第五十四話:防御、そして訓練
前回のあらすじ:魔法の防御方法について実験をした結果、魔法は周囲に魔力をまとっているのではないかという知見を得た。
五十四話目です。騎士団の訓練に参加します。
夏季休暇も終わりに近づき、今日はドレッド領騎士団にお邪魔していた。夏季休暇の最初の方から計画していた、騎士団の訓練を体験させてもらおうという話だ。
「お久しぶりです、タレス騎士団長。あの時以来ですね。今日はよろしくお願いします。」
「そうだな。あの時はいろいろ大変だったが、お互い大事なくてよかった。」
あの時というのはもちろんエスカの事件のことだ。エスカの姿をした魔王と一緒に戦ったのは記憶に新しい。
タレス騎士団長についていき、騎士団の訓練場まで歩いていく。訓練場では大勢の騎士が互いに剣を打ちあっていたり、的に対して打ち込みの練習をしたりしていた。
やはりというべきか騎士団のレベルは非常に高い。それも当然だ。騎士学校できちんと剣の指導を受け、しっかりと訓練をしてきた人間が騎士団に入っているのだから。
タレス騎士団長が訓練場にやってきたのに気づいたのか、全員の空気がピリッとひりついたのを感じた。一人の騎士が訓練を中断しこちらに歩いてくる。
「団長、そちらが噂の……?」
「ああ、こちらがアインシュ=ヴァレンタイン君だ。今日は騎士団の訓練を経験してもらう。まだ学生だが手加減は必要ないぞ。剣の実力だけでも、騎士学院の上位層レベルだからな。私が保証する。」
「アインシュ=ヴァレンタインです。今日はよろしくお願いします。」
その男は鋭い目つきで一つうなずくと、周囲に号令をかける。
「では全体訓練を始める。まずは走り込みからだ。今日は一人騎士団の訓練を体験しに来た学生がいるが、良いところを見せようと妙に張り切ったりするな。いつも通りの訓練だ。」
そういって全員で走り込みを始める。かなりペースは速いが、何とかついていける速さだ。
騎士団は基礎的な体力もかなり重要視しているようで、走り込みの後にも筋トレなど地味だが効率的なトレーニングを多くする。普段俺がしているような訓練よりはるかに厳しい訓練でついていくのがやっとだ。
基礎的なトレーニングが終わる頃には俺は息も絶え絶えになってしまっていた。
そんな俺の様子を見て、一人の騎士が口を開く。
「まあ、学生にしてはついて来れてる方なんじゃないですか?でも、まだまだですね。基礎体力が全く足りていない。」
妙に嫌みったらしい口調だ。確かに今の俺は騎士ほどの体力はないかもしれないが、そもそも年齢的にもまだ成長期だ。これから体が出来上がっていくので、現状で体力が足りていないのは仕方ない。
しかし、ここで言い返してもただの言い訳に過ぎなくなるので俺は黙っておく。俺の様子につまらないと言わんばかりにそっぽを向いていった。
「無駄口をたたくな。次は素振りだ。全員並べ!」
号令に合わせて全員がきれいに並び、剣の構えをとる。騎士団の剣術は全く知らないので、俺だけは父さんから教わった構えを取り、掛け声に合わせて剣を振る。できる限り実戦を意識して、仮想的な敵をイメージしながら素振りを続ける。
一体どれだけ剣を振るっただろうか。さすがに騎士団の訓練というだけあって、いつもの訓練よりはるかに厳しい。そう考えると、子供のころの父さんが俺に施してくれた訓練は小さい子供にしては厳しいものだったかもしれないが、まだまだ優しいものだったのだと思い知らされる。
素振りが終わり、次は打ち込みに入る。一方が攻撃役、もう一方が守備役になり剣を打ちこんだり、それを防いだりする訓練だ。
先ほど嫌味を言ってきた騎士が俺に声をかけ、打ち込みの相手になってくれる。まずは俺が攻撃役で、彼が防御役だ。
「遠慮はいらない。さあ、いくらでも打ち込んで来い。」
その言葉を皮切りに俺は勢いよく彼に切りかかる。さすがは騎士という感じで、俺の攻撃はことごとく防がれてしまう。
ちなみに今は身体強化も含めて魔法は一切使っていない。これは事前にタレス騎士団長に言われていたからだ。騎士の訓練には基礎体力を重視しているものが多いので、魔法を使って楽をするのは良くないということだ。
何とか一発でも打ち込もうといろいろと工夫をしてみるが、さすがの身体能力でギリギリのところで防がれてしまった。
俺はそこで奇妙な感覚を得た。確かに騎士の防御は堅かったが、俺の工夫に対して少し焦っているような様子が見られたのだ。もしかしたら騎士は剣術自体が型にはまっているため、臨機応変な対応などが苦手なのかもしれない。
最終的に一発もまともに入らず、攻守を交代した。次は俺が防御役だ。
始まると同時に、相手の騎士が勢いよく突っ込んでくる。あまりにも猪突猛進な動きに戸惑ってしまい一瞬反応が遅れてしまう。
剣が振り下ろされる。反応が遅れたために俺は剣で受けることしかできない。つばぜり合いの状況になるが、力の差で徐々に押されてしまう。このままではやられると感じ、俺は騎士の剣をはじくようにして後ろに下がる。
単純な力勝負になっては受けることすら怪しい。俺は受け止めるのではなく、受け流すように戦い方を変える。
騎士の件は良くも悪くもまっすぐだ。受け流すことに集中すれば防ぐことは難しくない。とはいっても、剣を振る速度も俺とは段違いなためもう一度受けてしまえばそのまま押し切られるだろう。
「このっ!卑怯だぞ!きちんと受けろ!」
冗談じゃない。訓練とはいえ、身体能力の差がありすぎる。何だったら受け流した後にカウンターを打ちたいのを抑えているくらいだ。
そんなことを考えていると、ほんの一瞬隙が生まれてしまった。その隙を逃してくれるほど甘くなく横なぎに剣が振るわれる。何とか剣を差し込むことができたが、勢いを殺すことができず俺は吹き飛ばされてしまった。
俺が吹き飛ばされると同時に号令が飛んで、撃ちあいの訓練が終了となる。俺はゆっくりと立ち上がり、服についた土ぼこりを払う。
相手の騎士はというとこちらに手を差し伸べることすらせず、勝ち誇ったような顔をして他の騎士たちのもとへ歩いて行った。
五十四話いかがだったでしょうか。少し短いかもしれませんが、この先の部分まで入れたらキリのいい部分までかなり長くなってしまうので今日はここまでにします。皆さんお忘れかもしれませんが、アイン君は現在十歳です。大人の騎士に(魔法なしでは)勝てるわけありません。
次回更新は12/13(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ:年末年始の更新についてですが、年末は12/24(金)の更新を最後にします。年始の更新についてはまだ未定です。




