第三十九話:魔王、そして魂
前回のあらすじ:魔王との戦闘が始まる。アインはエスカを救うために、殺さないことを決意する。
三十九話目です。引き続き魔王との戦闘です。まだ二章はもうちょっとだけ続きます。
俺は右手を前に突き出し、火の魔法を発動する。複数の火球を発生させ、エスカに向かって放つ。しかし、魔王は歯牙にもかけないという感じで軽く避けていく。
「小僧、無詠唱で魔法が使えるのか。身体強化の魔法も併用しておるし、なかなかやりおる。まるでかつての勇者のような戦い方じゃ。もちろん、威力も速さも比べ物にはならぬがな!」
俺を点でとらえるのは面倒だと感じたのか、放ってくる雷撃の範囲が広がってきた。かろうじて一撃目はかわすも、続けて放たれた二撃目はかわし切れない。俺は慌てて転移の魔法を発動し、魔王の背後に回る。そして俺は勢いそのままに回し蹴りを放つ。直撃するかと思われたが、魔王はかろうじて反応して防御した上に、後ろに跳んで俺の蹴りの勢いすらも弱めたようだ。
「かかっ、転移の魔法さえ使いこなすか。小僧、お主本当に人間か?魔族といわれても不思議に思わんぞ。」
「俺は正真正銘、人間だ!」
転移の魔法は魔力の消費が大きく、何度も使えるものではない。中距離から一方的に雷撃を放たれると、こちらとしては避けるしかできないと判断し、身体強化の魔法を使って接近戦に持ち込む。魔王も身体強化の魔法を使って応戦してくるだろうが、先程のような不意打ちでなければ対応することは可能だろう。
ともに武器は持っていないため、肉弾戦が始まる。俺が拳を突き出せば魔王はその身体能力で回避し、魔王が蹴りを繰り出せば俺は父さんから鍛えられた動きで受け流す。一進一退の攻防がしばらく続いたが、その均衡は魔王によりあっけなく崩されることとなった。
「こうしているのも面白いが、ずっと同じじゃと飽きてしまうからの。少し変化を加えてやろう。」
魔王はそういうと全身から電気を迸らせる。そして魔王はあろうことか、自分を中心に放射状に雷撃を飛ばしたのだ。俺はかわすことが出来ず、その雷撃を受ける。
「ぐっ、ぐあっ!」
範囲を広げていたからか、威力自体は大したことないが、電撃を受けたことにより体がしびれわずかに動きが鈍る。こちらのそんな隙を逃してくれるはずもなく、全身から電気を迸らせたまま魔王の正拳突きが俺の腹に刺さった。
あっけなく俺は部屋の入口の方に吹き飛ばされる。受け身を取りたいが体がまだしびれていてうまく動かせない。衝撃に備え覚悟を決めるも、想像していたような衝撃は訪れなかった。
「これは一体どういう状況だ?彼女は救助対象の少女であろう?それが一体どうしてこんなことになっている。」
上を見上げるとそこには吹き飛ばされた俺をキャッチしてくれたタレス騎士団長がいた。困惑したような表情を見せるが、隙は見せていない。目の前の魔王を最大限に警戒しているようだ。
「新手か?全く、あの男はろくに仕事もできんのか。まあ、我も楽しくなってしまって遊びすぎたかの。」
魔王はそう言って肩をすくめる。しびれが取れてきたので、俺は何とか立ち、騎士団長に説明する。
「簡単に状況を説明します。彼女は体はエスカ・ヴィレッジですが、魔核を埋め込まれる実験によって人格がかつて魔王と呼ばれていた存在になっています。かつての魔王のように雷を用いた魔法を得意としていて、応用で身体強化なども使えるようです。」
「魔王……だと……?」
目の前で不気味な笑みを浮かべる魔王を観察するように騎士団長は見つめる。そして部屋をぐるりと見渡し、俺が放り投げた剣に目を止めた。
「なるほど、彼女を助けるため、殺さないようにと判断したわけか……。だが、すまないな、アイン君。」
騎士団長は魔剣の能力を発動し風の刃を作り出す。しかし、その威力は明らかに人間に向けて放つものではない。
「騎士団長!?何を!」
俺が止める間もなく、風の刃が魔王に向かって放たれる。魔王は大きく後ろに跳ぶことでその風の刃をかわすが、いくつかかわし切れなかったのか、切り傷が少し見える。魔王の顔から余裕そうな笑みは消え去り、真剣な表情へと変わる。
「何をしてるんです騎士団長!あんなものエスカにぶつけたら死んでしまう。そうなったら助けられるものも助けられなくなります!」
「君の『助けられる』という言葉は確実なのか?奴が魔王の力を持っているのだとしたら、それはこのドレッド領、いや人類にとっての脅威となりうる。私は騎士団長としてすべきことをするだけだ。」
そう言って騎士団長は魔王に切りかかる。魔王はそれを軽々とかわし、放り捨ててあった俺の剣を拾い騎士団長に応戦する。剣と剣がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた。
二人の激しい剣戟の音を聞きながら、俺は唇をかみしめる。騎士団長の言うことは全くもって正論だ。人類の敵となる魔王を万が一にも逃してはならない。だからこの場で殺してしまう、という判断は何も間違っていない。
(けど、だからって……エスカを見殺しにしていいのか……)
魔王を殺すことはエスカを殺すこと。今後の魔王の脅威を考えるのであれば、エスカの命だけで済むというのは破格なのかもしれない。たった一人の命と、他の大勢の命。本当は悩む必要すらないのかもしれない。
二人の戦闘は激しさを増していく。先程までの俺の戦いがまるで児戯だったかのような戦いだ。剣を切り結びながらも魔法で牽制し、時には距離を取って高威力の魔法を放つ。両者の実力はほぼ互角のようだ。
(いや、エスカはただ巻き込まれただけだ。この糞みたいな実験に。彼女が死ななきゃいけない理由なんて一つもない!)
俺は戦いから目をそらさずに頭をフル回転させる。どうやったらエスカを助けることが出来るか。その解決策だけを全力で考える。思い出せ、何かヒントはなかったか?
――なんの実験だった?
人間に魔核を埋め込んだ際にどのような反応が見られるかの実験だ。魔核が魂に浸食し、肉体がそれに耐えられるかによって結果は変わっていた。
――いや、そもそも魂の浸食ってどういうことだ?
魔王が言っていたじゃないか、”魔核こそ我の魂である”と。本来はエスカの肉体にはもちろん、エスカの魂が宿っている。しかし、その肉体に魔核、つまり新たな魂が入る。エスカの体に存在した魂を上書きするかのように。
――その魂の浸食はすでに完了しているのか?
これも否なはずだ。タレス騎士団長と互角の実力を今は見せているが、記録の中の魔王はもっと恐ろしい実力を持っていたはず。その本来の実力が発揮されていない以上、まだ完全に浸食しきっていないということではないか。
待てよ、つまり今はエスカの体にエスカの魂と魔王の魂、二つの魂が存在しているということに他ならないか?
そこまで考えて、俺の頭に衝撃が走った。一つの体に、二つの魂。そして魂が時間をかけて混ざりあい、一つになる。この状況を俺は知っている。いや、体験している。俺自身が生まれた時、アインシュ=ヴァレンタインの魂と湯川伸弥の魂、この二つの魂が混在しているような状況だった。
今の俺の状況を考えるに、完全に混ざりきってしまってはその二つを分けることはできないだろう。だが、まだ混ざりきっていないのなら話は別だ。この世界には魔法がある。魔法は自由なものだ。事象に対する理解・経験によって発動する魔法は大きく変化する。
そして、俺は魂に関する理解・経験がわずかながらもある。だとしたら、魂に干渉することだって可能なのかもしれない。
魂への干渉なんて、人間には到底届かない神の領域なのかもしれない。それでもやってみるだけの価値はある。
俺は決意に満ちた目で、エスカに埋め込まれた魔核をじっと見つめた。
三十九話いかがだったでしょうか。魔核と魂の関係、そしてアインの転生の伏線をようやく描けました。なんなら、この展開を描きたいがためにこの作品を始めたといっても過言ではありません。希望が見えてきたところで次回に続きます。
ワクチンを打ってくるので、その副反応の具合によっては明日の更新はないかもしれません。遅くとも2日後には更新します。




