第四十一話:決着、そして帰還
前回のあらすじ:アインはエスカの魂に干渉し、魔核に取り込まれかけたエスカの魂を間一髪で救う。
四十一話目、第二章最終話です。
お知らせ:第二章最終話でとてもキリが良く、文字数も増えてきましたので、トーハン様の新人発掘コンテストなるものに応募しようと思います。評価・感想など今後の参考および過去話の修正に使いたいと思いますので、もしよかったら書いていただけたら幸いです。
<アイン視点>
意識が現実に引き戻される。俺はゆっくりと倒れてくるエスカを受け止める。俺の手にはエスカの胸に埋め込まれていたはずの、真っ赤な魔核が握られていた。魔核の方を見たその瞬間、力を失ったかのようにその魔核はさらさらと砂のように形が崩れてしまった。
それを見たタレス騎士団長が後ろから近づいてきて、俺に声をかける。
「一体、何が起こったのだ?彼女は、助けられたのか?」
「多分、助けられたと思います。でも、後遺症とかが残っているかもしれません。いったん様子を見るのが良いかと。」
エスカは俺に寄りかかってどこか満足げな表情で眠っているようだった。規則正しく肩が上下しているのを見るに、体に特に異常はないように思える。しかし、魔核を体に埋め込まれ、魂が浸食されかけていたのだ。目には見えない部分でどんな影響が残っているのかわからない。
「分かった。なら彼女は一旦騎士団で身柄を預かることにしよう。治癒系の魔法を使える人もいるから心配は……、っておい!大丈夫か!」
急に意識が遠のいていく。エスカの体重を支え切れず、崩れ落ちそうになるところを騎士団長が受け止めてくれる。この感覚は記憶にある。無茶な魔法を行使したことによって魔力がなくなってしまったのだろう。今度は俺の意識は闇に消えていった。
両腕に重みを感じて目を覚ます。見慣れない……、が見覚えのある景色が目に入る。どうやら俺は再び治癒院に入院することになったらしい。気怠さを感じながら右手を見ると、アイヴィが俺の腕を枕にして眠っている姿が見えた。
あれだけアイヴィに注意されてたのに、また無茶をして心配をかけてしまった。今から謝罪の言葉を考えないと、と思ったところで、ふと両腕に重みを感じていたことを思い出す。左腕を見るとそこには、アイヴィと同じように俺の腕を枕にしながら眠るエスカの姿があった。
驚きで目を見張ったところで、治癒院の若い職員が俺が目覚めたことに気付いたようだ。『今、先生を呼んできます。』という言葉とともに俺の周囲があわただしくなる。その喧騒に気づいたのだろうか、俺の腕を枕にしていた両名がゆっくりと顔を上げる。数回パチパチと瞬きをした後、こちらを向いたアイヴィが突撃というには生ぬるいほどの勢いで抱きついてきた。
「ぐはっ」
「目が覚めたんですね、アイン君!もう三日も目を覚まさなかったのでもう心配で、心配で。」
三日!?俺は三日も眠っていたのか。抱き着かれながら体の状態を自分で確認する。特に痛みもなく、どこも異常がないようだ。魔力も操作して、魔法関連の異常がないかも確認する。特に問題はない。アイヴィがようやく離れてくれた、と思ったら今度は俺の肩をがっちりとつかむ。
「私、言いましたよね。行くのは止めませんが、無事に帰ってきてくださいって。意識を失って三日間も目を覚まさない状態のどこが”無事”なんですか!?」
「返す言葉もありません……」
アイヴィの圧がすごい。俺は助けを求めるように周囲を見渡す。治癒院の人たちは少し離れた場所で俺たちの会話が終わるのを待っているようだ、助けてくれる様子は見られない。俺は藁にも縋る思いでエスカの方を見る。エスカはコホンと咳払いをしてアイヴィの肩をたたく。
「あの、アイヴィさん……。私もアイン君と話したいので、そろそろ離してもらえませんか……。」
アイン君……?エスカにそんな呼ばれ方したことなかったはずだが。
アイヴィの首がぐるりと回転し、今度はエスカの方に顔を向ける。
「だいたい、あなたもです。事件に巻き込まれたことに関しては私はよく知らないので、何も言いません。ですが連絡を受けて治癒院に来てみれば。意識を失ったアイン君と、同じく意識を失っているにもかかわらず、アイン君に抱き着いて離そうとしないエスカさんの姿があったんですよ!あんなに安心しきった顔をしていて、結局目が覚めるまでアイン君から離れませんでしたし。治癒院の方もどうしたものかと頭を悩ませていましたよ。」
「ちょっ!アイヴィさん!?」
エスカを助けるために最後まで思考し続けた俺の頭が、目の前の状況に思考を放棄したがっている。エスカは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせている。対照的にアイヴィは一気にまくし立てて少し落ち着いたのか、ベッドの横に置かれている椅子に座った。
まだ顔から赤さが抜けていないエスカは、再び咳払いをして少し精神を落ち着けてから話し始める。
「アイン君、この度はいろいろとご迷惑をおかけしました。そして、私の命を救っていただき本当にありがとうございました。あなたにはいくら感謝してもしきれないほどです。」
エスカの真剣な口調でのお礼に思わず俺も顔を引き締める。
「あなたに決闘を挑み敗れた時、コッド先生が私を人体実験に利用しようとしていたと知った時、そして私の体が魔王に乗っ取られてアイン君や騎士団長と戦わなければならないと知った時。一体何度私の心は折れ、諦めてしまったか分かりません。そんな私が今ここに無事な状態でいられるのはあなたのおかげなのです。」
エスカの心の内は知らなかったが、そこまで辛い状況だったのか。それはそうだろう、エスカは貴族として普通の生活をしてきたお嬢様なんだ。決して強くなんかない。だからこそ、助けられて本当に良かったと思う。
「つきましては、私はあなたのもとで魔法を学び、強くなりたいと思いますのでよろしくお願いいたします。アイン君、いえ、アイン師匠。」
ん?急な話の展開についていけなかった。
「ちょっと待って。師匠ってどういうこと?」
「そうですよ!一体どういうことですか!」
アイヴィも驚いた様子で口をはさむ。エスカはいたってまじめな表情を崩さないまま、言葉を続ける。
「どうもこうもそのままの意味です。今回の事件の原因の一つは私が弱かったことです。ですので、師匠に魔法を教えてもらい、より強くなることで今回のような事件を回避しようということです。アイヴィさんの成長具合を見れば師匠の指導力は確かなものだと、誰も疑わないでしょう。ぜひ私にも手取り足取り教えてください。」
「いや、魔法を教えるのはいいんだけど、別にアイヴィも手取り足取り教えているわけじゃないから。あと、師匠だけは絶対にやめて!」
訂正する。エスカは俺なんかよりよっぽど強いのかもしれない。
二人とのやり取りで、ようやく全部終わって日常へ帰ってきたんだという実感がわいてきた。さて、退院したら次は何の実験をしようか。
<???視点>
時は少しさかのぼる。ちょうどアイン達がエスカを助け終わったころ、実験場の屋上に一人の男が立っていた。
「やっぱり保険てのはかけてなんぼだよな。まともにやりあってたら、間違いなくおっさんに殺されてたわ。」
おっさん――騎士団長との戦いはかなりギリギリだった。かけていた保険のすべてを切る羽目になるとは思わなかった。というのも始めに魔法を使用した際に、”種”を残しておいたのだ。首を落とされる直前に仕込んでおいた”種”の魔法を発動し、俺の首が落とされる幻術を見せたというわけだ。保険を使い切っていた以上、下手に追撃することはせず、大人しくこうやって行く末を見守っていた。
「しかし、こうまであっさりやられちまうかぁ。やっぱ壊れかけの魔核だと、この程度が限界って事なのかね?」
魔王の魔核は勇者との戦いで大きく損傷していた。何とか無事な部分だけを用いて、戦力にすることが出来るかを見極めていたのだが、あれでは駄目だ。実力は全盛期とはかけ離れてしまっているにも関わらず、魔王としての自我は残りすぎている。ろくな戦力にならない上に、仲間同士の不和を引き起こしかねない。
「あのおっさんが元の人間もろとも殺すかと思っていたが、まさか魔核だけを取り除けるなんてな。これはあの小僧のことも含めて、良い土産話が出来た。あの方もきっと喜ぶだろうな。」
そう言って周囲に溶け込む魔法を発動し、魔族特有の翼を広げ飛び立つ。夜の闇に紛れていった男に気付くものは誰もいなかった。
四十一話、そして第二章いかがだったでしょうか。最初の魂の設定を考えたころから、この展開は考えていたのですが、想像より長くなってしまいました。終盤かなりのハイペースで更新していたので、今後はゆっくりマイペースで更新していきたいと思います。
今後の予定:第三章の前に閑話を数話投稿予定です。湯川の過去などを描きます。一応予定は10/18(月)に一つ投稿予定ですが、少し予定が入っているのでその翌日になってしまうかもしれません。




