第五十三話:変異種、そして防御
前回のあらすじ:変異種のレイスを討伐した。
五十三話目です。あっさりとしていますが、ジョージ達と別れアインは新たな実験を行います。
変異種のレイスを倒して階段を上がり、神官のエヴァと斥候のエルと合流する。そして俺とジョージがカールに肩を貸している姿を見て即座に治療に入る。
幸い傷自体は深くなかったため、エヴァの治癒魔法で簡単に治療が終わる。ようやく一息つくことができた俺たちは心なしか明るい雰囲気になったような屋敷の外に出る。
大きく背伸びをしながらジョージが口を開く。
「うーん。十分な数の魔物を倒したし、これで依頼達成として良いだろう。街に帰ろう。」
その言葉に一行は歓喜の声を上げる。
「やっとかよ。最初依頼を見たときは、報酬も高くて割のいい依頼だと思ってたけど想像以上に面倒だったな。」
「本当ね。でもあいつがパーティを抜けるって言ったときはどうしようかと思ったけど、アイン君が手伝ってくれたから何とかなったわ。ありがとうね。」
「いえ、俺にとっても良い経験でした。あまりパーティでの戦闘というのはしたことなかったので、前衛を張ってくれる人がいるとこんなに戦いやすくなるんだなと感動しています。」
「そう言ってくれると前衛としては冥利に尽きるな。カールもそう思うだろう。」
カールが無言で大きくうなずく。変異種に関しては例外だが、あれだけ前衛が時間を稼いでくれているなら、例え詠唱を必要とする魔法使いでも十分戦うことができるだろう。
だが、これはジョージとカールが優秀な前衛だったからの話で、もし低ランクのパーティだったならこう上手くはいかないだろう。前衛が崩れてしまえば詠唱をする余裕もなく、魔法を発動できないから攻撃もままならない、という負のループに陥ってしまうだろう。
「にしてもアイン君の魔法は想像以上だったな。馬鹿みたいな噂は別として、大体の噂を超えていた。そうだ、学院を卒業したら冒険者にならないか?君なら大歓迎だ。」
カールが大きくうなずき、予想外だったがエルも同意する。
「確かに。最初は貴族の子供が大して実力もないのにイキってるだけだと思ったが、こいつは本当に別物だった。初対面の時に冷たい態度をとって悪かった。心から謝罪する。」
「卒業してからのことはまだ決めてないんで、一つの選択肢には入れておきます。それにエルさんも謝罪はいりません。逆の立場だったら俺だって実力を疑いますし、冒険者は命をかける職業なんで当たり前です。」
そんな風に話をしながら旧墓地の入り口まで歩いて、馬車に乗り込んで町まで帰った。そして諸々の報告を済ませ、疲れた体を引きずって寮の自分の部屋まで帰ったのだった。
突然だが、魔法に対する有効な防御手段と言えば何だろう。今まで俺はいろいろな戦いを経験してきたが、魔法を防がれたり逆に防ぐというような場面にいくつか遭遇した。
例えば父さんやジョージ。父さんは火球だろうが風の刃だろうが関係なく、その剣で切り伏せていた。
例えば俺。俺は魔法に対して、同程度の魔法をぶつけることで相殺している。
例えばカール。彼はその大きな盾で魔法を受け止めていたが、威力の高い魔法を受けきれず吹き飛ばされてしまうことがあった。つい先日の事だったのでこれは記憶に新しい。
ではこれらの現象について原理を説明することができるだろうか、ということをふと疑問に思ったのだ。
カールについては説明は不要だろう。ただ単に盾で物理的に防いだだけだ。では残りの二つについては?そもそも魔法を剣で切るってどういうことだ。そして魔法をぶつけると相殺できるのもどういうことなのだろうか。
「というわけで、今日の実験は"魔法の防御方法について"だ。アイヴィとエスカにはそれぞれ俺に向かって魔法を撃ってもらおうと思う。」
アイヴィとエスカが不思議そうな顔をして俺の方を見る。
「えっと、剣で魔法を切るなんてできるんですか?魔法に魔法をぶつけるのはアイン君がやっているのを見たことありますけど。」
確かに、昔父さんと模擬戦を始めて最初に魔法を剣で切られたときは俺も信じられなかった。二人が信じられないのも無理はないだろう。
「じゃあ最初はそれからやってみようか。俺も魔法を切ったことはないからできるか分からない。最初は弱めの魔法で頼むよ。」
そういって少し離れ、剣を抜き構えをとる。アイヴィはまだ俺に向かって魔法を撃つことをためらっているようなので、エスカが先に一歩前に出る。
まだ覚えたての無詠唱魔法でエスカが得意な雷魔法を発動させる。威力は事前に言っていた通り大したものではないが、当たれば体がしびれてしまうだろう。
俺に向かってくる雷に対して勢いよく剣を振るう。明確に何かを切った、という感覚はしなかったが魔法は消滅した。
切ったという感覚が無いため、まるで素振りをしたような感覚で非常に気持ち悪い。苦々しい顔をしながら二人に告げる。
「うん、問題なく魔法を切ることができるようだ。いろいろな魔法を撃ってきてほしい。お願いだ。」
アイヴィとエスカは驚いた顔をしつつも次々といろいろな種類の魔法を撃ってくれた。
それからいろいろな実験を行った。魔法を剣で切ったり、魔法同士をぶつけてみたり、どうしたら魔法を防ぐことができるのかをいろいろと考察してみた結果、新たな知見を得た。
そもそも魔法というのは、"本来起こりえない現象を起こすため魔力で要素を補完する"という風に以前結論付けていた。基本的にはそれに変わりはない。
しかし、例えば火球。火というものは、球のような丸い形はしていない。燃焼という現象以外にも、火を丸く形作るという物理的にはあり得ないという現象が起こっている。
このような形成の過程は水球や風の刃など、他の魔法でも見られている。これはおそらく、魔力で魔法の周囲を覆って形成しているのではないかと推測された。
剣を振ったり、魔法同士が衝突して相殺しあう理由は、魔法の周囲にまとわれていた魔力が空気中に散ってしまっているからじゃないかと考えられる。
これらのことを踏まえると、自然と魔法を防ぐ方法というものは浮かんでくる。物理的であれ、魔法的であれ周囲の魔力を散らしてしまえばいい。
もちろん魔法の規模によって、その纏っている魔力量も異なっているので一概には言えないが、小さい火球とかなら超強力な扇風機を回すだけでも防ぐことができるだろう。
そんなこんなで、魔法の防御方法についての実験はおおよそ終わったが、具体的な手段については今まで以上のものは思い浮かばなかった。
それについては残念だが、その原理がほんの少しでも明らかになったというのは大きな進歩だ。研究というのはこういう小さな実験と考察の積み重ねで大きな結果を生むのだ。今回の結果が将来的には何か大きな結果を生むかもしれないということを信じて、今日の実験を終えるのだった。
五十三話いかがだったでしょうか。"魔法を剣で斬る"ということに対して理由を説明したくて今回の話を書きました。今頃ジョージ達は公爵にアインの実力を報告していることでしょう。
次回更新は12/10(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




