第四十四話:試作品、そして議論
前回のあらすじ:ドレッド家当主、つまりアイヴィの父親に会いに行くことになった。
四十四話目です。何かものを作るときはいろいろ試行錯誤しますよね。トライアルアンドエラーで新しい発見が見つかった時の快感は何物にも勝ると思っています。
「これが私の懇意にしている鍛冶屋に作ってもらった試作品だ。魔法陣自体は私が刻んだもので、火系統の魔法が発動することができるはずだ。」
そう言って、ルミーネさんが俺に剣を手渡す。俺は試作品の剣を手に数回振って感触を確かめる。普段使っている剣と材質は同じ鋼ではあるが、剣の大きさや重心の位置が違うからか振りにくさを感じる。
じっくり剣身を見ると表面に複雑な魔法陣が一面に彫ってある。確かにこの魔法陣は三人で考えた魔法陣で間違いない。この魔法陣であれば、剣を振るいながら火球を飛ばすような魔法が発動できるはずだ。
「それじゃあ始めます。二人は少し離れていてください。」
アベル先生とルミーネさんが静かにうなずき、ゆっくりと歩いて離れる。それを確認したのち、俺は的の方を向いて構えをとる。
一つ息をついて剣を思い切り振る。魔法がきちんと発動するかどうかを試すテストではあるが、疑似魔剣としての役割は戦闘において使えるかどうかだ。なるべく実戦に近い環境にするために剣を振る。
近くに立てられた案山子のような的に剣をたたきつけ、次は他の的に向かって再び剣を振る。どこか剣を振る感触に違和感を覚えながらも、今度は少し離れた的に向かって火球の魔法を放つべく剣に魔力を通そうとする。
「え?」
思わず疑問の声を上げる。俺が発動しようとした魔法にはそこまでの魔力は必要なかったはずだが、必要な魔力が異常に多い。思わず疑似魔剣の方を見ると、魔力が剣身の先の方までいきわたっていないことに気が付いた。
もっと勢いよく魔力を流し込んでようやく剣身の先の魔法陣まで魔力が届く。すると魔法が発動して想定していたサイズの火球が飛んでいく。魔力を流すことに集中していたためか、狙いが定まっておらず、的外れな方に火球は飛んで行ってしまった。
俺が剣を振るうのを止めると、アベル先生とルミーネさんが険しい顔をしてこちらに近寄ってきた。三人が集まると、アベル先生が口を開く。
「いろいろ聞いてみたいことはあるけれど、とりあえず試作品を使ってみた感想を聞いてみたいかな。アイン君、よろしく。」
「分かりました、アベル先生。率直な感想ですけど、今のままではこの疑似魔剣は実用性には欠けます。例え使用者が俺であっても、この剣を実戦で使うのは難しいと言わざるを得ません。」
「そうだろうね。傍から見ていても君が魔法を使うのに手こずっているのが分かったよ。アイン君くらい魔力操作が長けているのにあれだけ時間がかかるなら、他の人なら魔法を発動させることすらできないかもね。」
そういってアベル先生は俺から剣を受け取ると魔力を疑似魔剣に流し込もうとする。しかし、魔法陣に魔力がいきわたらずに、結局魔法を発動させることはできなかった。
「うーん。僕はアイン君が言うところの魔力操作はあまり得意ではないんだけど、案の定魔法発動できなかったね。やっぱり縦長の魔法陣が関係してるのかな。」
アベル先生の言葉を受け、俺は顎に手を当てて考える。以前テスト代わりに紙に描いた魔法陣は問題なく発動したことを考えると、原因は何だろうか。やはり材質だろうか、それとも剣に直接彫っているのがいけないのか。
悩んでいたところ、ルミーネさんが何となくしたり顔をして話し始める。
「ふむ、おおよそ私の予想通りだな。実は鍛冶屋に依頼した時に言われたことがある。鍛冶屋曰く、剣に使用する鋼では魔力を通しにくいが大丈夫か、とのことだ。剣に使用する金属と魔道具に使用する金属は違うんだな。私も知らなかった。」
俺も知らなかった。確か前世では、剣というものは鉄を高温の炉で精錬した鋼を用いていた……はずだ。精錬の際に含まれる炭素の量で硬さが変わってくるんだったか?剣について詳しく調べたことがないので分からない。
大まかな部分はこちらの世界でも変わらないとは思うが、果たして金属によって魔力の通りやすさが変わってくるのだろうか。いろいろ実験してみないと分からなさそうだ。
「それと鍛冶屋に言われたことがもう一つあってな。アイン君、魔法は関係なく、剣を振ってみてどう感じた?」
そういえば魔法の方のインパクトが強すぎて、剣を振るった時の違和感を伝えるのを忘れていた。
「普通に剣を振った時に何か違和感を感じたんですよね。普段使う剣と違うから感じた違和感かと思ったんですけど、違うんですか?」
「ふむ、やはり違和感を感じたか。これも鍛冶屋に言われてな。表面に結構な量の魔法陣を彫っていただろう。それで剣の重心がずれてしまって剣として振るには適さないが良いのか、と言われてしまってね。」
違和感の正体はそれか。表面を彫っているだけとは言え、かなりの量削れてしまうため重心がずれてしまっていたのか。
「まあ鍛冶屋に依頼する段階でいろいろ問題はすでに発覚していてね。鍛冶屋はそもそも剣を作ることすら渋っていたのだが、まあいろいろ無理を言って作ってもらったんだ。」
「そこまで分かっていたのに言ってくれなかったんですか……?」
「鍛冶屋の話も推測でしかなかったからね。君だったら分かるだろう?実際に試してみないと真実は分からないものだ。」
おそらく先に鍛冶屋さんの推測を聞いていたとしても、結局は自分で検証をしようと試みていただろう。それが科学者の性というものだ。その点でいえば、ルミーネさんは俺とかなり近い思考を持っているようだ。
「話を戻しますが、今回の実験で大きな問題点は二つです。一つ目は剣に魔法陣をどう描くか。二つ目はどうやって剣に魔力を通りやすくするか。明確な問題点が見つかったのは大きな前進と言っていいと思います。」
「解決策……というには少し希望的観測が過ぎるかもしれないが、剣を打つ時点から魔法陣のことを考慮して重心を調整してもらうのはどうだろうか。今回は始めに剣を打ってもらってから、表面を削ったから重心がずれてしまった。ならば、剣を打つ段階からあらかじめ重心をずらしておいてもらって、削ることで本来の重心の位置に持っていけばいいだろう。」
「こっちであらかじめ重心の位置を計算しておけば、鍛冶屋さんの方で調整することも可能かもしれませんね。ちょっと時間がある時に、魔法陣で表面を削った際にどれだけ重心がずれるかを計算してみます。」
ルミーネさんの言う通り希望的観測に過ぎるかもしれないが、とりあえずの解決策としては上々だろう。しかし、問題は二つ目だ。下手に材質を変えてしまうと強度に問題が出てしまうことが考えられる。
二人もそれを分かっているのか。なかなか解決策が思いつかないようだ。
「そういえば、本物の魔剣って何でできているんだい?魔核を使用しているとはいえ、僕たちと同じ問題に直面すると思うんだけど。」
アベル先生がそんな疑問を口にする。俺は「確かに」と思ったが、その疑問に答えたのはルミーネさんだ。
「魔剣の材質は普通の剣と変わらないらしい。魔剣の肝になる魔核から魔法が発動されているので、他の部分は関係ないようだ。全く、魔核というのは不思議なものだよ。」
結局その日のうちに解決策を出すことはできず、解散することになってしまった。
四十四話いかがだったでしょうか。物語上ではうまくいった実験ばかり書いてきましたが、裏ではこんな風にうまくいっていない実験も多々ありました。次回はドレッド家へ出発します。
次回更新は11/17(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




