第四十三話:夏季休暇、そして試作品
前回のあらすじ:学院は夏季休暇に入るが、アイン達はいつものように魔法の実験を行う。
四十三話目です。皆さんは夏休みってどんな風に過ごしていましたか?自分は遊び惚けて、最終日に徹夜で宿題を終わらせるタイプでした。
いつもの通り実験をしていた午後、アイヴィの様子がおかしいことに気が付いた。
「どうかした、アイヴィ?元気がないみたいだけど。」
「ですね。いつもの覇気が全く感じられませんわ。」
エスカもアイヴィの様子が気になっていたようだ。まあ、魔法の練習中に何度もため息をついたり、俺の方をちらちら見る様子から誰の目にも明らかではあったが。
アイヴィは一瞬だけ言うべきか悩むそぶりを見せるが、観念したように口を開く。
「実は、実家から使いがやってきまして。いえ、来ただけなら問題なかったのですが、その内容が問題で……。」
そこまで深刻な内容なのだろうか。出来るならなるべく力になりたい。俺は黙ってアイヴィの言葉の続きを待つ。
「今度実家に帰るときに、アイン君も連れてくるように、という話だったんです。」
俺の頭の中が「?」でいっぱいになる。あまりに急な話に思考が停止してしまう。俺の混乱をよそにエスカが大きな声を上げる。
「ちょっ、ちょっと!どういうことですか、アイヴィさん?急に実家にアイン君を連れて行くなんて……。」
「ここ数か月でドレッド領ではいろいろな事件が起こりました。どうやら父はそれらの事件に学生の身ながら直接的に関わって、しかも解決に大きく貢献したアイン君に会いたいとのことなんです。以前父が学院に寄ったことがあるんですけど、その時はアイン君がまだ治癒院に入院していて会えなかったので。」
なるほど。領主としてアインシュ=ヴァレンタインという人間を見極めておきたい、ということだろうか。自分でいうのもなんだが、ここ数か月で俺はいろいろ目立ちすぎた。きっと俺がこのドレッド領、ひいてはこの国にとって危険因子にならないかを判断するのだろう。
俺は顎に手を当てて思考する。こちらとしても領主と会っておくのはありなのかもしれない。ここ数か月での魔族の暗躍や、アイヴィの魔法の件など、上の人に聞いてみたいことは多い。
しかも知らなかったとはいえ、わざわざ学院にまで足を運んでいただいていたとなればここで断るのは失礼に値する。
俺の魔法の理論、というか技術は既存のものと大きく異なっている。今後も実験や研究を続けていけば目立ってしまう可能性は大きい。そうなると、後ろ盾になってくれるような人は多ければ多いほどいい。
「そうだね。いろいろ考えてみたけど、会ってみようと思う。」
「「え!?」」
アイヴィとエスカの驚きの声が重なる。アイヴィの方が驚くのは分かる。言い出しにくそうにしていたということは、アイヴィなりに伝えるべきか悩む理由があったのだろう。それなのに俺が軽く了承したのだから、まあ驚くだろう。でもエスカはどうしてだ?
エスカの方を見ると、少しうつむいて何かをぶつぶつ呟いている。
「エスカ……、大丈夫?」
「はっ。ええ、大丈夫です。実家の両親にご挨拶なんて、とか思っていませんから。」
語るに落ちるとはまさにこのことか。エスカの言葉にアイヴィの顔が赤く染まっていく。いや、確かに挨拶はするけれども、別に彼女らが想像するような挨拶ではない。
俺は少しだけ苦い顔をしながら、二人に考えを説明するのだった。
「それで、アイヴィは実家にいつ帰ろうと思ってるの?」
「来週帰ろうと思っています。迎えが来ますので、アイン君も一緒に乗っていただけたらと。実家はそう遠くありませんので、すぐに着きますよ。ただ、父は仕事があるので、話をするのは夕方以降になるかもしれませんけど。」
「了解。こっちも問題ないよ。」
来週であれば特に問題ない。実は夏休みはいろいろ予定が入っていたりする。一つは言わずもがな魔法の実験・研究。二つ目はアベル先生との魔法陣研究。そして三つめはタレス騎士団長に誘われた、騎士団の訓練の体験だ。
魔法陣の研究については用事があればそちらを優先していいと言われているし、騎士団の訓練については再来週の予定なので、日程的には問題ない。
「来週……、来週ですね。分かりましたわ。」
「そうだね。一応その日と念のため、翌日は休みということにしようか。」
エスカもアイヴィも夏休みなのだから休んでもいいのに、律儀にもほとんど毎日来ては実験や訓練に付き合ってくれている。一度、俺の訓練に付き合ってくれなくても良いんだよというと、二人共に大きくため息をつかれてしまったのは記憶に新しい。
「へえ、それでドレッド家に今度行くことになったんだ。」
ここはアベル先生の研究室の中。今は俺とアベル先生、そしてルミーネさんが議論の休憩にコーヒーを飲みながら、先日の出来事を話していた。
「ドレッド家の領主様と言えばやり手で有名だからな。気を付けないと引き込まれるから気をつけな、少年。私のところにも何回も専属の魔法使いにならないかと勧誘の話が来てな。なかなか面倒だったよ。」
手に持ったコーヒーをあおりながらルミーネさんが話す。いろいろ聞いてみたところ、ドレッド領の領主は結構なやり手のようだ。本人に魔法や剣の才能はなかったが、頭が切れ、豊富な人脈を駆使して優秀な人間を集めて領地をより発展させたらしい。
「間違いなくアイン君なら勧誘されるだろうね。さすがに学生をいきなり登用することはないだろうから、卒業後の進路の一つとして考えてみたらどうだい?まあ君ほどの実力があるなら就職先はいくらでもあるだろうけど。」
「さすがに今決めるのは早すぎますよ。それに俺は魔法の実験とか研究ができる環境が良いので、行けるなら魔法省とかありかなと考えているんですけど。」
「魔法省……。確かに魔法の研究をするってなれば魔法省というイメージがあるけど、あそこは自分の好きな研究はできないからね……。国や貴族にとって理のある研究ばかりさせられるんだよ。」
アベル先生が語ってくれる。その語りぶりはまるで務めたことがあるような口ぶりだ。もしかして学院の教員になる前は魔法省に勤めていたのだろうか。
「経験者は語るってことだな。ま、そんな環境でよく2年ももったもんだ。」
本当にそうだったらしい。まさかアベル先生が魔法省に勤めていたとは、知らなかった。
アベル先生が頬をかきながら照れ臭そうな仕草を見せる。一回咳払いしてアベル先生は話し始める。
「そんなことより本題に戻ろう。以前話していた疑似魔剣の試作品のテストを行おう。」
四十三話いかがだったでしょうか。夏季休暇編のメインはドレッド家への挨拶です。次回は2章で登場した疑似魔剣の試作品のテストを行います。
次回更新は11/15(月)になります。本当は金曜に更新したいのですが、ちょっと予定が詰まっているので来週の月曜になります。余裕ができたらどんどん更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。




