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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第二章:学院編
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閑話:湯川伸弥の過去 前編

前回のあらすじ:エスカの救出も無事終わり、日常へ帰還する。


第二章で何回か登場した、”湯川は非人道的な実験を忌避している”という設定。実は第一話を執筆している時点から決めていました。ようやくこの閑話で明らかになります。三話構成を予定していて、今回はその前編です。

私の名前は湯川伸弥。つい最近、博士号を取得し研究者としての道を歩み始めたわけだが、生きていくためにも自分の興味ある研究ばかりをするわけにもいかず、やきもきした生活を送っている。

ちなみに、私の博士での研究テーマは”タイムマシンの理論的可能性”である。その研究の中で、私は未来に行くことは困難であるが、過去に行くことは理論的には可能であると結論付けた。それまでの相対性理論を用いた研究では真逆で、未来に行くことは理論的には可能だが、過去に行くことは困難とされていた。しかし、私は相対性理論とは異なる新たな理論を作ることで、タイムマシンの理論的可能性について論じたのだ。


時間の流れは一つではない。というのも、地球上に存在するすべての生物の選択によって時間の流れが変わる。極論を言えば、私が朝ご飯を食べるかどうかの選択をする時点で未来というものは分岐してしまう。よくある言葉で、未来は無限に広がっている、という言葉があるがまさにその通りだ。

時間軸において、未来の方向には無限の分岐が存在し、予測が困難である。しかし過去の方向についてはそういった無限の分岐の一つの結果に過ぎず、私たちが通ってきた一本の道しか存在しない。私はその過去が選択した分岐のデータは地球上の現在のデータから分析可能であることを示し、少なくとも過去を観測することはできる。最終的には過去に行くことは可能だと結論付けた。


だがこの結論は過去の理論とは異なる結論だったため、多くの研究者から非難を浴び博士号の取得にさえ長い時間がかかってしまった。ようやくこれから研究を続けていこうと思っていたのだが……。


「金がない。」


駆け出しの研究者はいつでも金欠だ。ましてや私は多くの研究者から嫌われてしまっている。そんな状態では支援を受けることすら困難だ。どうしたものかと悩んでいたところ、良い求人を発見した。


「研究協力の求人か。研究所での住み込みで、実験動物の世話がメインの仕事ね。やむを得ないか、このままでは生活すらままならない。」


その求人に応募し、複数回の面接を経てようやく採用までこぎつけた。やたらと守秘義務についての確認が多かったが、最新の研究を行っているような研究所では情報の漏洩が命取りとなる場合が多い。そう言ったことをきちんと警戒しているのは信頼できそうだ。




そして今日、私はその研究所にて働き始める。研究所を訪れると、一人の外国人が近づいてきた。


「君が湯川君だね。私はヴィクター。この研究所の所長をしている。これからよろしく頼むよ。」


「初めまして。よろしくお願いします。」


そういって握手を交わす。随分と流ちょうな日本語だ。おそらくもう長く日本に住んでいるのだろう。


「では君の仕事について詳しく説明しようか、ついでにこの研究所の施設の案内もしてしまおう。」


ヴィクター所長の案内のもと研究所の中を案内される。もともと外部の人間だからか、一番奥の実験施設には案内されなかったが、それでも様々な施設があった。少なくとも、住み込みでも全く不自由しない程度には十分な施設がある。


最後に案内された部屋で私は驚愕することになった。ヴィクター所長が立ち止まり、部屋のスイッチを押す。すると、隣の部屋を監視することが出来るような窓が現れた。その先にいたのは数人のまだ小さい子供(・・・・・・・・・・)たち(・・)であった。


「君に世話してほしいのは彼等だ。とはいっても健康管理がメインなので、そこまで関わる必要はない。」


「ちょ、ちょっと待ってください。私は実験動物の世話をするために来たんですよ?彼らは人間じゃないですか?」


するとヴィクター所長は得心したような顔をする。


「求人内容に子供たちの世話と書いてしまうと、研究に関する守秘義務などを知らないような変な人間が来てしまうかもしれないからね。研究・実験に理解があり、彼らの健康管理なども可能な人材として君が選ばれたわけだ。」


ヴィクター所長は私の肩に手を置く。


「ではよろしく頼むよ。詳しい内容は前任者の記録を見るといい。分からないことがあれば、秘書を通して私に連絡しなさい。期待しているよ、湯川君。」


そう言ってヴィクター所長は部屋を出て行ってしまった。分からないことがあれば連絡しなさいって、分からないことだらけだ。茫然として私は部屋の中の子供たちを眺めるしかなかった。




研究所に勤め始めて数週間が経った。最初は辞めた方が良いかと考えていたが、今後の生活と研究の事を考えると続ける以外の選択がなかったのだ。

仕事についてもほとんど(・・・・)問題はない。基本的には毎日の健康管理、そして週に一回の精密な健康診断の結果をまとめ、異常がないかを確認する。これらの仕事は難しくなく、片手間でもできる程度だ。しかし、後一つの仕事だけは問題だった。


「なあ先生、こっちで遊ぼうぜ!」「ごはんまだー?」「先生、おままごとしよー。」


「私の体は一つしかないんです!一人ずつお願いします。」


そう、メンタルケアを兼ねた子供たちとの交流である。別に子供が嫌いなわけではない。しかし、複数人同時に面倒を見るのはどうにも骨が折れる。おもちゃにされている私を見てヴィクター所長が腹を抱えて笑ったときは本気で怒りそうになった。


子供たちにももちろん個性がある。積極的に交流してこようとする子もいれば、部屋の隅でじっとしている引っ込み思案の子もいる。なるべくみんなと交流すべきと考えているので、部屋の隅にいる女の子にも優しく話しかける。


「君もこっちに来て遊びませんか?」


「……。」


無言で首を横に振られてしまった。まだ心を開いてくれていないようだ。どうしたものか。何か興味を引くようなものがあればいいのだが。周りを見渡すと段ボールが目に入る。その段ボールを手に取ると、芝居がかった仕草で立ち上がる。


「さあ、今から湯川先生の実験教室の始まりだ!何の変哲もないこの段ボールを今から”空気砲”に変えて見せよう!」


しっかり隙間をなくすようにガムテープを張り付け、カッターで丸い穴をあける。しまった、このままだと分かりにくい。何か煙を発するもの……、食堂にドライアイスでもあるだろうか。


ドライアイスを持ってきて水を少しかけると白い煙が上がる。それを見て子供たちが声援を上げる。私はその煙を発するドライアイスを段ボールの中に入れ、床に置く。にやりと笑って、子供たちの方へ向けて空気砲を放つ。白い煙が子供たちの方に向かっていき、キャーっと悲鳴が上がる。とはいうものの、嫌がっているわけではなく、楽しんでくれているようだ。私の方に男の子たちが寄ってきて、「やってみたい!」というので、空気砲を彼らに譲る。バンバンたたいているので空気砲の寿命はそう長くないだろう。


袖が引っ張られる。引っ張られた方を見ると先程の女の子が目を輝かせてそこに立っていた。


「先生、あれどうやったの?なんでああなるの?」


やれやれと思いながらその子と視線の合う高さになるまでしゃがみ、説明を始める。これぐらいの子供たちにはどのような説明をしたら分かってもらえるだろうか。



閑話:湯川伸弥の過去 前編いかがだったでしょうか。気付いている人がいるかもしれませんが、今回登場したヴィクター所長はとある有名な小説・映画に登場する科学者の名前をお借りしました。詳しく知りたい方はヴィクター・フランケンシュタインでお調べください。すでに答えを言っているようなものですが()


次回投稿は10/20(水)を予定しています。

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