第五十五話:訓練、そして騎士団長
前回のあらすじ:騎士団の訓練に参加するが、騎士の一人から嫌がらせのようなものを受ける。
五十五話目です。タレス騎士団長との模擬戦です。
打ち込みの相手をしていた騎士の態度に少しげんなりとしていると、タレス騎士団長がこちらに歩み寄ってきた。
「先ほどの様子は見ていた。なかなか面白い光景だったな。」
見ていたのか。これは訓練なので、全力でやること自体は悪いことではない。なので、注意してほしいとは言えないが、文句を言いたくなってしまうのは仕方ないだろう。
「さて、君は騎士の剣技を実際に受けてみたわけだが、どう感じた?率直な感想を聞かせてほしい。」
率直な感想か……。気になる点はもちろんある。
「柔軟性に欠けるというかなんというか……。俺の教わった剣術とは全く異なると感じました。」
「ふむ、そうだろうな。自分の強みを押し付けると言えば聞こえは良いが、ちょっと固すぎると私も感じている。だからこそ君を呼んだのだ。"自由"な剣を持つ君は我々騎士団にとって良い刺激になるだろうから。」
"自由"な剣か……。確かに俺の剣術は状況によって臨機応変に変えるものなので、騎士団の人にとって異質なものであることは間違いない。
「次は模擬戦だ。君の相手は私がする。今度は魔法を使ってもらっても構わない。全力でかかってきなさい。」
タレス騎士団長と模擬戦だって?魔法を使っていいとはいえ、騎士団長の実力は他の騎士たちとは比べ物にならないはずだ。騎士団長の狙いがいまいち分からない。
俺の困惑をよそに騎士団長は全員に告げる。
「次の模擬戦だが、まずは私とアイン君が最初に試合を行う。全員最初はその試合を見学するように。」
「ちょっと待ってください!その子供は騎士団長の相手を務まるほどの実力はありません。だったら私が……。」
「ほう……。では君は模擬戦でアイン君に勝つことができると……?」
打ち込みで俺の相手をしていた騎士が騎士団長に意見するが、騎士団長の鋭い視線にわずかに気圧される。しかし、それでもなお騎士団長への意見を止めない。
「ええ。先ほどの打ち込みを見るに、模擬戦でも私が勝つに違いありません。彼の剣術は卑怯な"逃げ"の剣に過ぎません。なので、我々騎士の剣術が負けることなどありえない。」
"逃げ"とは随分な言い様だ。確かに単純な剣の勝負なら、体も出来上がっていない俺は勝てないだろう。しかし、騎士団長の言いたいことはおそらくそれではない。
騎士団長はため息をつきながら忠告する。
「君は勘違いしている。アイン君は魔法学院の生徒で、騎士学院の生徒ではない。彼の本当の実力は魔法込みの戦闘においてこそ発揮される。それを分かっての発言かな?」
「うっ……。」
騎士団長の威圧が強くなる。強気な態度だったをしていた騎士もすっかり尻込みしてしまっている。
再び騎士団長がため息をつく。
「はあ。まあいい。先ほども言ったように騎士たちはこの模擬戦を見学しておくんだ。見ていればきっと分かるだろう。」
話は終わりだと言わんばかりに騎士団長は俺から距離をとる。その様子に反応して、周囲の騎士たちが俺と騎士団長を囲むように動く。
騎士団長が俺の方を振り返る。その顔は先ほどまでより一層真剣なものになっていた。
「さあ、始めようか。いつでもかかってきなさい。」
騎士団長が魔剣を手に構えをとる。多少の怪我は治癒魔法で治すことができるので、真剣を用いるらしい。俺も愛用の剣を手に取り、いつも通りの構えをとる。
ゆっくりと息を吐き、身体強化の魔法を発動し一瞬で距離を詰める。その勢いのままに俺は剣を振り下ろすが、騎士団長は余裕をもってそれを受け止める。
先ほどまでと俺の速さが段違いであることに気づいたのか、騎士たちは息をのむ。
騎士団長の持つ魔剣は俺の片手用の剣ではなく両手で使う大剣だ。そのため、剣を振る速度であれば俺の方が早いはずなのだが最小限の動きだけで防がれてしまう。こういっては何だが、先ほどの騎士とは実力が天と地ほどの差がある。
身体強化だけでは騎士団長の牙城は崩せない。俺は後ろに飛び退き、一度距離をとる。そして剣を持っていない左手を前に突き出して火球の魔法を発動させる。複数の火球が勢いよく騎士団長に飛んでいくが、魔剣の一振りと同時に突風が発動し俺の魔法をかき消していく。
「無詠唱魔法があれほどの速度で発動できるだと……。」
「いや、そんなことよりあの身体能力はどういうことだ?さっきまでと動きが全然違うぞ。」
周囲の騎士たちのそんな声が聞こえてくる。しかし、俺はそれを気に留める余裕はない。
再び火球の魔法を発動し、俺はその火球に合わせて騎士団長の懐に飛び込んでいく。
先ほどと同じように騎士団長は火球を消すが、今度はそれだけで終わらない。一気に懐に飛び込んだ俺は剣を振るう。
「火球を目くらましにする。君ならそうしてくると思っていたよ。」
少しも動揺することなく俺の剣を受け止める。俺としては渾身の一撃のつもりだったのだが、全く通用していない。本当に騎士団長の実力は規格外だと思い知らされる。
「さて、防いでいてばかりでは打ち込みと変わりないな。今度はこちらから行かせてもらおう。」
つばぜり合いの状況ではあるが、騎士団長は余裕の表情である。
騎士団長は俺を風の魔法で弾き飛ばす。ノータイムで魔法を使えるのは俺だけじゃない。魔剣の力を用いる騎士団長も同様なのだ。
俺は空中で態勢を立て直して地面に着地する。顔を上げると目の前には今にも切りかからんとする騎士団長の姿が見えた。
「やばっ!」
態勢がまだ万全じゃない以上、受けるのは得策じゃない。だったら、避けるしかない!
俺は風の魔法で自身を横に吹き飛ばす。騎士団長の魔剣は誰もいなくなった空間に振り下ろされる。さすがに予想外だったようで騎士団長の顔が驚愕に染まる。
俺は地面を転がりながら、座標を計算する。
騎士団長はすぐに平静を取り戻し、俺に追撃しようと剣を構え一息で近づいてくる。
俺の体勢は完全に崩れている。そのまま剣を突き立てられたら為す術もない、はずだった。
騎士団長の魔剣は再び空を切り、俺は騎士団長の背後から剣を突き立てる。転移魔法を用いた完璧な不意打ちだ。俺は勝ちを確信する。
次の瞬間、俺の剣は弾き飛ばされ、首元には騎士団長の魔剣が突き付けられていた。
「模擬戦はここまでだ。やはり君は強いな。私が今まで戦ってきた相手の中でも、厄介さという点では上位に食い込むだろうな。」
俺は全身の力が抜けて地面にしりもちを着く。完璧なタイミングでの不意打ちだったはずだが、どうして反応することができたのだろうか?
「私が反応できたことを疑問に思っている顔だな。君が転移魔法を使えることは知っていたし、君の目が死んでいなかったからね。あの状況を打破しうる一手として転移魔法を使うだろうと予想していたのさ。まあ、ほとんど勘だったがな。」
そういって騎士団長は笑う。悔しいけど完敗だ。
五十五話いかがだったでしょうか。どちらを勝ちにするか悩んだ結果、さいころで勝敗を決めました。その結果騎士団長が勝利しましたが、もしアインが勝っていた場合、転移魔法の攻撃をよけきれない風にする予定でした。
次回更新は12/15(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ(再掲):年末の更新は12/24(金)が最後になる予定です。年始の更新については未定です。




