第四十八話:勧誘、そして母親
前回のあらすじ:ダニエル公爵との会話がようやく終わり、冒険者に協力するという依頼を受けた。
四十八話目です。貴族ってどんな感じで話すのか分からなくなってしまいました。冷静に考えたら、貴族なんて会ったこともないので分からなくて当然なのかもしれませんが。
公爵との話の後、庭でアイヴィとエスカに合流した。庭はとても綺麗に整備されていて、様々な花が多く咲き誇っていた。お茶が飲めるような休憩スペースが庭の中にはあり、その周りは庭の中でもより一層力を込めて整備されていた。
アイヴィとエスカはちょうどそこの休憩スペースでお茶を飲んでいるようだった。俺がそこに近づくと、二人以外にもう一人一緒にお茶を飲んでいる姿が目に入った。
俺が近づいたことにアイヴィが気づき、笑顔で手を振ってくる。続いてエスカも気づいたようで、控えめに俺の方に手を振る。
そして、もう一人の女性もおしとやかな笑顔を俺の方に向ける。その顔にどこか見覚えがある気がするが、この女性とは会ったことないはずだ。アイヴィが俺の方を向いて声をかける。
「アイヴィ君。父との話は終わったんですか?」
「ああ、それについては問題なく終わったよ。ちょっと疲れはしたけど。それで、えっと、そちらの方は……。」
俺がもう一人の女性の方に目を向けると、その女性は俺の視線に気づいたのか再び俺の方に微笑みかける。
「初めまして、アインシュ=ヴァレンタイン君。私はマール=ドレッド。アイヴィの母です。」
なるほど、どこか見たことがあると思ったのはそれが理由か。確かに目元とかがアイヴィに似ている気がする。
「あなたのことはアイヴィから聞いています。アイヴィったら、手紙でも書くのはあなたの事ばっかりで……。」
「ちょ、ちょっとお母さん。やめてよ!」
「ははは……。」
俺はどういう反応をしたらいいのか分からず、思わず乾いた笑いが口から出る。しかし、マールさんの口はアイヴィの制止では止まらない。
そしてついにマールさんは爆弾を投下する。
「それで、アインシュ君とアイヴィはいつからのお付き合いなのかしら?」
マールさんの言葉に俺たちは三者三葉の反応を見せる。アイヴィは顔を真っ赤にし、エスカは目を細め険しい顔をし、俺は顔に手を当てて天を仰いだ。
俺たちの反応を見て「あらら~」とのんきな声をマールさんは上げる。
アイヴィは話にならないほどあわあわしているし、エスカはエスカで下を向き、ぶつぶつと何か呪詛のようなものを呟いている。仕方がないので、説明するために口を開く。
「えーと、勘違いされているようですが、俺とアイヴィはそういう関係じゃ……。」
「うふふ。分かったわ。そういうことにしておいてあげる。」
どうやら勘違いは訂正されないようだ。だが、この手の人にはもう何を言っても聞かないのは分かっている。俺は説明を放棄した。
それからは俺も三人の会話の輪に加わって、しばらく雑談をして過ごした。その後、マールさんに夕食に招待されたため、俺とエスカはドレッド家の夕食にお邪魔して帰ることになった。
寮に戻り、部屋で一人になって俺は深く息を吐く。正直に言うといろいろと疲れた。ドレッド家に仕えている人はどうやら俺を観察するようにでも言われているのか、なかなか一息つくタイミングがなかった。
特に執事のバースさんとメイドのルカさん。この二人はずっと俺を監視するようにじっと見てきていたためどうしても方に力が入ってしまっていた。今頃は公爵に俺のことを報告しているのだろう。
しかし、今日は良かった発見もある。それはアイヴィの事だ。実力至上主義の父親、その教育を受け同じような思考を持っている兄。アイヴィの家庭環境はお世辞にも良いものだとは言えないと思っていたが、そうではないことが分かった。
使用人たちとの関係は良好なようであったし、母親のマールさんはアイヴィの事を殊更に気にかけていたようだ。
マールさんはアイヴィが魔法を使えるようになったことを非常に喜んでおり、ものすごく俺に感謝の意を表していた。俺とアイヴィをくっつけようとしなければとても良い人なのだが……。
何にせよ今日は非常に疲れた。俺はベッドに横になり目を閉じるとすぐに意識が闇に落ちて行った。
<三人称視点>
ここはドレッド公爵家の執務室。公爵ダニエルは椅子に深く座り込み考え込む。彼の前には使用人のバースとルカが報告書のようなものを読み上げていた。
「……。以上が私が見た"彼"の印象です。戦闘面での実力については話に聞いた程度の事しか知りませんが。」
「それについては問題ない。冒険者の依頼に同行させて、その実力を見てもらう手はずになっている。ルカ、君はどう感じた?」
「はっきり言わせていただきますと、彼は異常です。」
ルカはまっすぐとダニエルの方を見据えて、アインを"異常"だと言い切る。
「ほう?」
「最初はアイヴィお嬢様を利用しようとする輩かと思ったので、事前に彼についていろいろ調べていました。私が調べたところによると、彼は3歳には言語をマスターして魔法の本に興味を示し、そのまま気づいたら無詠唱魔法をマスターしていたらしいです。」
「"天才"ではなく、"異常"と評価するのは他に理由はあるのか?」
ダニエルの迫力に臆することなく、ルカは話を続ける。
「魔法の事だけでしたら、確かに"天才"と評していたかもしれません。ですが、彼は無詠唱魔法をマスターしたことをジン様に知られた後、ジン様が直々に訓練を施したようです。それも子供にするようなぬるいものではなく本格的な訓練を、です。」
「あのジンが訓練を?そんな話は聞いていなかったが……。なるほど、なら噂通りの実力を持っていたとしても不思議ではないな。」
「ジン様が直々に情報を外に出さないようにしていたようです。おそらく訓練をした理由は彼の価値に気づき、自分で身を守ることができるようにするためでしょう。とはいえ、そんなジン様の訓練に耐え抜くばかりか、さらに魔法の技術に磨きをかけていたようです。これを"異常"と言わずして何と言えばいいのでしょうか?」
ダニエルは満足げに笑う。しかし、目だけは笑っておらず、まるで獲物を見つけた肉食獣のような目であった。
「欲しいなあ。彼は世界さえ変えうる力を持っている。何としても彼を手に入れたいものだ。」
四十八話いかがだったでしょうか。父親や兄に相手にされなくても、親バカな母親がいてくれたおかげでアイヴィはまっすぐ成長しました。不穏な空気を醸して終わりましたが、しばらくはダニエルさんの出番はないはずです。
次回更新は11/26(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




