第二十九話:決闘、そして暴走
前回のあらすじ:エスカから決闘を申し込まれる。それはコッド先生の指金のようだ。
二十九話目です。前回に引き続きエスカ視点からのスタートになります。
<エスカ視点>
「アインシュ=ヴァレンタインにその決闘で勝つことによって、自らが一番であると証明するんだ。」
確かに、決闘で勝つことが出来たら自らが一番だと証明できるかもしれない。けれど、それは「勝つことが出来たら」の話だ。もし負けてしまったらその時は本当に認めなくてはいけなくなる、エスカ=ヴィレッジはアインシュ=ヴァレンタインより劣っている、と。
「でっ、出来ません。彼は魔族を打ち倒すほどなんですよ。それに彼が決闘を受けるとも思いません。」
言っていて胸が締め付けられる。これではまるで、すでに認めてしまっているようではないか。
「ルールは立会人として私が決める。攻撃は魔法のみで、魔法を介さない物理的な攻撃は禁止とする。奴の恐ろしい点はその剣技だ。その剣の実力は騎士学院の生徒と同格以上と言われている。今回のルールでは奴は剣を使えない。それならば君は勝てるはずだ。」
確かに彼にとって剣を使えないというのは大きな枷かもしれない。けど、単純な魔法だけの決闘でも彼には大きな武器がある。
「彼は剣だけではありません、無詠唱魔法も使用します。」
「エスカ、君は無詠唱魔法というものを過大評価しすぎている。無詠唱魔法などというものは結局、心の中で呪文を唱えている詠唱魔法に過ぎない。単純な魔法対決であれば、"天才"の君の方に分があるよ。」
"天才"……。そうだ、私は"天才"なんだ。あんな男に負けるはずがない。
「さあ、善は急げだ。奴はまだ訓練場にいるはず。さっそく向かおうじゃないか。」
私は立ち上がり扉から出て訓練場に向かう。やるしかないんだ。
<三人称視点>
エスカが出ていった直後、部屋の陰からコッドとは別の一人の男が姿を現す。
「ったく、これで良いのか?こんなことのために俺を呼び出しやがって。」
コッドはその男の方を向いて、完璧だと言わんばかりのしたり顔を見せる。
「ああ。この決闘で彼女が勝とうが負けようが我々には利益しかない。彼女はきっと良い"素材"となってくれることだろう。おっと、私も向かわないと立会人がいなくて逃げられてしまっては面倒だ。」
そういってコッドも扉から出ていく。残された男は一人つぶやく。
「あの嬢ちゃんも災難だねー。まっ、計画が進むんなら俺はどうでも良いんだが。」
再び男は部屋の陰に溶け込むように消えていった。
<アイン視点>
「決闘のルールは二つ。一つは相手を死に至らしめる魔法の使用禁止。もう一つは魔法以外の攻撃の禁止だ。一方が負けを認める、もしくは私がこれ以上の戦闘は不可能と判断した場合に勝敗を決することとする。」
コッド先生がルールの説明をしている。このルールは魔法使い同士の決闘でよく用いられているものだ。だけど、このルールでまともに戦えば正直負ける気はしない。
(決闘で重要なのは"いかに早く、強力な魔法を発動させるか"だ。その点において無詠唱魔法ほど強力な武器はない。たとえ剣を封じられても負けることはないだろうが……)
例えば、エスカが呪文を詠唱している間に強力な魔法をぶつけたり、エスカの呪文から魔法を推測して防御するための魔法を使用することだってできる。要は自分だけ後出し可能なじゃんけんをするようなものなのだ。
(しかし、エスカのことを考えると、わざと負けるのもありか……?)
コッド先生がエスカを立ち直らせるための荒療治としてこの決闘を用意したのであれば、俺が勝ってしまうとエスカを立ち直らせることは困難になるだろう。そこまでコッド先生が考えているのかは分からないが、俺がわざと負けようとすることまで想定しているのだとしたらとんだ策士だ。しかも考えれば考えるほどわざと負けるのがベストな選択肢に思えてくる。
「よし。」
心を決める。決闘ではあるが、別に何かを賭けているわけではない。それなりの接戦を演じて、適当な場面で魔法にわざと当たり負けることにしよう。
「両者、前へ出なさい。」
コッド先生に呼ばれ、俺とエスカは10メートルほど離れた位置で相対し、礼をする。
「ただいまよりエスカ=ヴィレッジとアインシュ=ヴァレンタインの決闘を開始する。……はじめ!」
掛け声と同時にエスカが詠唱を始める。火の中級魔法だ。俺は冷静に魔力を練り上げ、エスカの魔法の発動と同時に同規模の水魔法を発動する。火魔法と水魔法がぶつかり合い、打ち消しあって周囲に水が飛び散る。
魔法が打ち消されたのを見るやいなや、新しい魔法を発動しようとエスカは詠唱を始める。それを確認して牽制気味に当たっても問題ない程度の風魔法を発動する。
「……っ!」
大した威力の魔法ではないのだが、詠唱を邪魔するには十分だ。エスカは詠唱を中断し、俺の魔法を回避する。
決闘なんて珍しいものを見ているからか、それとも俺とエスカの魔法の応酬に興奮しているのか、観戦している生徒たちのボルテージはどんどん上がり歓声も大きくなっていく。
忌々しいとでも言いたげな顔でエスカはこちらをにらんでくる。両手を前に出し、詠唱を開始する。
「『現れろ炎の龍よ、目の前の敵を、すべてを、焼き尽くすために!』」
(火の上級魔法くらいか。そろそろ頃合いだな。この魔法を受けて負けよう。)
二頭の炎の龍が現れ上空に上がっていく。どこか様子がおかしい。
(なんだあの動きは?まっすぐに俺のところに向かってくると思っていたんだが……。)
炎の龍は止まり、狙いを決めたかのようにまっすぐと急降下を始める。ただし、その標的は俺ではない。上級魔法の発動に最高潮な観客の方に向かっていったのだ。
(っな!このままでは観客に当たる。もしかして魔法を制御できていない……?"暴走"か!?)
精神が不安定な状況で魔法を発動したときに、魔法が制御できなかったり、異常なほどの規模になってしまうことがある。それが魔法の"暴走"と呼ばれていることは知っていたが、めったに起こらないので完全に失念してしまっていた。
上級魔法が自分たちに向かっていることに気付き、観客たちの歓声は悲鳴に変わる。
「ちくしょう!」
俺は身体強化の魔法を発動し、最高速で炎の龍と観客たちの間に割り込む。全力で魔力を練り上げ、水の上級魔法を発動し炎の龍にぶつけて相殺を試みる。とっさのことだったので威力の調整を間違えたからか、軽い爆発が起こる。俺は爆風で吹き飛ばされないように踏ん張る。
爆風が収まり、観客たちの方を確認する。爆発によって数人けがをしたようであるが、重症な人はざっと見た感じいないようだ。
再度、悲鳴が聞こえる。今度は何だ?
悲鳴の方を向くと、女子生徒がもう一頭の龍の方を指さしているのが見えた。
制御の離れたもう一頭の龍が向かった先には、茫然自失としたエスカが立っていた。
エスカの方へ、暴走した炎の龍が向かっていく。もうかなり近い。
(さっきと同じように近づいて相殺するか?いや今からじゃ間に合わない。)
何とかしてエスカを助けられないかと頭をフル回転させる。コッド先生は何をしているんだと先生の方を向くと、顎に手を当てて険しい顔をしている。動く気配はない。
俺は空間転移でエスカの傍まで転移する。もう炎の龍は目の前に迫っている。半ばタックルをするように、エスカを抱えてその場から離れるように跳ぶ。
目標を失った炎の龍はそのまま地面に激突し、先ほどの爆発とは比較にならないほどの大きな爆発が起こる。俺とエスカはその爆発をもろに食らい、吹き飛ばされ地面に激突し転がっていく。
「危険な魔法の使用により、エスカ=ヴィレッジの反則負けとする。勝者、アインシュ=ヴァレンタイン。」
(そんなこと言ってる……場合かよ……。)
意識を失う直前、そんなことを考えるのであった。
二十九話目いかがだったでしょうか。皆さん気付いていたと思いますが、コッド先生はいわゆる悪役です。言い回しが完全に詐欺師ですね。決闘について筆者である自分さえもいろいろ突っ込みどころがあると思いますが、それなりに頑張って描いたつもりです。




