第十九話:魔族、そして決着
前回のあらすじ:アイヴィの呪いを解いたと思ったら魔族が出現。
十九話目です。魔族との戦闘回です。流血表現や少し残酷な表現がありますのでご注意ください。
学院長の一撃は確かに強力だったが、奴は転移の魔法を使える。そうなると先ほどの攻撃では…。
「くくく、先ほどの魔法には少々驚いたのである。久しぶりに傷を負ってしまった。ああ、懐かしい…、これが痛みというものだったであるな。」
学院長が発生させた土の棘の上に魔族が華麗に着地する。おそらく、棘の届かない程度の位置に転移したのだろう。
「ほう…?確実に仕留めたと思ったのじゃがな。うまく避けることができたのかの?」
「学院長。奴は転移の魔法を使います。先ほどの攻撃もおそらくそれでかわしたのでしょう。」
学院長は来たばかりであるので、奴の能力を知らない。簡潔に奴の能力を教えて再び相対する。学院長の使う魔法は協力ではあるが、もちろん詠唱魔法であるので、学院長が詠唱する時間を稼ぐ必要がある。この場で奴の攻撃をしのぐことができるのは現状で俺だけだろう。前に出て、奴の攻撃に備える。
「俺が時間を稼ぎますので、学院長は奴を仕留める魔法を使用してください。訓練していますので多少なら時間を稼げると思います。」
「すまんのう。詠唱の間はどうしても無防備になってしまうから、生徒に頼むのは非常に心苦しいがよろしく頼むのじゃ。」
奴が転移により接近してくる、俺は何とか反応して奴の爪の攻撃を避けたり、剣で受けたりすることによって耐える。後ろから学院長が詠唱しているような声が聞こえてくる。
「お前はなかなかやるのであるな。その剣の腕は依然戦った兵士たちよりはるかに上である。おまけに魔法の腕も良いとはな…。我ら魔族の敵となりうる存在なのであるが故、ここで死んでもらうのである。」
おそらくこいつは魔族にとって危険な存在になるか否かで敵かどうかを判断しているのだろう。唯一の救いはこの場にいる他の一般の生徒たちに危害を加えそうにないことだ。奴の目には今のところ俺、アイヴィ、学院長しか映っていない。誰かが衛兵隊に報告してくれたら応援が来てくれるはず。それまでに倒せたら万々歳だが…、何とか耐えるようにしよう。
そう考えているうちに学院長の詠唱が終わる。俺は剣で奴の爪とつばぜり合いして少しの間奴の動きを止める。学院長の魔法の発動に合わせて全力で後ろに下がる。
「先ほどとは違うぞ。くらうが良い。」
奴の頭上に複数の大きな岩が現れる。かなりのスピードでそれらの岩が魔族に襲い掛かる。
「残念。来ると分かっているものをみすみす受けるほど、間抜けではないのである。」
かなりギリギリのタイミングのつもりであったが、奴は初めから学院長を警戒していたためか転移によってあっさりとよけられてしまう。
「むむ…。これも避けられてしまうとは。じゃったら次は…。」
そこまで言って学院長がバランスを崩す。何事かと思わず学院長の方を確認する。
「寄る年波には勝てんということかの…。昔ならこの程度では何ともなかったのじゃが…。」
おいおい、ちょっと待ってくれよ。学院長は今の状況では貴重なアタッカーだ。へばってもらってはかなり困る。
「人間というのは実に脆いものであるな。さて、お前はどうするのであるか?お前の攻撃は我には届かん上に、攻撃役までいなくなってしまってはどうしようもないのである。まあ、だからと言って見逃すわけないのであるが!」
まずい。俺も身体強化の魔法の使い過ぎで、いつ体の限界が来てもおかしくない。こいつを倒せるだけの攻撃を早く当てなければ。決定的な隙さえあれば手立てはあるのだが、そもそも隙を作るのがこの場では俺にしかできない役割だ。奴の攻撃を何とかしのぎながら倒す方法を模索する。
「アイン君!離れて!」
急にそんな声が聞こえてきた。とっさに風魔法を発動して自分の体にぶつけ距離をとる。すると、先ほどまで俺たちがいた場所に大きな火球が襲い掛かった。周囲に意識を向けると、アイヴィが学院長の杖を持って構えている姿が目に入った。
アイヴィの魔力量なら強力な魔法を発動することができる。それなら何とか奴を倒すことができるかもしれない。光明が見えてきて剣を握る力が自然と強くなる。
「アイヴィ、さっきと同じでいい。俺が時間を稼ぐから魔法をぶち込んでくれ。」
人の目があるからと言って出し惜しみしている余裕はない。懐から魔法陣の書かれた紙を取り出し、魔力を流して様々な魔法を発動させる。火球・風刃・水槍が同時に魔族に向かって飛んでいく。同時に多種の魔法を発動させたことに驚いたのか戸惑いの表情を見せるが、転移によって避ける。
転移した先に近づいて剣を振るうが、爪によって防がれてしまう。そんな俺の攻撃などお構いなしといわんばかりに剣戟が振るわれる。だが、切り結んでいる最中に体に限界が来つつあるのか、わずかながらに動きが鈍くなってしまった。そんな隙を逃してくれるはずはなく、左肩を爪で貫かれてしまう。何とか急所から外せたからよかったもののかなり危なかった。アイヴィの悲鳴が聞こえたが、俺は力を振り絞ってアイヴィに指示を出す。
「アイヴィ、俺は大丈夫だからやるんだ!」
俺が攻撃を受けたためか、アイヴィの魔法の発動が一瞬遅れてしまう。奴の爪をつかみ、ギリギリのタイミングまで待ち、無理やり刺さった爪を抜いて横っ飛びをする。多少肩の肉がえぐれてしまったが、アイヴィの魔法の範囲外に逃げる。魔法が発動し、魔族の周りに巨大な炎の柱が立つ。
「がっ、ぐわあぁぁぁぁぁっ!」
魔族の叫び声がこだまする。確実に魔法は直撃した。これなら倒せると誰もがそう感じたが、急にその叫びがしなくなる。
「貴様っ、勇者。許さんぞぉ!」
転移によってアイヴィの背後に転移したのだ。大きく魔族が爪を振りかぶる。アイヴィは全く反応できていない。隣に立っていた学院長が気づくが何をするにも間に合いそうにもない。
奴が爪を振り下ろす前に、後ろから剣を横なぎに振るう。背後からの完璧な不意打ちに反応できるはずもなく、首が胴体から離れる。「まさか、どうやって」という顔をしたまま奴の頭部が飛んでいき地面に落ちる。いくら魔族といえど、頭部が切り落とされてしまえばどうしようもないらしい。
周囲の人間も何が起こったか理解できていないらしいが、魔族が倒されたということに気づくと歓声が沸き上がった。
「アイン君!大丈夫!?」
アイヴィが走り寄ってくる。肩からの出血と身体強化の使い過ぎによる体のダメージからか、俺の体はゆっくりと倒れていく。走り寄ってきたアイヴィに抱きかかえられたところで俺は意識を手放した。
十九話目いかがだったでしょうか。何とか魔族を倒すことができました。いわゆる首ちょんぱです。お察しの通りだとは思いますが、アインの最後の攻撃については次回に説明いたします。




