第二十話:決着、そして聴取
前回のあらすじ:魔族との死闘を制す。
二十話目です。魔族との戦闘について取り調べを受けます。
目が覚めると俺はベッドの上にいた。右腕の上に重みを感じて、見てみるとアイヴィが俺の腕に頭をのせて眠っている。起こさないようにゆっくりと体を起こす。周りを見渡すと名前は知らないものの、何回か見たことある医務室の先生が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。俺が起きたことに気づくと、先生がこちらに体を向ける。
「あら、目を覚ましたかしら。魔法の発動に失敗して怪我する生徒はいるけど、魔族と戦って大けがする生徒なんて初めてよ。」
「まあ、そうでしょうね…。治療していただき、ありがとうございます。」
体中が痛む。おそらく身体強化の魔法を使いすぎたことによる弊害だろう。後、左肩が鈍く痛む。傷口は治癒魔法で塞がれたようだが、痛みまでは取れないようだ。
「それで、体の調子はどうかしら?そこで寝ている彼女さんもとても心配していたわ。」
「彼女はそんなんじゃないですよ。体は全身、特に左肩が痛みます。」
「でしょうね。あなたの体はかなりボロボロになっていたわ。左肩は何とか私の治癒魔法で傷は塞いだけど、私では痛みまで消すほどの魔法は使えないから。常人なら体を起こすなんてできないと思うんだけど、思ったより元気そうでよかったわ。」
「魔法学院にいますが、騎士学院の生徒並みには鍛えていますからね。父親にも鍛えられましたので。」
「そんなに体を鍛える人はそうそういないわよ。さて、私はあなたが目を覚めたら学院長に伝えに行くように言われているから行ってくるわ。言うまでもないけど、あなたはしばらく安静にしてなきゃいけないから、歩き回ったりしないようにね。」
そういって先生はバタンと大きな音を立てて医務室から出て行った。わざわざ音を立てて出て行った辺り、先生も分かっているのだろう。
「…、アイヴィ。起きてるんだろう。」
「ギクッ。」
「口でそうやっていう人は初めて見たよ。できれば腕を開放してもらえると助かるんだけど…。」
「おっ、重かったですか!?すみません…。」
「いや、重くなんかないよ。ただ身体強化の魔法の使い過ぎで全身がまだ痛むから。」
そういうと、アイヴィが慌てたように跳ね起きる。学院長が来るまでの間に、俺が気を失ってからのことを聞いておこう。
「俺が気絶した後どうなったの?おおよそ予想はできるけど一応聞いておきたくて。」
「はい。あの後、魔族が出現したという報告を受けた騎士団がやってきました。すでに魔族が討伐されたと聞いて呆気にとられていたようでしたが、騎士長さんを除いて帰っていきました。その騎士長さんは事情を聴きたかったようなので、アベル先生と学院長が対応してくれました。アイン君の話も聞きたかったようなので、騎士長もいらっしゃるかもしれませんね。」
「アベル先生と学院長が…。後でお礼を言っておかないとね。」
「そうですね。私にもアイン君についていて良いと言ってくれましたし。」
アベル先生にはお世話になりっぱなしだ。そうだ、先生の研究に協力することで返していこう。決して自分の研究の役に立つからではない、絶対にだ。
その後アイヴィと他愛もない話をしていると医務室の扉が開く。医務室の先生とそれに続いて、アベル先生・学院長ともう一人知らない人が入ってきた。ベッドの近くに三人が立つと学院長が話を始めた。
「アイン君、こちらはドレッド領騎士団で騎士長を務めているタレス=エウクレスじゃ。」
「紹介に預かったタレス=エウクレスだ。アベル先生から話を聞いたが、君からも話を聞きたくてね。魔法学院の一生徒が魔族を、しかも剣を使って討伐したとなれば興味がわくのもしょうがないと思わないかい?」
「アインシュ=ヴァレンタインです。魔族を倒せたのは学院長やここにいるアイヴィのおかげでもあるので、俺だけの力じゃありません。」
「ヴァレンタイン…?そうか、あのジンの息子だったのか。だったら常識はずれなのもうなずけるな。」
どうやらこの騎士長様は父さんのことを知っているらしい。確かに父さんは武功によって貴族になったので、騎士長が知っていても不思議ではない。
「私もジンと戦ったことがある。この"魔剣ベント"を使ってようやく引き分けに持ち込むことができたが、奴ほどの男は我が騎士団に他にもおらん。」
あの父さんと引き分けた?つまり、この人も父さん並みに化け物ということか。
「そろそろ話を戻そうか。アインシュ君、君には魔族との戦いについて聞こうと思っていてね。学院長やアベル先生からも聞いたが、実際に剣を交えている君からも話を聞けたらと思ってね。」
俺は魔族との戦いの様子を話していく。先生方がアイヴィについてどこまで話したか知らないが、アイヴィについてはごまかしつつ説明していく。
「ふむ、転移の魔法に爪による攻撃。おおよそ聞いていた通りだな。だが、二人に聞いても分からなかったことがある。最後の君の一撃についてだ。」
「そうじゃ。アイン君、君は確かにアイヴィ君の魔法を避けるために大きく動いたが、あんな位置にいるはずがない。どうやったのじゃ?」
学院長も気になっていて、どうやらごまかすことはできないようだ。話すべきか悩んだが、正直に話し始める。
「あれは、"転移"の魔法を使ったんです。魔族が使っていた魔法と同種のものです。」
「"転移"の魔法だって?魔族が使っていた固有の魔法だと思っていたのだが、君も使えるのか?」
魔族の戦闘前には転移の魔法など考えたことはなかった。しかし、あれだけ目の前で転移を見せられてはイメージを持つには十分すぎた。ただ、俺の魔法の詳細まで話していては時間がかかりすぎるため端折って話す。
「もともと使えたわけではありません。あの魔族が何回も使うのを目の前で見ていたので、観察して魔法を何とか再現しました。魔力消費も大きいですし、何度も使えるものではないですが。」
「魔族の魔法を人間が使えるとなれば、ちょっとした大ごとになるな。これは上に報告させてもらうことになるが構わないかな?もちろん、君に迷惑がいかないようにするから。」
魔族の魔法は魔族特有のものであるという認識がある以上、大ごとになる可能性は大きいだろう。しかし、その辺りは覚悟していたので何の問題もない。
「さて、魔族との戦いについてはこんなところにしておこう。だが、もう一つ聞かなきゃいけないことがある。」
そういって、騎士長はアイヴィのほうを向く。
「お久しぶりですね、アイヴィ嬢。あなたは確か魔法を発動させることができなかったはずです。どのようにして魔法を発動させることができたのか、そして魔族があなたのことを"勇者"と呼んだことについて私は聞かなくてはなりません。」
正直に言うと、その点については分からないことだらけなんだが、どう説明したものか。
二十話目いかがだったでしょうか。アインの攻撃は皆さんの予想通り転移魔法でした。取り調べがもうちょっと続いて、日常回に入る予定です。




