第二十二話:疑念、そして日常
タイトルを仮タイトルのまま投稿してしまっていましたので、編集しました。
前回のあらすじ:事情聴取が終わり、呪いや魔族について疑問を浮かべる。
二十二話目です。周りの反応・アイヴィと昼食・不穏な授業の三本でお送りいたします。
魔族を討伐してから一週間がたった。これまではアイヴィの呪いを解くために駆け足気味であったことは否めないので、ゆっくりと実験をしたりアベル先生と魔法陣について議論したりして過ごしていた。
魔族を討伐してから大きく変わった点がある。それは周りの反応だ。魔族を討伐した翌日なんて本当に戸惑ってしまうほどだった。
「アイン、お前魔族を倒しちまうなんて本当にスゲーんだな!」
「アイン君、魔族との戦い見てたよ。魔法すごかったね!私にも魔法教えてよ。」
「剣を持った魔法使いってかっこいいよね。僕にはまねできないよ。」
こんな感じで、放課後までずっと誰かしらにつきまとわれてしまっていた。正直に言うと反応するのが面倒だったが、できる限り止めてもらうよう何度も言わなければならなくなった。しかしそれでも止めてくれない人が数名いたので、迷惑行為で学校に報告するよ、と半ば脅すようことを言ってやめてもらうのだった。
反応といえば、他の人とは逆方向に変わったのがエスカだ。前までは何かあればすぐに突っかかっていたのだが、逆に俺に絡んでくることがなくなったのだ。絡んでくることはなくなったのだが、相も変わらずこちらを睨みつけてくるのはやめていないので、気にしなくなったというわけではないのだろう。なんだか少し不気味だ。
今は学食で昼食をとっている。貴族子弟が多く通っているからか、ここの学食はかなりレベルが高い。とは言っても、本当に高い身分の生徒は自分のお付きの料理人などがいたりするので、学食で食べない人も多くいるのだが。
そんなことを考えていると、誰かが近づいてくる気配がした。また誰か知らない人に話しかけられるのかと、面倒に思いながら顔を上げるとアイヴィが昼食のトレイを持って立っていた。
「あの、ここの席空いてますか、アイン君?」
「もちろん、問題ないよ。久しぶり、アイヴィ。あの事件以来だね。」
「お久しぶりです。あれからアイン君はいろいろ大変そうで話しかける機会が見つからなくて。」
「むしろ話しかけてくれた方が、逃げる言い訳ができて助かったのに。」
アイヴィが俺の冗談に笑いながら、正面の席に座る。食前の祈りを簡単に済ませてから昼食に手をつけ始める。
「アイヴィの方こそ、あれ以来どう?見てたなら知ってると思うけど、俺はいろいろな人に話しかけられて大変だったんだ。」
「私の方は特に。クラスのみんなも私は魔法を発動させられないと思っていましたので、私が発動した魔法はアイン君や学院長が放ったものだとみんな思っています。」
なるほど、確かに今まで魔法を使えなかった人が急に超級魔法を発動させたといっても信じられないか。実際は呪いを解いたことによって、アイヴィの魔法に関する実力は学院の中でもかなり上位に食い込むことができるだろうが。
「体の調子はどう?呪いを解いたことによる後遺症とか感じてないかい?」
「そういうのはありませんし、いたって健康ですね。魔法もあれから問題なく発動させることができていますし。」
多少心配だったのは、アイヴィが魔法を発動することによってふたたび魔族が襲ってくることだったのだが、やはりそこまで近くに魔族がいることはあまりないらしい。あの魔族がなぜ近くにいたのかは謎のままだ。
「あ、あのっ。アイン君。」
急にアイヴィが声を上げる。ちょっと驚いて体が少しビクッとなってしまった。一体何だろうと顔を上げてアイヴィの言葉の続きを待つ。
「す、すみません。急に声を大きくしてしまって…。あの、アイン君は今度の休みに用事とかあったりしますか?」
「今度の休み?特に予定はないかな。多分いつも通り魔法の実験とかをすることになると思うけど。」
「もし良かったら、今度の休みに町に行きませんか?諸々のお礼…と言っては足りませんけど、この町については詳しいと思いますので案内とかしようかな、なんて思って…」
言葉がだんだんと尻すぼみのように小さくなっていく。魔法を使えるようにはなったが、まだ自信が持てないのだろう。
確かに学院に入学してから日常品の買い出しに町に出ることはあっても、ゆっくりと町を見て回ることはしなかったな。せっかくアイヴィが勇気を出して誘ってくれているし、この町で生まれ育ったアイヴィが案内してくれるのは素直にありがたい。
「お礼なんて別にいいんだけど、せっかくならお願いしようかな。俺はこの町については全然詳しくないし。」
「本当ですか?でしたら、今度の休みに寮の前で待ち合わせにしましょう。」
アイヴィが弾けんばかりの笑顔を見せる。いつもこんな顔をしていたら周りの男もほおっておかないだろうななんて考えながら、待ち合わせの約束をする。ちょうど昼食も終わったので、アイヴィとそこで別れて午後の授業に備えるのだった。
午後の授業はコッド先生が担当する魔法実技だ。いつもならコッド先生がお手本を見せて、生徒たちがお手本に倣って的に向かって魔法を放つという形式なのだが、今日はちょっと違っていた。
「エスカ、君ほどの実力があればこの魔法を発動させることができるだろう。呪文は『大いなる炎の柱よ、高く高くそびえたて。目の前の敵を灰燼に帰すまで燃やし尽くせ。』だ。さあ、魔法を放ってみるんだ。」
その呪文はアイヴィに使ってもらった超級魔法のものだ。たとえ魔力量が超級魔法を使える程度にあったとしても、発動させることのできない人が多いらしい。おそらくそれは、超級魔法自体のイメージであったり、自らがその魔法を発動させるイメージができていないためだろう。
実はアイヴィに超級魔法を使ってもらうために、俺はアイヴィにその魔法を実際に見せていた。そうしておかないと、アイヴィの中に明確な魔法のイメージが無いのではないかという危惧があったからだ。
とはいえ、いきなり生徒に発動しろというような魔法ではないと思う。何かあったんだろうか…。エスカもどこか困惑しているようだ。
「先生、その魔法は超級魔法ですよね。私は超級魔法を今までに発動させたことがありません。そんなことを言われましても…。」
「エスカ、君は火魔法にかけては天才だ。心配いらない、今の君の実力なら十分発動させることができるよ。」
明らかな贔屓に多くの生徒が顔をしかめるが、誰も口をはさむことなくエスカが魔法を発動させるのを待っている。口には出していないが、エスカの超級魔法を見てみたいのだろう。
「…分かりました。『大いなる炎の柱よ、高く高くそびえたて。目の前の敵を灰燼に帰すまで燃やし尽くせ。』」
エスカが詠唱を行う。しかし、魔法が発動する様子はない。典型的な魔法の失敗パターンだ。魔法は発動しなかったものの多量の魔力が消費されたことによって、エスカが疲労したためか膝をついてしまう。
周囲の生徒の顔が困惑したように変わっていく。コッド先生も何も声をかけることなくただ厳しい表情を浮かべていた。
「そのような目で…、私を見るな!」
そういってエスカはよろよろと立ち上がり、その場を離れて行ってしまった。
二十二話目いかがだったでしょうか。文字数が少ないかなと場面を増やすと、文字数が多くなりすぎてしまうというこのジレンマ。エスカのことが気になる終わり方になりましたが、次回はアイヴィとのデート回です。




