第四十九話:母親、そして冒険者
前回のあらすじ:アイヴィの母親マールさんと初めて会ったが、非常に癖のある人だった。
四十九話目です。件の冒険者と顔合わせをします。
公爵家での話から数日後、俺は冒険者組合のドレッド支部に来ていた。要件は明らかで、先日公爵に依頼された件で冒険者と会うことになっているからだ。
建物の中は屈強な男たちがガヤガヤと話をしており、その中で異様なほどに若い俺は浮いていたが、ほとんどの冒険者たちは俺のことを気にもしていないようだ。数人俺の方を怪訝な目で見る人たちもいたが、こちらに話しかけてくる様子はない。
会う予定の冒険者について俺は何も知らないので、とりあえず受付の方へ歩いていく。昼時で時間がちょうどよいのか、大して待つこともなく受付までたどり着く。
俺は公爵から送られてきた書状を受付の人に渡す。この書状は公爵家を訪れた翌日に送られてきたもので、冒険者組合のお偉いさんに渡すように書かれている。
その書状を受け取った受付の人は驚いたようにこちらを二度見して一回咳ばらいをした後、俺を別室の方まで案内してくれた。
案内された別室には四人の冒険者らしき人が雑談をしていた。俺と受付の人が入ってきたことに気づくと、こちらに視線を向ける。そして受付の人は仕事があるからと言って帰って行ってしまい、俺とその冒険者たちだけが残された。
その中でいかにもリーダーといった感じの男が口を開く。
「君が公爵が紹介してくれたという魔法使いか?話には聞いていたが本当に若いんだな……。俺の名前はジョージ。Bランクパーティ『パーツェン』のリーダーをしている。」
「初めまして、アインシュ=ヴァレンタインです。まだ学生の身分ではありますが、よろしくお願いします。」
そういって握手を交わす。その顔はどこか困惑しているようだった。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、貴族の割には俺たちのような冒険者に丁寧に接してくるんだなと思ってな。今まで会ったことのある貴族の中には、俺たち冒険者を見下してくるような奴もいたからな。」
「騙されるなよ、リーダー。こいつだって腹の中ではどう考えているか分からねえぜ。」
どうやら貴族に良い思い出があまりないようだ。リーダーのジョージに比べると他の三人はまだ警戒心をあらわにしている。
「だいたいこいつの話も怪しいもんだぜ。無詠唱魔法を使って魔族を倒した、なんて信じられるわけねえだろ。」
「おい!そこまでにしておけ!……すまないな。口の悪いこいつはエル。斥候を担当していて、索敵や罠の解除を得意としている。」
「ちっ」と舌打ちをしてエルはそっぽを向く。まあ話に聞いただけでは信じられないのも無理はない。しかも、貴族の伝手でもない限り、彼らの聞く話は伝聞のさらに伝聞でもおかしくないのだ。
ある程度の事実はあったとしても、脚色を重ねた話が届いていると考えるのは仕方ない。
「このままの流れでメンバーの紹介を済ませるぞ。こっちの無口な大男はカール。背中にある大きな盾で魔物の攻撃から俺たちを守ってくれる。そしてそっちの神官はエヴァ。主に治療などを担当している。」
そういってカールは俺に対し軽く一礼、エルはどこか不服そうな顔をしながらも同じように一礼する。
ふと俺は疑問に思う。確か神官になれる人間は貴重で、神官はほとんど治癒院か教会に仕えていると本で読んだことがある。だったら、冒険者の神官というのは珍しいのではないのだろうか。しかも、その神官が一つのパーティに所属しているなんて。
俺のそんな疑問を感じ取ったのか、エヴァが嫌々ながら俺に声をかける。
「あなたの言いたいことは分かるわ。何で神官が冒険者なんてやってるんだって思ってる顔ね。まあいろいろと事情があるのよ。まああまり気にしないでいてくれると助かるわ。」
「えっと、分かりました。よろしくお願いします。」
「とりあえず紹介も終わったし、依頼の話に移っても構わないか?」
ジョージの話に全員が姿勢を正す。こういった切り替えの早さはさすがだ。全員が聴く姿勢に入ったことを確認すると、ジョージは依頼の話を始める。
「まず依頼主はドレッド公爵。つまりは町からの依頼というわけだ。その分報酬はみんな期待していいぞ。」
ジョージの言葉に他のメンバーの頬が少し緩む。
「依頼内容は魔物の討伐。具体的な数は分からないが、指定された場所の魔物を片っ端から倒していくことになるだろう。だが、組合側の調査では数は多くないということだ。そして、場所はドレッド領の旧墓地だ。」
「旧墓地?街の近くにある墓地の事か?いや、でもあそこは今も使われているよな?」
旧墓地というのは俺も聞きなれない。この町の隣に墓地があるのは知っているのだが、それより前の墓地というのは知らない。男たちの疑問に神官のエルが答える。
「使われなくなった墓地のことだもの。知らなくて当然よね。この町から北東に馬車で数時間の位置にあるわ。私たちの子供のころに、その墓地の管理者が高齢で亡くなっちゃって、それが理由で墓地が今の場所に移されたの。」
さすが神官。こういうことにも詳しいらしい。エルの言葉にジョージが大きくうなずく。
「その通りだ。管理するにも街から遠く、手間がかかるから墓地を移した方が良いという判断で移したらしい。それで、管理されなくなった墓地のあたりで魔物が住み着いた。それを討伐するのが俺たちの仕事だ。」
なるほど。大体の場所は分かった。後知りたいのは出現する魔物の情報だが……。
「えっと、どんな魔物が出るんですか?魔法が有効だってことだけは効いたんですけど。」
「ああ、そっか。他のメンバーには以前話していたから忘れていた。出現する魔物はレイスだ。実体を持たないから剣などの攻撃は効かないんだ。魔法が有効らしいから魔法使いが必要なんだ。」
「でもBランクのパーティなら魔法が必要になる依頼を受けてたりしてたんじゃないんですか?」
これは純粋な疑問だ。優秀なパーティなのに魔法を使える人が神官しかいないというのはずっと謎に感じていた。
「ちょっと前にパーティの魔法使いが冒険者を引退してな。ちょうどこの依頼を受けたタイミングだったから、魔法使い探しに苦労していたんだ。」
冒険者を引退……。もしかして怪我でもしたのだろうか?
「ああ。引退といっても悪い理由じゃない。結婚したのが理由だ。おまけに嫁さんのお腹に子供を授かったらしく、危険な仕事はもう受けられないと言っていた。」
寿引退ということか。それはめでたいことだが、冒険者のパーティとしてはかなり痛手だっただろう。実際、この依頼に魔法使いが足りないから困っているわけなのだから。
「今は魔法使いを募集しているのだが、あいつレベルの魔法使いが見つけられなくてな。今回は君が協力してくれるとのことで、一旦は何とかなるだろう。」
「噂通りの実力ならな。」
エルは変わらず悪態をつく。やれやれと言った感じで、ジョージは説明を続けて、詳しく日程をすり合わせた。
四十九話いかがだったでしょうか。冒険者の引退といったら怪我とかを思い浮かべますが、結婚みたいな円満な寿引退のようなものがあっても良いですよね。ちなみに名前は結構適当につけているので、どこかで変更したりすることがあるかもしれません。




