第二十一話:聴取、そして疑念
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前回のあらすじ:騎士長タレスの事情聴取を受ける。
二十一話目です。事情聴取の続きと考察回です。
タレス騎士長に問いを投げかけられたアイヴィは、助けを求めるように俺の方をちらちら見ながら話しだした。
「えっと、お久しぶりです。魔法を使えるようになったのは、その、アイン君のおかげで…。勇者と呼ばれたことは心当たりもなくて…。」
しどろもどろになりながらも、懸命に説明しようとしている。だが、これでは話が進まないと思い、助け舟を出す。
「アイヴィが魔法を使えなかったのには"呪い"という原因があったんです。それに気づいた俺は呪いを解く方法をアベル先生と探し、アイヴィの呪いを解くに至ったわけです。アイヴィのかかっていた呪いが、かつて勇者が魔王にかけられたといわれるものだったため、魔族は彼女を勇者と呼んだと考えています。」
「かつて勇者がかけられた呪いだって?しかも、それを解呪したということか…。このことを上に報告しなくてはならないと考えると頭が痛くなってくるよ。」
はっきり言って、当事者でなくては信じるに値しないことばかりだろう。魔族の魔法を使う生徒、未知であった呪いを解いていること、そして勇者のこと、どれをとっても普通に考えれば荒唐無稽なものだ。
「とりあえず、これぐらい話を聞ければ十分だろう。全部報告するには情報量が多すぎるから、私の裁量で報告する内容を選ばせてもらうよ。」
何となくの勘だが、この人なら悪いようにはしないだろう。アイヴィもそれで構わないようだ。
「では、私はこれで失礼する。アイン君、次に会うときは君と手合わせしたいものだな。それとアイヴィ嬢、魔法も使えるようになったりと、あなたは魔法学院で素晴らしい出会いを果たしたようだ。おめでとう。」
そういって騎士長は医務室から出て行った。それに続くようにして、先生方も出ていく。残ったのは医務室の先生とアイヴィと俺だけになった。
「私からしたら信じられない話ばかりだったから、私はこの場で何も聞かなかったことにするわ。泊まれるように手配することも一応できるけどどうする?寮に帰る?」
「体は痛みますが、動けないというほどではありませんし、寮に戻りたいと思います。」
「分かったわ。でも、あなたの体がボロボロであることに変わりはないのだから、数日は激しい運動をしないようにね。アイヴィさん、念のため寮までついて行ってあげて。」
その言葉を最後に俺とアイヴィも医務室を出た。アイヴィが肩を貸そうとしてくれるが、歩けないほどではないため自力で歩いて帰ることにした。
寮の部屋まで戻ってきた。扉を開けるとラビがベッドに横になって何かを読んでいた。俺が帰ってきたことに気づくとこちらに目を向ける。
「やあ、今日は特に大変だったみたいだね。」
「大変なんてものじゃないよ。俺は大けがしたんだぞ。」
「そうだろうけど、俺はその場にいなかったから、正直信じられないことだらけだよ。学院内に魔族が現れて、しかも同室の友人がそれを討伐するなんて。」
それもそうだ。実際に目にしていなければ信じられないことだろう。あの騎士長でさえ頭を抱えるほどだったのだから。
「体まだ痛むんだろう。夕食をもらってくるから、安静にしておくんだよ。」
なんて気が利くやつだ。正直、食堂まで痛む体を引きずっていくのはしんどいと感じていたところだ。お言葉に甘えておくとしよう。
ラビは俺の夕食をとるため部屋を出て行った。一人になったタイミングで、今日を振り返る。アイヴィの呪いを解いて、魔族を討伐して、聴取を受けて…。本当に大変な一日だった。
ぼふっ、と音を立ててベッドに飛び込む。目を閉じて、今日の出来事についての考察を始める。
(今日起こった出来事は衝撃的だったが、いくつかおかしな点がある。)
まずは、魔族が現れるタイミングが早すぎたことだ。アイヴィが魔法を使って、すぐにやって来ていた。単純に考えれば、魔族が長距離の転移を使用したと考えるべきなのだろうが…。
(あの魔族の空間転移がどういう理論で魔法を構築していたか分からないが、少なくとも俺の使う転移の魔法では長距離の転移はできないんだよな。)
俺が使った転移の魔法は、「自分を原点に設定し、転移先の座標をデータとして入力、そして原点とその座標の空間の置換を行う」というイメージで発動している。簡単に言うと、「ここから右斜め前方向30メートル先に、魔法を使って移動した」という感じだ。
もし、長距離の転移を行う場合は地図などを用いた絶対座標で考える必要があるだろう。これならば長距離の転移を行うこともできるが、絶対座標で考えていると、自分の位置と転移先の二つのデータの入力が必要であるため高速戦闘には向かないはず。こちらも簡単に言うと、「地図上で、今自分はこの位置にいる。目的地は地図のあちらの位置にあるから、この二地点を魔法で移動する」という感じだ。先ほどに比べて、情報が多く必要になっていることが分かってもらえると思う。
戦闘中にあれだけ転移を使用していた以上、魔族の魔法は前者だと考えられる。そうなると長距離の転移は不可能だ。だったら、魔族があの場に現れることができた理由は一つ。
(魔族はもともとあの場の近くに潜んでいた、ということになる。)
考えたくはないが、もっとも可能性としてあり得るだろう。魔族は何らかの事情で、街中にある学院の近くにいて、アイヴィの魔法発動に気づいて転移してきたのだろう。そうなると、今度は魔族が街中にいた理由が気になってくるが、これ以上は考察する材料が足りないため思考を打ち切る。
(もう一つ気になる点は勇者のかけられた呪いのことだ。)
もし魔族が勇者の魔力を感知することができるのであれば、魔王が勇者にこの呪いをかけるのは意味がないのではないかと思う。今日の魔族は勇者に復讐をしようとしていたが、勇者の魔力を封印してしまっていては復讐の相手が分からなくなってしまうからだ。
(これは妄想の域を出ないが…、勇者の呪いは魔王にかけられたものではなく自分自身でかけたものではないだろうか。)
一度魔法を発動しただけで、復讐のために魔族が襲ってくるほどだ。もしかしたら勇者は自分の子孫が魔族の復讐の対象にならないように、自分自身に呪いをかけたのではないかと考えられる。
(まあ、事実を確かめる術はないのだから、これ以上考えるのはやめておこうか。)
ここ最近はアイヴィの呪いを解くために奔走していたため、やろうと思っていた実験がたまりに溜まっている。明日からの日常に思いをはせていると、ラビが夕食を持ってきてくれたので、他愛のない話をしながら夕食をいただくのだった。
二十一話目いかがだったでしょうか。魔族がなぜ街中にいたのかはいつか明らかになると思います。次回は日常回です。




