第三十五話:友達、そして暴動
前回のあらすじ:ラビの友情パンチで目が覚めたアインはエスカの救出に向かう。
今回はアイン君は特に何も起こらない移動の最中なので、登場しません。アインの移動の間他の人がどう動いていたかのお話です。
<ヨーダ視点>
現在俺はドレッド領の町で、各地で起こっている暴動の鎮圧のため動いている。最近治安が悪くなっているのは知っていたが、このような暴動に発展するとは思いもしなかった。
後ろから長い棒のようなもので殴りかかられる。俺はそれをかわし、首元に手刀を落とすことで相手を気絶される。
暴動を起こしているとはいえ、市民であることに変わりはない。なるべく傷つけないように鎮圧せよとの命令だ。騎士団として鍛えられているため、特に問題はない。いや、ないはずだった。
「またか!」
気絶させたはずの人が起き上がって襲い掛かってくる。大多数がおそらく操られているだろう市民であるが、時々人に化けた魔物が混ざっているのだ。それが暴動の鎮圧をより一層長引かせていた。
真の姿を現した魔物を剣で切り伏せる。強くはないが、普通の人間なのか魔物なのか見わけがつかない。
人を傷つけるわけにはいかないからどうしても後手に回ってしまうのだ。
近くで俺と同じように暴動の鎮圧にあたっているデザルグの方を見る。ちょうど今、一人気絶させている。どうやらその人は人間だったようで、ピクリとも動かなくなった。
デザルグの方に近寄り、声をかける。
「まったく、厄介だな。なんでこんな急に暴動が起こるんだよ。しかも人に化ける魔物付きときた。面倒極まりないな。」
「ヨーダ、お前これが本当にただの暴動だと思っているのか?」
「あ、どういうことだよ。」
「明らかに操られている様子の市民、人に化ける魔物。どう考えても、時間稼ぎだ。俺たち騎士団や衛兵を自由に動かさせないための。しかもこれだけの人数に精神系の魔法を使っているのだとしたら、敵はただの人間じゃない。おそらく魔族だ。」
確かにそれなら魔物がいることにも納得がいく。だが、もしそうだとして、分からないことが多い。
「その魔族とやらの目的は何だ?いや、さっさと終わらせるならその魔族を探しに行った方がいいのか?」
「馬鹿か。それが出来るならとうにやっている。奴らは的確に俺たちの戦力を分散させるように暴動を起こしているようだ。魔族を倒すために下手に戦力を割けば、町や一般市民に被害が出るぞ。」
敵は相当な策士のようだ。こう話している間も次々と操られた暴徒たちが迫ってくる。俺とデザルグは彼らを気絶させるために再び構えをとった。
<タレス視点>
「騎士団長、次は東地区で暴動が起こったようです。3番通りから中央通りにかけて、規模は30名程度。魔物の数は不明です。」
現在私は町の中央付近の対策本部にて、各所の暴動を鎮圧するための指示を出している。南地区の暴動が治まりつつあるため、その人員を東地区に回すように指示する。
今回の暴動が我々騎士団の足止めである可能性は非常に高い。だが、目的も敵の居場所も分からない現状では暴動を抑えることしか出来ない。何とか耐えてもらっている部下たちのことを思い、拳を握る力が強くなる。
魔法学院の学院長から、生徒の一人が行方不明になっており、何か危険な魔法実験に巻き込まれている可能性があるとは聞いているが、そちらの方に人員を割く余裕がないのが現状だ。
指示出しが一段落し、用意されている椅子に腰を掛ける。これからどのように動くべきか悩んでいると、視線の先に何か落ちているのが見えた。拾い上げると、それは一枚のくしゃくしゃにされた紙だということが分かった。
なぜこんなところに……?疑問に思いながらも、紙を広げるとそこにはこの町の地図であることに気付いた。ただ、普通の地図と違うのは町の各所に印がつけられていることだ。
すぐに気づく。この印は今まで暴動が起こっている場所だ。なぜ今まで気づかなかったのか。この地図を見れば一目瞭然だ。不自然に印がつけられていない場所がある。おそらくここに敵が、もしくはその手がかりがあるはずだ。
愛剣である魔剣ヴェントを手に取る。そして本部で奔走している副団長に声をかける。
「この場は副団長に任せる。以降は副団長の指示に従うように。私は、敵がいると思われる場所へ向かう。暴動を鎮圧しきっても私が戻ってこない場合はここへ応援をよこせ。」
「えっ、団長一人で行かれるんですか?私もついていきます。」
まだ若い騎士が同行を申し出る。しかし、私は手をそちらに向け必要ないという意思を伝える。
「最優先は暴動の鎮圧だ。それに俺の魔剣は危険だからな。下手をしたら巻き込んでしまう恐れがあるため一人の方が動きやすい。」
そう言って魔剣の能力を発動し、自分の周りの空気を操作する。自分の体を空気で支え、空中に浮かび上がる。そしてそのまま空を飛んで、道中の建物をすべて無視し、まっすぐ目的地に向かう。
(だが、この紙は一体誰が落としたものなんだ……?明らかに騎士団しか知りえないはずの情報だ。だが、直接私に言ってこないということは騎士団の者ではない。やはり罠なのか……?)
少し逡巡するが、関係ないとばかりに首を振る。たとえ罠だったとしてもすべて切り伏せてしまえばよいだけだ。
<エスカ視点>
私は治癒院を出た後、コッド先生と合流し、もう使われていない廃工場にやってきた。
「あの、先生。こんなところで実験を行うのでしょうか?」
「ああ、そうだ。魔法の実験をする際に周囲への影響が少なくなるように、こうやって使われなくなった建物を利用することはよくあることだ。この建物は見ての通りもともと工場で、意外と頑丈なつくりをしている上に、防音の設備も整っていてな。広さも十分だし、環境としては最高なんだ。」
そんなこと聞いたこともないが、きっとそういうものなのだろう。私は納得して、廃工場の中に足を踏み入れる。確かに思っているより中はきれいにされているし、使用感も見られる。コッド先生が魔法の実験にこの場所を使っているというのは事実なのだろう。
コツコツと足音を鳴らしながら歩くコッド先生の後ろをついていくようにして、通路を進んでいくとかなり広い部屋に着いた。簡易的なベッドや人がすっぽり入るくらいの卵型の何かの装置、そして部屋の隅には中に何も入っていない檻がたくさん置いてあるのが見えた。
「いろいろ置いてあるけど、今回は使わないから気にしないでくれ。さあエスカ、ここのベッドに横になるんだ。」
コッド先生に言われるがままにベッドに横になると、バチンッという音が右手のあたりから聞こえた。右手を見ると動きが阻害されるような手枷がはめられていた。困惑していると、左手からも同様の音が鳴る。思わずコッド先生に助けを求める。
「先生!これは何なのですか?外してください!」
「心配はいらない。今回の実験では多少の痛みが伴う場合があるのでな。実験途中に暴れられる方が危ないので、一時的に拘束しているだけだ。」
そう話しているうちに両足も拘束されてしまった。急に不安感がこみあげてくる。何とか枷を外そうともがくが、私程度の力ではびくともしない。
「さて、実験を始める前に、今回の実験の協力者を紹介しようか。いるんだろう?」
すると、部屋の闇になっていた部分からフードを被った一人の男が姿を現した。その男はゆっくりとフードを外し、その顔が露になる。私は驚愕した。紫の肌に角。それは魔族の特徴に完全に一致していた。
「魔族ッ……!?」
その魔族は笑いながら親しげに手を挙げる。
「よっ、嬢ちゃん。ちょっと訳あってこいつに協力してるんだ。本当はもう一人いたんだが、あいつは戦闘狂でな。勇者の魔力を感じた瞬間に飛んで行っちまったんだ。しかもそれで返り討ちにあって死んじまったんだから笑えるよな。」
少し前に学院に急に現れた魔族、それもコッド先生の協力者……?不安感が恐怖感へと変わる。何とか抜け出そうともがくも枷はびくともしない。
「話はこれくらいにして実験を始めようか。外は大丈夫なんだろうな?」
「言われた通り、いろんな場所で暴動起こしといたぜ。騎士とかがここに来るのは結構時間かかるんじゃねぇの?」
「なら良い。さあ始めようか。」
そう言ってコッド先生は懐から何かを取り出した。それは不気味に赤く輝く石のようなものだった。
三十五話目いかがだったでしょうか。あまりたくさん助けに来ると描くのが大変になるので、助っ人はタレス騎士団長だけになりました。エスカに対して「魔法使えよ」という意見はごもっともなのですが、恐怖と焦りでそこまで気が回らなかったということでお願いします。




