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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第二章:学院編
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第三十一話:お見舞い、そして疑似魔剣

前回のあらすじ:エスカとの決闘で大怪我したアインは治癒院に入院する。ヨーダ・ラットの二人の兄とアイヴィで話をした。


三十一話目です。将来的に使うかもしれないけど、今のところは使う予定のない設定を描いてしまいました。自分の良くない癖ですね、計画性がなさすぎる。

入院してから三日ほど経過し、今日はようやく退院の日だ。久しぶりに寮の自分の部屋に戻る。入院している間は魔法の実験も行うことが出来なかったので、暇を持て余してしまっていた。さて、さっそく何の実験をしようかなと考えていると、扉からラビが入ってきた。


「アインじゃないか。おかえり。ようやく退院できたんだね。」


「ただいま。俺からしたら、あれだけの大怪我でこんなに早く退院できる方が驚きなんだけどね。」


「確かにその通りだ。でも外傷は治せても、体の内側を治すのはまだまだ難しいらしいね。」


「俺も医療系は詳しくないけどそうらしいな。」


いずれ医療系の魔法について研究してみるのもいいかもしれない。ただ、下手に実験できないのが厳しいところではあるが。


「エスカも外傷はすっかり治っているはずなのに、まだ目が覚めていないからな。その内覚めるだろうけど、なんでも魔法でうまくいくってわけじゃないんだろう。」


そう、エスカの意識はまだ戻っていない。やはり頭をぶつけたのが大きかったのだろう。治癒院の先生も、こればっかりは時間が解決するのを待つしかないと言っていた。


「そういえばラビに聞きたいことがあったんだ。決闘の前に俺らのところに走ってきたのは決闘のことを教えるつもりだったのか?エスカの様子が急に変わっていたのも知っていたのか?」


「あー、あれね。最近エスカさんが落ち込んでいたっていう話なのに、やたら覚悟を決めたような顔をして廊下を歩いているのが見えてね。今までのことを考えれば、アインのところに決闘を申し込みに行く可能性が高いと思ったんだよ。」


それにしては随分と必死の表情だったような気がするが……。


「ま、まぁ、こうして無事だったんだし別に良いじゃないか。それよりそろそろ夕食の時間だろう?さっさと食堂に行こうぜ。」


露骨に話をそらされた。話したくないのなら別に無理に聞き出す必要はないだろう。誰しも知られたくない秘密の一つや二つ持っているだろうからな。




退院した翌日、久しぶりの授業を終えた放課後、俺はアベル先生の研究室を訪れていた。研究室の扉の前に立つと中がどうも騒がしいことに気付く。来客だろうか?逡巡するも退院の報告だけでもしておこうと思い、ノックする。すぐにアベル先生の「少々お待ちください!」という言葉が聞こえ、ほんの数秒の後扉が開く。


扉の向こうには、いつも以上にぼさぼさな頭でひどく疲れたような顔をしたアベル先生が立っていた。


「えっと、お久しぶりです、アベル先生。無事退院したのでその報告をと思ったんですけど……。どうかしたんですか?ひどく疲れているように見えますけど。」


訪れたのが俺だとわかるとはっきりと「まずい」という顔をして小声で俺に話しかける。


「退院おめでとう、アイン君。本当は部屋に招いてじっくり話をしたいところなんだけど、今はまずい。気づかれないうちに早くかえ「おいアベル!どうしたんだ?」」


アベル先生の向こうから見覚えのある女性が歩いてくるのが見えた。アベル先生は俺を隠そうとするが、その女性も俺に気付いたのがどんどん近づいてくる。


「うん?そこの君は確か、私の店まで来てくれた少年じゃないか。アベル、なぜその少年を隠そうとしているんだ?」


中にいたのは『魔道具店ルネ』の店主のルミーネさんだった。アベル先生はこの人に会わせないようにしていたのだろうか。


「立ち話もなんだ。中に入ってもらってはどうだ?私からしても全く知らないというわけでもないからな。それに少年は魔法陣を勉強しているんだろう?いい経験になるはずだ。」


ルミーネさんの店にあった魔道具はどれも気になるものばかりだった。話を聞けるならいい機会だろうと思い、アベル先生の方を見る。アベル先生も断りの言葉が思いつかなかったのか観念した様子で俺を部屋に招き入れた。


「さあ、説明してもらうぞアベル。この"魔石の設置場所が考えられてない"魔法陣はどういうことだ?」


ルミーネさんのその言葉を聞いた瞬間、何か嫌な予感がした。その魔法陣は普段俺が使用しているものに違いない。アベル先生の方に顔を向ける。アベル先生は良いことを思いついたと言わんばかりに、俺に向かって悪い笑顔を見せる。


「まあ待て、僕はアイン君にコーヒーを入れるから。そういえばその魔法陣だが、アイン君が開発者だ。僕なんかよりはるかに詳しいぞ。」


この先生、生徒を売りやがった。俺の両肩に手がのせられる。ゆっくりと顔を動かすと非常にいい笑顔をしたルミーネさんがそこにはいた。




「ふむ、魔力操作に無詠唱魔法、そして魔石を利用しない魔法陣。少年は私が想像していたよりはるかに優秀な魔法使いだったんだな。」


結局すべて吐かされてしまった。何となくアベル先生がルミーネさんを苦手にしている理由が分かった気がする。


「しかし、面白い。だったらこんな魔法陣も動かすことが出来るのだろうか。」


ルミーネさんが紙の上に一つの魔法陣を描き始める。俺とアベル先生はその魔法陣をのぞき込み驚愕する。


「縦長の魔法陣……。確かに魔石を必要としないから、形は何でも良いんだ。」


盲点だった。魔法陣は基本的に魔石を中心に同心円状に広がっていく。魔法陣といえば円形だと思い込んでしまっていた。まさか話を聞いただけで形の自由という発想に至り、試作の魔法陣まで描くことができるとは。

おそらくこの魔法陣は剣から風の刃を発生させて、刀身にまとわせたり、あるいはその風の刃を飛ばしたりすることが出来るだろう。


「相変わらずだなルミーネ。一を聞いて十を知る、君の能力は本当にうらやましいよ。」


「この魔法陣が動くのであれば、騎士団長の持つ魔剣ヴェントに近い性能の剣を作ることが出来そうだな。」


魔剣とは、剣の根元に魔法陣が描かれている特別な剣のことである。魔法陣自体が特別なのはもちろんなのだが、それ以上に使われる魔石が特別なのだ。強力な魔物の魔石でありながら、剣に装着できるほどのサイズであること。一般に魔物が強力であればあるほど、その魔石も巨大になっていく。ただ、例外が存在し、それが魔核と呼ばれる特別な魔石だ。魔剣に使用される魔石はすべて、この魔核を用いている。


余談であるが、タレス騎士団長の使用する魔剣ヴェントは、王国を襲った風を操る魔物の魔核を使用しているらしい。


「確かにこれなら魔剣に似た性能の剣を作ることが出来ます。それも大量に。」


「大量に作っても使える人はほとんどいないのだがな。けれど面白いな、"疑似魔剣"といったところだろう。もし一般兵が魔力操作を使えるようになったら、国の戦力は跳ね上がるな。試しに今度一本作ってみるか。」


今試すことはできないので、この話はここまでとしておき、ルミーネさんの店にある未完成な魔道具の改良案を議論することになった。


ルミーネさんの発想や行動力は目を見張るものがあるが、どうにも雑な一面があるようだ。ルミーネさんがアイデアを出し、大雑把に魔法陣を描く。その雑さに辟易しながらも、アベル先生が細かいところを調整するといった流れで議論は進んでいく。


何だ、この二人、相性良いじゃないか。

三十一話目いかがだったでしょうか。前書きに書いたように、今のところこの疑似魔剣が使われるのはいつになるかわかりません。破天荒な人と堅実な人のコンビって意外と相性がいいと個人的には思っていますが、皆さんはどうでしょうか?

最近は毎日投稿していましたが、次回更新は10月4日(月)を予定しています。

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