閑話:冒険者たちのその後
前回のあらすじ:隣国である帝国の動きが怪しいらしい。
閑話です。アイン達と依頼をこなした冒険者パーティのその後です。
「それにしても、アイン君って本当に規格外って感じだったよね。」
「確かに。正直あそこまでとは思ってなかった。冒険者になればSランクだって夢じゃないだろうな。剣も使えて魔法も使える人材なんて今まで一人もいなかったわけだし。」
俺たちはBランク冒険者パーティ『パーツェン』だ。今仲間達の間で話題になっているのは、つい先日力を貸してもらった貴族の少年アインシュ=ヴァレンタインのことだ。
彼は俺たちの想像を超える働きを見せてくれて、無事に難易度の高い依頼を達成することができた。彼の実力は目を見張るものであり、誰もが想像すらしていなかった領域に至ろうとしていることは明らかだった。
「さあ、無駄口をたたくのはこれまでだ。そろそろ出発するぞ。」
俺たちはこれからドレッド領を発つ。行先は先ほど話題になっていたアインシュ=ヴァレンタインの故郷であるヴァレンタイン領だ。
帝国の動きが最近怪しいとは聞いている。そのために国境付近に騎士たちが配備されているために、人手が足りなくなっているそうだ。今では冒険者もそれなりに良い条件で仕事をもらえるようなので、俺たちもそれにあやかろうというわけだ。
「そういえばリーダー。新しい魔法使いとはあっちで合流する約束になってるんだよな?」
「ああ。幸いフリーの魔法使いがパーティを探しているようでな。その人がヴァレンタイン領を拠点にしているらしいから今回の件はちょうどいいわけだ。」
パーティの魔法使いが引退してから、俺たちは魔法を使える人間が少なく、依頼が困難になる場合も多々あった。幸いアイン君が手伝ってくれたことによって、前回の依頼は何とかなった。しかし、これからも都合よく助っ人が見つかるとは限らない。
ヴァレンタイン領にいるというフリーの魔術師は凄腕ではないが、基本的な魔法をいろいろ使え対応力に優れているらしい。
他に攻撃魔法を使える人間がいないため、いろいろな魔法を使える人材というのは非常にありがたい。会うのが今から楽しみだ。
「よし、こっちの準備はできた。出発するぞ。カイル、荷物はちゃんと積み込んでるよな。」
カイルは準備万端とばかりに大きくうなずく。俺たちはヴァレンタイン領へ向かって出発した。
街道は基本的に整備されていて、定期的に魔物も討伐されているのでめったに道中で魔物に襲われることはない。
もちろん盗賊など警戒すべき対象は他にもあるが、金を持っている商人ではなく屈強な冒険者を襲うような輩は滅多にいないだろう。
ヴァレンタイン領へと向かう道の途中、俺たちは暗くなってきたので野営の準備をしていた。簡易的なかまどを適当な石で作り火をおこす。その火を使って事前に狩った野生の獣を焼いて、簡単だが料理をする。
「リーダーの料理は大雑把なんだよな。せめて塩とかで味付けしようぜ。」
「そうね。私はエルほど濃い味が好きというわけではないけど、さすがにもうちょっと味が欲しくなるわね。」
エルとエヴァにそんなことを言われてしまう。
「塩っ気が欲しいなら干し肉でもかむんだな。昔よりはマシになったとはいえ、まだまだ塩は高いからな。それに俺は料理は得意じゃないことは知ってるだろう。」
二人はやれやれと言った顔で、肩をすくめる。カイルは無言で焼いた肉をかじっている。何も言っていないが、何となくだがわずかに不満を感じているような顔だ。
「お前らなぁ。そこまで言うんだったら自分で料理したらいいだろうが、この料理音痴ども!」
俺に対していろいろ言っているが、こいつらも料理はできない。前までパーティにいた魔法使いが料理も担当していたのだ。あいつが抜けてからはドレッド領の町から日帰りでできる程度の依頼しか受けていなかったので問題はなかったのである。
加入予定の魔法使いが料理得意であればよいのだが、そうでない場合にはきちんと考える必要がありそうだ。いや、魔法使い一人に料理の負担を押し付けるのも良くないのかもしれない。やはり料理の件を何とかするように考えておこう。
そんな風に雑談をしていると急にエルの目が鋭く光る。
「どうかしたか、エル?」
「いや、何か近づいてくる気配が……。これは旅人か?街道をまっすぐ歩いてくるようだ。」
全員が不測の事態に備え身構える。普通の旅人であれば野営の準備をして休息をとっている頃だ。こんな時間でも街道を進んでいるなんて、よっぽど急ぐ理由があるか闇夜に隠れて移動する必要があるかのどちらかだ。
気配が近づいてくる。どうやら人数は二人のようだ。フードを深くかぶっているようでよく顔を見ることができない。
俺は二人の旅人に近づいて声をかける。
「おい、あんたら。もう夜も遅くなってきたし野営の準備でもした方が良いんじゃないか?」
「これは親切にどうも。ですが問題ありません。夜には慣れてますから。」
少し高い男性の声だ。後ろの人は無言を貫いている。
冒険者としての勘が告げている。この二人はかなりの実力者だ。だが、冒険者的な強さではない。この感じはどちらかというと……、魔物に感じるような強さだ。
「だが、休まないと効率も悪いだろう。野営の道具が足りないなら少しなら貸してやる。俺たちのことを怪しんでるなら少し離れた場所で野営すれば良い。」
言葉でけん制する。後ろの仲間たちも警戒を解かず、俺の合図を待っている。
「問題ないと言っているでしょう。しつこいですよ。」
「だが……。」
男が一つため息をついて、フードをとる。その顔に俺たちは驚愕する。俺たちのかまどの火が光源になっているため赤く見えるが、それでも分かるほどの異常な顔色。
魔族だ。
俺たちは全員剣を抜き身構える。何でこんなところに魔族がいるのか分からないが、正体を知ってしまったからには戦闘になるだろう。
魔族の男は眉をひそめ、両手を前に広げる。
「いえいえ、あなたたちと戦うつもりはありませんよ。どうせ"戦い"になどならないんですから。」
急に意識が遠のき、俺は膝をつく。何とか首を回し周囲を見るが、他の仲間たちも同じように苦しみ、倒れ伏している。
「なるほど、こうなるのですか。私たちのことが広まってしまうと面倒ですね。少し記憶もいじっておきましょうか。」
「……」
「大丈夫です。私たちと会った記憶を消すだけですから、心配はいりませんよ。」
俺たちの意識はそのまま完全に落ちた。
目を覚ます。どうやら俺たちは全員寝てしまっていたらしい。いくら街道沿いが危険は少ないとはいえ、見張りもなしに全員が寝てしまうなんて危機感が足りていないのかもしれない。
「お前ら、全員目を覚ませ!さっさと出発の準備をするぞ。」
俺の号令に全員が頭を押さえながら、起き上がる。全員寝てしまう前の記憶があいまいだが、何も無くなっていないし体に異変もない。
違和感を感じながらも俺たちは出発の準備を進めるのだった。
閑話いかがだったでしょうか。謎の魔族にもう一人のフード、一体何者なんでしょうか。彼らの正体はまだまだ先になると思います。そして、次回から第四章「学院対抗戦編」がスタートします。
次回更新は12/20(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ(再掲):年末の更新は12/24(金)が最後になる予定です。年始の更新については未定です。




