第五十話:冒険者、そして馬車の中
前回のあらすじ:冒険者たちと依頼の内容について打ち合わせをした。
五十話目です。馬車の中でいろいろお話します。
打ち合わせのあった日から二日後の早朝、旧墓地を目指して出発するために街の門の前で馬車に荷物を積み込んでいた。
旧墓地まで数時間ということで、おそらく日帰りになるだろうから荷物はそこまで多くない。手際よく準備を終えると、リーダーのジョージが出発の号令をかける。
「よし、それでは魔物討伐の任務に出発する。いつも通り、エルには道中の索敵を頼む。カール、エヴァは馬車の中で待機。ああ、アイン君も馬車の中で待機だ。もし戦闘になるような場合はすぐに馬車から降りて戦ってほしい。御者は俺がする。二時間くらいだから休憩なしで一気に目的地まで向かう。」
ジョージの号令に全員がうなずく。言われた通り、俺はカールとエヴァとともに馬車に乗り込む。貴族の乗るような馬車と違って簡素なものであり、乗り心地が良いとは言えないが他の二人の邪魔にならないように座る。
馬車が出発してすぐ、こちらをじっと見るような視線が一つ。見なくても分かる。神官のエヴァだ。カールの方は特に気にすることなく目を閉じてじっとしている。
「あの、俺の顔に何かついてますか?」
「いや、前は自己紹介と依頼内容の確認だけであなたの事よく分からなかったから。めちゃくちゃな噂が飛び交うあなたが気になるの。」
なるほど、馬車の中なら時間はあるし疑問に答えていくのも良いだろう。こちらから聞きたいこともある。
「じゃあ噂の真偽を確かめていきますか?一応張本人なわけですし。」
エヴァは顔を輝かせる。よっぽどその噂とやらが気になっていたのだろう。
「じゃあ、まず無詠唱魔法が使えるっていうのは?」
「使えますよ、馬車の中じゃ規模の大きい魔法は使えませんが。ほら。」
そういって指先に小さな火の玉を作り出す。すぐにそれを消すと、今度は風を発生させて自分の髪をなびかせる。俺の発動した無詠唱魔法を興味津々に眺め、驚いたような顔をする。
「本当に無詠唱魔法が使えるんだ……。だったら魔族を剣で斬り殺したっていうのは?魔法使いなんだよね?」
「ええ。魔法を使えますが、剣の方も鍛えています。幼少のころから父に鍛えられてますので、そこそこの腕かと。」
「ヴァレンタイン家のジンと言えば、その剣の腕は凄まじいと聞いている。その教えを受け継いだのなら言わずもがなだろう。」
静に目を閉じていたはずのカールが話に入ってくる。父さんの名前は冒険者の間でも知れ渡っているようだ。
カールさんも俺のことが気になっていたようで、積極的に話には入ってこないが俺たちの話に耳を傾け始めた。
「町で暴動が起きたときに住人もろともなぎ倒していったっていうのは?」
「は?えっと、そんなことあるわけないじゃないですか。」
それは根も葉もない噂だ。というか住人もろともなぎ倒すとかどんな野蛮な人間だ。確かあの暴動では人に化けた魔物が大勢いたという話だったので、その魔物を倒す様子がそう見えたのかもしれない。
いやちょっと待て、そもそも俺は暴動の鎮圧には関わっていないのに、何で俺がやったという噂が流れているんだ。後で噂の出所を聞き出す必要がありそうだ。
それからいくつかの噂について説明を行った。「女の子をいつも侍らせている」という噂を聞いたときに思わず、威圧するような声を出してしまったが、俺は悪くないと思う。
一通り聞き終わって満足したのか、エヴァが満足げな顔をしている。
「ふむふむ、これで大体聞き終わったかな。正直、一番信じられなかったのが無詠唱魔法と剣なんだけど、それらが本当だったなんてね。事実は小説よりも奇なりってね。」
「だったら俺も聞きたいことがあるんですけど。」
ちょうどいいから俺からも質問をさせてもらおう。幸い、まだ目的地に着くまでは時間が残っている。
「いろいろ聞いちゃったしね。もちろん大丈夫だよ。」
「神官の使う治癒魔法ってどういう原理なんですか?以前ちょっとだけ使えないか試したことがあるんですけど、うまく魔法を発動させることができなくて。」
俺の言葉にエヴァは言葉を詰まらせる。
「原理……、原理かぁ。そんなの考えたことなかったなあ。」
やっぱりか。この世界では魔法の発動する原理を考えるほうが珍しい。詠唱を覚え、それを言葉にして発することでほぼ自動で魔法が発動するのだから。
ちなみに前に治癒魔法を試したというのはたまたまだ。本を読んでいた時に指を切ってしまい、その傷を見てちょうどいいとばかりに治癒魔法を試してみたのだが、その小さい傷でさえ治すことができなかったのだ。
傷を治す仕組みは細かく言えばかなり複雑ではあるが、大まかにであれば知っている。簡単に言えば、次の3ステップからなる。
1.血小板が集まって出血を止める。傷自体は残ったまま。
2.コラーゲンを生成して傷の間を埋めるように新たな細胞を作っていく。この時にかさぶたが生成される。
3.かさぶたが取れて安定した状態になる。かさぶたは取れ、傷跡が残る場合があるが治ったといっても良い状態になる。
俺は別に医者というわけではないからこの説明も間違っているかもしれないが、大きく外れたことを言っているわけではないはずだ。
この仕組みを意識しながら魔法を発動させようとしたが、うまくいかなかった。治癒院の魔法使いたちはもっと重症の場合でも治癒魔法で治癒してみせている。何かが違うはずなのだが、そこが全く分からなかった。
神官が使うような魔法だからか、資料も全然見つからず研究が進まなかったのだ。ちょうど話を聞けるいい機会だと思ったのだが。
「うーん。君が知りたいことがどんなことか分からないんだけど、神官になるために学んだことなら教えられるよ。」
「それでも構いません。俺は基本的な事すら知らないので。」
俺は身を乗り出して、聞く姿勢に入る。どんな情報でも構わない。
「まず、一番基本的な事なんだけど、治癒魔法は光魔法っていう魔法のうちの一つなんだよね。」
「光魔法……?」
初めて聞く言葉だ。全くイメージができない。懐中電灯みたいに光を発するのだろうか?
「光魔法にもいろいろあってね。治癒魔法以外にも、結界魔法や光の攻撃魔法もあるの。私は治癒魔法以外は使えないけど……。」
「結界に攻撃魔法もあるんですか。結構幅広いんですね。」
「どれも習得に時間がかかるし、需要が大きいのは治癒魔法だから、教会でも治癒魔法ばかり教えるの。結界とか攻撃魔法を使えるのはほんの一握りの神官だけ。」
結界や攻撃魔法で何ができるのか分からないが、治癒魔法の需要が高いのは間違いないだろう。前世でいう医者のポジションなのだから、それでも神官はエリートなのかもしれないが。
「『光魔法は神が人類に授けた魔法である』だったかな?神官になる前に口酸っぱく言われる言葉だよ。何であんなに言われるのか、意味はよく分からないんだけど。」
神が人類に授けた魔法?もしかして光魔法に関しては他の魔法と根本から異なる部分があるのかもしれないな。分からないことだらけだが、今は仕方ないだろう。
そんな話をしていると目的地に着いたようで、リーダーのジョージが御者台から声をかけてくる。馬車から降りるとそこには、昼にもかかわらずどこか陰鬱とした雰囲気の寂れた墓場があった。
五十話いかがだったでしょうか。本編も遂に五十話を突破しました。この話を書くために傷が治る仕組みについていろいろ調べたのですが、難しくてよく分かっていません。もし間違ったことを書いていたらすみません。光魔法についてはそのうちまた出てきます。
今週ちょっと忙しいので水曜の更新はお休みにして、次回更新は12/3(金)にします。読んでいただけたら嬉しいです。




