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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第二章:学院編
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第三十三話:失踪、そして捜索

前回のあらすじ:エスカが治癒院から姿を消し、コッド先生の行方も分からない。いったいどこへ?


現時点では出てきていない「湯川の過去」に関する設定が出てきます。これについては2章終わりの閑話で描く予定ですので、何か疑問に思ってもスルーしていただけたら助かります。

闇雲に探してもエスカやコッド先生が見つかるとは思えない。何か手がかりを探さないと。思い出せ、何かヒントはないか……。


「あの、コッド先生の研究室には何か残っていないでしょうか?」


アイヴィがそんな提案をしてくれる。確かにエスカを何らかの目的で誘拐したのであれば、研究室に手がかりが残っている可能性はある。ん、待てよ、研究?


「そうか、禁書庫にも手がかりがある可能性がある。」


「禁書庫じゃと?どういうことじゃ?」


学院長が怪訝そうな声を出す。


「そもそも、エスカを誘拐する理由が分からないんです。そんなことをすれば、コッド先生も学院にいられなくなる。だけど例えば、もう学院にいる必要がなくなった、のだとすればこんなことをしても問題ない。」


「まさか、禁書庫の資料を見るために学院の先生になったとでも言うのか?」


「そこまで言えるかは分かりません。学院で先生をしている間に何かきっかけがあったのかもしれない。けれど、可能性はゼロではないと思います。なので、コッド先生が禁書庫で何を調べていたのかを知るために禁書庫を開けてくれませんか?」




俺と学院長は禁書庫までやってきた。アイヴィにはコッド先生の研究室を調べてもらっている。


コッド先生が調べていた資料を見つけるのは簡単だった。普段から使用する部屋ではないため、コッド先生・アベル先生・俺が調べたところだけほこりが払われていたのだ。

俺が自分で調べた資料は覚えており、アベル先生は魔法陣関連の資料を調べていた。残ったものがコッド先生が調べていた資料というわけだ。だが、その資料というのが問題であった。


「『魔石を人間が取り込んだ際に見られる変化の考察』、胸糞悪くなる実験だ。」


コッド先生が見ていた資料は複数あったが、その一つがこれだ。どれも魔石や魔核を動物や人間に取り込ませ、どのような変化が見られるかについて詳細に観察が行われている。

一連の実験で失われた命の数は一つや二つではない。百を超える人間を実験動物(モルモット)として扱って、殺している。


思わず唇を強く噛んでしまう。前世でもこのような非人道的な実験をしている者たちがいた。(湯川)はある時から、そういった実験を忌避していた。別に正義感が強いとかそういうわけではない。ただ研究や実験にだけは、真摯であろうと、そして楽しもうと心に決めていたのだ。


「魔石や魔核を用いた人体実験か……。まさか、エスカ君をこの実験の実験体にしようということかのう……。」


学院長も険しい顔をしている。


資料によると、魔石や魔核を人間が取り込んだ際に見られる反応は三つあるらしい。


一つ目は体が崩壊するパターン。これは魔石を取り込んだ際にその浸食に体が耐え切ることが出来ないときに起こるらしい。そして、この崩壊のパターンが大部分を占めているようだ。


二つ目は体が魔物に変化してしまうパターン。何とか崩壊を免れてはいるが、人間としての形を保てず、魔物に変化してしまうようだ。どのような魔物に変化するかは使用した魔石に依存していて、魔石のもとになった魔物に似た形に変化することが多いと記されている。


三つめは体はそのままに、魔力が大きく向上するパターン。このパターンは数ある実験の中でも一例だけ起こった珍しいパターンだ。かなり実力のある魔法使いに、魔族の魔核を取り込ませた際に起こったらしい。人が変わったかのように性格が変わったが、魔法使いとしての技量は大きく向上していたようだ。


肉体や魂が魔石の浸食にどの程度耐えられるかで、どのパターンが起こるのかが決まると記されている。さらに詳細を突き詰めるための実験を進めようとしたところで、研究は凍結になったようだ。


……あまりにも非人道的すぎる。この研究の過程で失われた命は百では足りない。強力な兵士を作るための実験だったようだが、こんな実験は絶対に許容してはならない。そして今、エスカがこれに近い実験の実験動物(モルモット)になろうとしているかもしれない。だとしたら何としても助けなくてはならない。


そう改めて決意し、再びアイヴィと合流した。




「すみません。こちらではどこに向かったのかの手がかりは見つけられませんでした。」


合流したアイヴィが開口一番にそう言った。どこに行ったかまではこちらも結局分からなかったが、こちらの見つけた資料だけでも重要な情報となる。


実験の詳細は話さず、エスカが危険な実験に参加させられている可能性が高いとだけアイヴィに伝え、今後の方針について話し合う。学院長は今後どう動くつもりなのだろうか。


学院長が髭に手を当てて何か考える素振りを見せる。


「いや、ここからは大人に任せるんじゃ。すでに憲兵団も動いとるし、誘拐となれば騎士も動くじゃろう。ここまで情報をくれた事には感謝する。君らはもう寮に戻って大人しくしておくんじゃ。」


頭が真っ白になる。今、何と言った?大人しくしておく?思わず歯を食いしばり、学院長に詰め寄る。


「そんなこと言ってる場合ですか!俺の推測が正しければ、エスカは実験の素体(モルモット)にされている可能性が高い。それも危険な実験の。すぐに助けないと!」


「あ、アイン君。落ち着いて。」


さらに学院長に詰め寄ろうとするが、後ろからアイヴィが止めてくる。


他人の命を犠牲にするような狂った実験だけは許すわけにはいかない、それだけは前世の俺(湯川)の魂が許せない。思わず手を強く握ってしまう。


俺の焦りの感情とは正反対に、冷たい目をした学院長は言葉を紡ぐ。


「アイン君、君は考えも大人びておるし、実力も騎士顔負けかもしれん。じゃが、それ以上に君は学院の生徒であり、何より子供なんじゃ。少しは大人に頼ることを覚えい。……学院長命令じゃ、寮で待機してなさい。」


俺が子供だから。そんな理由なのか。前世を加えれば何歳だと思っている。


そう叫びたい。だが、前世のことなんて信じてもらえないだろうし、この世界では俺はまだ子供なのも間違いない。握る力が強すぎたのだろうか、血が垂れてきている。


「アイン君、ここは先生方に任せましょう?大丈夫です、きっとエスカさんも無事に帰ってきますよ。」


アイヴィにもそういわれ、俺は握った拳を地面にたたきつける。学院長は俺の様子を一瞥した後に、学院の方に向かうのだった。





アイヴィが心配そうにこちらを見ている。なんと声をかければ良いか迷っているようだ。今声をかけられても、この苛立ちと怒りをアイヴィに向けてしまい八つ当たりしてしまうかもしれない。


俺はゆっくりと立ち上がり、アイヴィに声をかける。


「ごめん、アイヴィ。今日はもう寮に戻るよ。」


声が震えているのが自分でもわかる。今の俺はどれほど情けない顔をしているのだろうか。アイヴィをその場において、力なく寮に向かって歩き始めた。

三十三話目いかがだったでしょうか。どれだけ大人びていても子供は子供、というのが学院長の考えです。実際めちゃくちゃ正論なのですが、言われる側の子供はどうしても心に来るものがありますね。アインは湯川の記憶を持っていることもあって、学院長の考えも理解できてしまいより一層悩んでいます。

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