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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第三章:夏季休暇編
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第四十二話:帰還、そして夏季休暇

前回のあらすじ:湯川は子供たちを救うことはできなかったが、前へ進むことを決意する。


四十二話目、第三章"夏季休暇編"開始です。本来は次の章と合わせて一つの章にする予定でしたが、次の章が無駄に長くなりそうな予感がしたので分けることにしました。そのため、第三章はそこまで長くはならない予定です。あくまで、予定ですが。

季節は夏。こちらの世界にもかつての日本と同じように四季があり、一年の大体のスケジュールも同じような感じだ。そして、学生の夏といえば思い出されるのは夏休みであろう。かつて(前世)の俺は夏休みといっても自分のやりたい実験を好き放題にできる期間としてしか認識していなかったが、今もそれは大して変わっていないようだ。

学院はすでに夏季休暇に入っているが、俺は変わらず魔法の実験と研究に従事していた。今研究しているテーマは"個人の得意な魔法はどのように決まっているか"だ。大体の場合、人によって得意な魔法というのが存在している。


例えば、アイヴィは火に関する魔法が得意で他の魔法より発動スピードが速かったり、規模の大きな魔法を使うことが可能だ。そして、俺の場合は転移などの特殊な魔法を除いて、基本的なものならば割とどれも同じようなレベルで魔法を使用することが可能だ。

ずっと俺は得意な魔法というのは、発動させる現象に対する認識がどれだけはっきりしているのかが重要なのではないかと考えていた。実際、それは間違ってはいないのであろうが、それだけではないようだ。そう考えなくてはならない理由がエスカだ。


エスカはもともと、アイヴィと同様に火の魔法が他の魔法に比べると得意であった。火魔法であれば、超級魔法とまではいかないまでも、上級魔法の中でも強力な魔法を使用することができていた。しかし、あの事件(・・・・)以来、状況が変わったのだ。元来得意であった火魔法よりも、雷に関する魔法の方が得意になっていたのだ。


このことは、エスカにも無詠唱魔法を教える過程で気が付いた。アイヴィの時と同様にまずは魔力を感じる練習を行ったのだが、エスカは妙に魔力に関する感覚が鋭かった。魔力を流し込んだらすぐに気が付くし、自分の体内の魔力を感じるのも早く、さらには体内の魔力を動かすことも容易く行ってしまったのだ。アイヴィの時も割とスムーズだったが、エスカの場合はもはや「無詠唱魔法を使えますよね?」と聞きたくなるくらいだった。


そして、実際に魔法を発動させる段階になって問題が起こった。得意な火魔法より先に、雷魔法を発動させたのだ。なぜ火魔法ではなく雷魔法を発動させたかをエスカに聞いたところ、


「何となく、できるような気がしたから。」


とのことだった。それからいろいろ検証したところ、エスカの得意な魔法が火魔法から雷魔法に変わっているということに気が付いた。


明らかにあの事件の影響が残っている。魔王が得意としていた魔法は雷魔法で、エスカの体を使って数々の雷魔法を使っていた。ただ単にその経験がエスカの体に残っているだけならいいのだが、最悪の場合、魂のレベルで魔王の影響を受けている可能性も考えられる。


(アイヴィは"勇者"の魔力、エスカは"魔王"の魔力……。厄介なことにならなければいいのだけど。)


どうも俺の周りには特殊な人間が集まりやすいようだ。




実験をキリのいいところで終え、日課の剣の訓練を始める。父さんから教わった型を思い出しながら、ゆっくりと剣を振るう。一つ一つの動きに集中しながら、魔力の循環も忘れずに行う。


集中して剣の訓練を行っているが、周囲の音を完全に聞こえなくなるわけではない。


「大体、エスカさんは夏季休暇だというのに実家に帰らなくても良いんですか?ご両親も心配されているのではないですか?あんな事件のあった後ですし。」


「心配してくれるのはありがたいですが、問題ありません、アイヴィさん。あの事件の後、両親が私に会いに来てくれましたのでそこで諸々の事情は説明いたしました。その時に、夏季休暇は帰らないという風に伝えましたので。」


二人のこのような言い合いは夏季休暇が始まった当初から何回も聞いている。ちなみに俺の場合は、ヴァレンタイン家が国の端にあることもあり、夏季休暇の間に帰るのは時間的に不可能だから、もとより帰るつもりもない。

ちなみにエスカの実家であるヴィレッジ家は、学院のあるドレッド領のすぐ北に位置していて帰ろうと思えば数日あれば十分に帰ることが可能だ。


「アイヴィさんこそ、私より実家が近いのですから、夏季休暇の間くらいは実家に帰ってはいかがですか?」


「くっ……。私は夏季休暇の間に一度は実家に帰ります。ただ、父にも仕事がありますので帰る日程を今は考えているだけです。」


街中の魔族出現に加えて、学院の教師による非人道的な実験に、それに付随して起こった暴動。ここ数か月の間にドレッド領では多くの事件が起こりすぎた。そのためこの領の当主、つまりアイヴィの父親は今非常に忙しいらしい。


そんな状況で実家に帰っても邪魔になってしまうかもしれない。それだったら学院に残って魔法の練習をするというのはある意味合理的なのかもしれない。


そんな二人の会話を耳にしながらも、なるべく反応しないようにしながら剣を振るう。


「はぁ。そろそろ魔法の訓練に戻りましょう。このまま話してたらアイン君の訓練の邪魔になってしまいます。」


「そうですね。アイン君の邪魔をするのは本意ではありませんし、訓練に戻りましょう。……おっと、手が滑りました。」


そういうと、エスカの手から小さな電気がほとばしり、アイヴィの足元に電撃が飛ぶ。アイヴィは慌てたようにその場から飛び退き、怒ったような声でエスカに抗議する。


「エスカさん!今のわざとですよね。そっちがその気なら、こっちも受けて立ちますよ!」


そういって二人の軽い喧嘩(キャットファイト)が始まる。これも見慣れた光景だ。二人が本気で魔法を使った勝負でもしようものなら俺も全力で止めるが、二人とも自分の魔法の危険性は理解しているのか軽く取っ組み合いになる程度なので止める必要はない。

まあ、貴族としては取っ組み合いになってる時点でアウトな気がしなくもないのだが、下手に口を出すとこちらに飛び火することも分かり切っているので、二人が落ち着くまで俺は知らぬ存ぜぬを貫き通す。


あまりにも目まぐるしい数か月を送ってきた俺たちにとって、この平和な日常は何よりもありがたいものだった。



少し短めですが、四十二話いかがだったでしょうか。アイヴィは"勇者"、エスカは"魔王"。この二人の対比も着目していただけたら幸いです。


お知らせ:休んでいた二週間の間に環境が大きく変化したので、以前のように(だいたい)毎日投稿することが困難になりました。できる限り頑張りますが、週に2~3回の更新にしたいと思います。次回は11/10(水)に更新します。

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