当がつかない。
俺の反応に生徒会長が頭を抱える。その様子を見たアイヴィが恐る恐る口を開く。
「もしかして、対抗戦の件でしょうか?」
「そう!それだよ!」
アイヴィの言葉にパッと明るい顔を浮かべ、アイヴィの方を指さす。
「学院の恒例行事にして、学院の威信をかけた最大の行事である学院対抗戦。休暇あけたくらいから掲示板に告知されてたと思うんだけど、見てないかい?」
そういえばやたらと掲示板の前で人がたむろしていたのは見た記憶がある。しかしその人混みに割って入るのが面倒だったので、結局内容は確認せずにいたのだった。
俺の様子に生徒会長が再び頭を抱える。アイヴィでさえ苦笑いを浮かべている状況だ。エスカもやれやれといった感じで話し始める。
「王都にある第一魔法学院と私たち第二魔法学院。この二校がともに高め合うことを目的に行われているのが学院対抗戦です。毎年行われている学院の行事としては間違いなく最大のものですね。というか、アイン君は何で知らないんでしょうか?最近はいろいろなところで話題になっていたと思うんですけど……。」
エスカの言葉が非常に刺さる。仕方ないだろう。今はいろいろな実験を同時並行で行っているため、他に脳のキャパシティーを割く余裕がないのだ。それと俺は交友関係が広いわけではないので、そんな話をするような人がいなかったのだ。
全員の冷たい視線に思わず俺は目をそらす。
「ま、まあだいたい要件は分かってもらえたかな。アインシュ=ヴァレンタイン君、君は学院対抗戦のメンバーに選ばれた。ぜひ第二魔法学院のために君の力を貸してほしい。」
この流れには覚えがある。どうせいつもの断れないやつだ。しかしそれでも、わずかな抵抗はさせてもらおう。
「本来こういうのって上級生が選ばれるものなんじゃないんですか?」
「それは間違いない。実際、この対抗戦で優秀な成績を収めたら良いところに就職できることが多い。けど、そうも言ってられないんだ。ここ数年の対抗戦の成績は知ってるかい?」
俺は首を横に振る。そもそも対抗戦の存在を知らない人間が成績など知っているはずがない。俺は助けを求めるようにエスカを見る。
「確かここ三年ほど、第二魔法学院は負け続けていますね。」
「そう。しかもそれは僕が対抗戦に出始めてからなんだよね。まるで僕のせいだと言われているような気分だよ……。」
生徒会長の声がどんどん暗くなっていく。
「これ以上負け続けると第二魔法学院の沽券にかかわる。学院長もそれを心配して本格的にテコ入れを考えているようなんだ。だから、学年なんて考えない。とはいえ、君の実力ならそうじゃなくても選ばれていただろうけど。」
「私は実際に見たわけではないですが、最近の第一魔法学院は歴代最強とまで言われている用ですね。それもあってアイン君の力を貸してほしいということなのでしょう。」
エスカが機嫌良さそうに言葉を続ける。というか第一魔法学院にはそこまで人材が充実しているのか。
「そうだね。第一魔法学院には第二王子のレオ=ノーベル。双子の聖女のジン=ライトにルン=ライト。この三人がはっきり言って規格外だ。おまけに今回は第一魔法学院に有利なルールと来た。」
生徒会長はとても嫌そうな顔をしている。彼らによほど苦手意識があるのだろう。ルールについては知らないのだが、どういうルールなのだろうか。
「公平を期すために、ルールは各校が一年ずつ交代で決めていくんだ。去年は第二魔法学院がルールを決めたから、今年は第一魔法学院の番なんだ。ルールは一対一および二対二のトーナメントだ。一対一は各校から二人、二対二は各校から二組の計六人を代表として選出するんだ。」
なるほど。先ほどの言葉から察するに、一対一に第二王子、二対二に双子の聖女とやらが出てくるのだろう。今までの結果から鑑みるに、第一魔法学院が圧倒的に有利ということか。
「ちなみに、もし俺が出るとしたらどちらに?」
「当然、一対一だね。僕もそちらに出ることになるから一対一はメンバーは決定だね。」
つまりは第二王子と戦う可能性があるということか。
俺は逡巡する。現在進めている実験はいろいろあるが、緊急性の高いものは多くない。それに規格外とまで言われている人たちの魔法というのも非常に興味深い。
「分かりました。やってみましょう。」
第五十七話いかがだったでしょうか。新キャラの名前を考えるのが一番時間がかかります。最近本当に寒いので、皆様体調にお気を付けください。ちなみに自分は現在進行形で風邪気味です。
次回更新は12/22(水)の予定ですが、体調によって12/24(金)になるかもしれません。読んでいただけたら嬉しいです。
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お知らせ(再掲):年末の更新は12/24(金)が最後になる予定です。年始の更新については未定です。




