第二話:転生、そして家族
前回のあらすじ:変人科学者と呼ばれた湯川は異世界への転生を果たす。
二話目です。説明回なので軽く流し読んでいただけたら幸いです。
目がゆっくりと開く。外の明かりが入って来てまぶしく感じるが、目がかすんでいてよく見えない。誰かの声と赤ん坊の泣き声が耳に入ってくる。
(…ここは?俺はちゃんと異世界に来れたのか?体も動かせないし、この声は一体?)
様々な疑問が浮かんできて混乱するが、冷静になろうと努める。冷静になると、誰かの声は自分を呼びかけるもので赤ん坊の泣き声は自分の体から発していることが分かった。
(これらのことから、今の俺の体は生まれたての赤ん坊であるということがわかる。しかし、体もうまく動かせられないし、そもそも赤ん坊の体でこんなことまで考えることができるのか?)
このように次々と何らかの疑問を提起してしまうのは科学者の性であり仕方のないことだろう。そして、疑問を提起したら次は自分の納得できる形で解決しようとするのがまた科学者の性である。
そこまで考えたところで、ゆっくりと目が閉じる。この体は非常に寝つきが良いらしい、なんてどうでもいいことを考えながら意識は闇に落ちた。
この世界に生まれてから、数か月は経っただろうか。その間に考える時間はたくさんあったので、自らの今の状況について考察を行うことができた。
(おそらくこの体は本来普通の赤ん坊なのだろう、そこに俺の魂が送り込まれているといったところか。体が思うように動かせないのはその魂がまだ体に馴染んでいないからじゃないだろうか。)
神は肉体を失ったが、魂のみを保護したと言っていた。つまり人には肉体とは別に魂なるものがあって、その魂をこの世界の赤ん坊に宿したのだろう。また、体はうまく動かせないが生まれた当初よりは思うように動かせるようになっているので馴染んでいる云々と考察していた。
そういえば、本名なのか愛称なのかわからないが俺はアインと呼ばれている。家族は両親と二人の兄がいるようだ。他にも、メイド服を着た若い女性や執事服を着た壮年の紳士がいたので、おそらくそれなりに良い家なのだろう。二人の兄がいるのにアイン(ドイツ語で1)とはこれ如何に、と思わなくはないがそもそも使われている言語が前の世界の言語とは全く異なるものなので偶然なのだろう。
一年ほどたって歩けるようになったころ、魂が体に馴染んだのかおおよそ思い通りに体を動かせるようになった。そのおかげか周囲の状況もおおよそ理解することができた。
まず、俺の名前はアインシュ=ヴァレンタインであるらしい。アインはその愛称のようだ。父の名前はジン、茶色の短髪で筋骨隆々であり頬に大きな傷がある。貴族というよりは冒険者といったほうがしっくりくるが、子爵らしい。母はクレア、とても優しそうな目が印象的だが一度父を本気で怒っている姿を見て以来、絶対に怒らせないようにしようと心に誓った。
他にもヨーダ、ラットという二人の兄がいる。ヨーダが長男でラットが次男だ。ヨーダは父の血を濃く継いでいるのか、とても体格がよく、父の真似をしようとしてよく剣を振る練習をしている。ラットはとても利発そうな顔をしており、書斎にこもって本をよく読んでいる。
早く魔法というものに触れてみたいが、まだメイドのリーネの監視の目がしっかりとあるため書斎にすら入れてもらえない。自由に出入りできるラット兄さんがうらやましい限りだ。とはいっても、まだまだ時間は大量にあるので無理はしないでおこうと思う。
素晴らしい、こんな身近に魔法があったなんて!メイドのリーネが料理の準備をしている厨房に出入りしてみたらあったのだ、魔法を利用したコンロが。
「リーネ、これは何?」
「これは魔道コンロです。火を簡単につけることができて、お料理にとても役立つんですよ。」
まだうまく話せないので少し舌足らずな質問になってしまったが、リーネはきちんと答えてくれた。前世にあったコンロと役割は同じだが、その原理は全く異なっているようだ。コトコトと煮込まれている鍋の下には何やら幾何学模様が描かれている。いわゆる魔法陣だろうか。もっとじっくり観察しようと顔を近づけたら、リーネにひょいと持ち上げられて厨房の外まで運ばれてしまった。
「アイン様、厨房には危険がいっぱいなのでこちらで遊んでいてください。」
「アイン、こんなところにいたのか。よし、ラットも誘って家の中を探検に行くぞ!」
ヨーダ兄さんは面倒見がよいので、俺とよく一緒に遊んでくれるのだがこの体ではついていくのが精いっぱいだ。もう少し加減してくれないものだろうか。
ラット兄さんはそういった時のストッパーになってくれるのでとても助かる。なるべく早くにラット兄さんを探さなくては。
「ラット兄さんならまた書斎にいるんじゃないかな」
「よし、じゃあまずは書斎に向けて出発だ!」
やれやれと思いつつも走り出した兄の背中を追いかけて俺も歩き出すのだった。
小説って書くの難しいですね。自分の想像している風景や心情が全く表現できなくて情けなくなります。次回はついに魔法の実験をアインが行う予定です。