第四十六話:女の闘い、そして先祖返り
前回のあらすじ:ドレッド家に向かって出発するが、エスカもついてきた。
四十六話目です。今話と次話は説明会話多めな感じになりそうです。話はあまり進みません。
メイドのルカさんがトントンと扉をノックする。
「失礼します、ご主人様。お嬢様とお客様をお連れしました。」
中から「入れ。」という言葉を受け、ゆっくりと扉が開かれる。部屋の中には貫禄のある初老の男性が両肘を机の上に立て、両手を口元で組んでいる状態で座っていた。
その男性が俺たちの方を観察するようにじっと見ていた。そんな少し重たい空気の中、最初に口を開いたのはアイヴィだった。
「ただいま戻りました、お父様。えっと、こちらの男性がアインシュ=ヴァレンタイン君で、そちらの女性がエスカ=ヴィレッジさんになります。」
アイヴィの言葉に合わせて俺とエスカが一歩前に出る。そして俺は貴族としての礼をして、自己紹介をする。
「初めまして、公爵様。ヴァレンタイン家三男のアインシュ=ヴァレンタインと申します。この度は招待していただきありがとうございます。」
俺の言葉に続いてエスカが貴族の礼をして、自己紹介をする。
「初めまして、公爵様。ヴィレッジ家長女のエスカ=ヴィレッジです。本日は父に代わり挨拶に伺いました。」
公爵は俺たちの挨拶を特に気にする様子はなく、態勢は崩さないまま俺たちに話しかける。
「ふむ、私はドレッド家公爵のダニエルだ。今回はよく来てくれた。さっそくだが君たちとここ最近の件についていろいろ話を聞かせてほしい。そちらのソファーにかけてくれ。ルカ、紅茶の用意を頼む。」
「かしこまりました。ご主人様。」
ルカさんは一つ礼をして、部屋から出る。紅茶の準備をしてくるのだろう。そして俺たちは促された通りにソファーに座る。
公爵がゆっくりと立ち上がってゆっくりと俺たちの方に歩み寄り、机をはさんで対面のソファーに座る。
「さて、来て早々申し訳ないが、話を始めようか。まずは事の起こりである魔族の襲来からか。タレスから報告が届いている。魔族は勇者の魔力を追ってアイヴィを狙っていた……と。私は魔法については詳しくないのだが、アイヴィの魔力が勇者のものと同じということはありえるのだろうか?」
「確証のあることは言えませんが、それでもよろしいでしょうか?」
推測ならいくらでもできるが、いかんせん魔法についての理論は未完成すぎる。それに推測するにしてもサンプル数が少なすぎる。本来なら他人に話すことすら憚れる推測ではあるが、話さないことには会話が進まない。
公爵はそれでも構わないと言わんばかりに、ゆっくりとうなずいた。
「公爵様は"先祖返り"という言葉をご存じでしょうか?親に現れていない先祖の特徴が子供に現れる現象のことです。ドレッド家の血をさかのぼれば、何代前かは分かりませんが勇者様がいらっしゃるはずです。アイヴィにはその勇者様の魔力が"先祖返り"によって現れたものと考えられます。」
「"先祖返り"……。それがアイヴィに起こったために、アイヴィの体内の魔力量は異常なまでに多かったということか?では魔法が今まで発動させることができなかったのはどういうことだ?"呪い"によるものとタレスから聞いたが、詳しく説明してほしい。」
話の途中に紅茶の準備をしに来たルカが部屋に入ってくる。俺たちの話を邪魔しないように静かに、そして手早く紅茶をいれる。俺はルカさんに目だけでお礼をして話し始める。
「正直、そちらについては全く分かっていないといっても過言ではありません。確かに言えるのは三点。一つ目はアイヴィは呪いにかかっていたということ。二つ目は呪いの正体が魔法陣であること。三つめは呪いの正体に気づいた私が解呪したということです。」
「なぜアイヴィに呪いがかかっていた?アイヴィは魔族になど会ったことはないのだろう?」
公爵は視線をアイヴィに向けて問いかける。アイヴィは勢いよく首を横に振る。
「そんな危ない目にあったことなんて、学院に入るまではありませんでした。学院では危険な目にもあいましたけど、それまでよりよっぽど充実しています。」
そんなアイヴィを横目に俺も言葉を続ける。
「アイヴィに呪いがかかっていた理由については分かりません。ただ、物語で読んだ勇者の呪いと同質のものであったことを考えると、魔力と同様に"先祖返り"したのかもしれません。」
勇者の魔力を持っていると魔族に狙われる可能性がある。その可能性をなくすために勇者が自身に呪いをかけたのかもしれないという推測は話さないでおく。
公爵はここまで聞くと、紅茶を一口飲んでから、腕を組み目を閉じて少し思考にふける。しばらくしたのち、そのままの体勢で目を開く。
「ふむ、納得できない点は多々あるが、推測に過ぎない以上仕方あるまい。ではもう一つの事件について聞くとしよう。これはそちらのエスカ嬢にも関係のある話だったな。こちらの件についてもタレスに聞いたのだが、『自分の理解の範疇を超えていたので説明できません』などと言われてしまってな。ろくな話を聞けておらん。」
自分にも関係があるといわれて、エスカが姿勢を正す。
ふむ、タレス騎士団長は説明を半ば放棄したわけか。そうなると俺に話を聞きたがるのは確かに分かる。
「私が知っていることは首謀者が二人であるということ。一人は魔族の男、もう一人は学院の教師コッド。コッドがよく分からない実験を行って、それにエスカ嬢が巻き込まれた。そこに君とタレスが介入して助け出した、ということくらいか。実験の内容は話せるか?」
うっ、エスカがいる前ではあまり話したくない内容だ。というかエスカの前でそれを話させようとか、この人にはデリカシーというものがないのだろうか。
俺はエスカの方をちらっと見る。案の定表情が少しこわばっているのが分かった。
俺のそんな様子を見てようやく理解したのか、公爵はアイヴィに話しかける。
「ふむ、確かに彼女の前では話しにくいか。アイヴィ、ルカと一緒にエスカ嬢を部屋に先に案内しなさい。その後は家の中でも見て回っていなさい。私は彼ともう少し話をする。」
それはそれでちょっと困る。さっきから思っていたのだが、公爵の俺を見る目もどこか変なのだ。変というよりかは、俺のことをじっと観察するような視線で、気分が良いものではない。
アイヴィは公爵の言葉にうなずくと、ソファーから立ち上がりエスカに声をかける。
「行きましょう、エスカさん。そうだ、庭の花を見に行きましょう。今の時期ならまだきれいな花がたくさん咲いているはずです。」
「え、ちょっと待ってください。アイヴィさん。私は別に……。というかまだ何も話しておりませんのに……。ああ分かりましたから手を引っ張らないでください。」
そのままアイヴィとエスカ、そしてルカさんは部屋を出て行ってしまった。部屋に残ったのは俺と公爵だけになった。公爵は再び紅茶に口をつけ、じっと俺の方を見据える。
「さて、これで遠慮することはなくなったな。話を聞かせてもらおうか。」
四十六話いかがだったでしょうか。"先祖返り"は遺伝学の知識が発達していない時代の言葉らしく、今はあまりこの言葉は使わないそうです。ですが、アイヴィの件を説明するのに一番しっくりくる言葉だったので採用させていただきました。
次回更新は11/22(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




