第十四話:勇者、そして呪い
前回のあらすじ:アイヴィの症状はかつての勇者と似通っていることに気づく。
十四話目です。そんなつもりはあまりなかったのですが、ラビ君が本当に情報屋になってしまいました。
アイヴィの症状は、勇者のものと同じ"呪い"の可能性が出てきた。しかし、俺は"呪い"について何も実験したり検証したりしてこなかったため、圧倒的に知識が足りない。魔法については大した文献が見つからなかったが、呪いについては何か見つかることを期待しよう。
調べてみたところ、"呪い"についての基本的な知識が集まったのでまとめようと思う。
1."呪い"は魔族が使用する魔法の一つである。
2.魔族が全員使えるわけではなく、"呪い"を使える魔族はごく一部である。
3."呪い"には様々な種類があるが、総じて対象に肉体的、あるいは魔法的に悪影響を及ぼすものである。
4."呪い"を解く方法はその種類によって異なる。多くの場合、術者が死ねば解除されるが、正確な解呪方法は分かっていない。
大体こんなところだろうか。魔族が行使する魔法の一種であるためか、詳しい内容はほとんどわかっていないようだ。せめて解呪の方法が分かればよかったが、勇者にかけられた呪いは魔王を倒しても解かれなかったので、この種の呪いは術者が死んでも継続するタイプなのだろう。
呪いについて調べてはいるが、そもそもアイヴィの魔法が発動しない原因が呪いであるかも分かっていないのだ。まだまだ道は長いな、なんて少し辟易しながらも未知の世界にワクワクするのだった。
寮に帰ってくると、ラビがベッドに横になって何かを読んでいた。俺が帰ってきたことに気づくと、読んでいた本を閉じ、こっちに顔を向ける。
「やあ、アイン。今日はエスカにラブコールを受けたんだって?」
「耳が早いな。ラブコールじゃないけど。」
減らず口は相変わらずのようだ。別のクラスの状況がそんなに早く広まるものだろうか、それともラビの情報網がすごいのだろうか。
「そんな情報屋のラビ君に質問だ。アイヴィ=ドレッドって知ってる?」
「おいおい、エスカの次はドレッド家のご令嬢かよ。あんまり手が早い男は嫌われるぜ。」
「ラビ。いつまでも俺が怒らないと思ったら大違いだぞ。」
「分かった、分かった。そんな怖い顔すんなって。アイヴィ=ドレッド、この第二魔法学院があるドレッド領の領主の長女。現在は俺と同じCクラス。試験において、魔力量測定で非常に優秀な成績を収めたが、実技試験において魔法を発動させることができなかったためCクラスになったといわれている。彼女の兄ウィリアム=ドレッドは騎士学院を首席で卒業するくらい優秀だ。優秀な兄と比較されることが多かったためか自分に自信が持てないでいるとか何とか。」
「相変わらず詳しすぎだ。お前本当に情報屋なのか?」
こいつの情報網は一体どうなってるんだろうか。俺がアイヴィのことを聞くのが分かっていてあらかじめ調べていたとしか思えない。心の中で「情報屋」の称号を与えておこう。
「そんな何でも知ってる情報屋さんなら、アイヴィの魔法が発動しない原因とか知ってるんじゃない?」
「俺は何でも知ってるわけじゃないよ。それに魔法の専門的な知識ならアインのほうがはるかに詳しいだろう。アインに分からないことなら、俺に分かるわけないよ。」
さすがに期待しすぎたようだ。まあ、その答えは自分で導き出したいので少しほっとした。
「俺に分かるのは、世間の噂とか人間関係とか、その人間がどんな人物かくらいだから。その辺りを知りたいときは聞いてみてよ。」
なんとも心強い言葉だ。だったらお言葉に甘えて、もう一つだけ質問しておこう。
「じゃあ"呪い"について詳しい人物とか知らないかな?学院の先生とかにいない?」
「"呪い"?うーん、どうだったかな。あんまり教師の専門とかまではすぐには思い出せないよ。」
ラビは少し目を閉じて考えるそぶりを見せる。しばらく考えたのち、ハッと何かを思い出したように手をたたいて目を開けた。
「そうだ、どこかで聞いたと思っていたんだけど、魔法陣学のアベル先生が呪いについて研究していた時期があったはずだよ。」
「俺たちって、アベル先生の魔法陣学の授業ってまだ受けれないよな。そんなことまで知ってるお前は本当に何者なんだよ…。」
ここまで来たらラビの素性が気になってくる。俺としては情報を得られてうれしいのだが、ラビは一体何者なのだろうか。聞いてみたところ、はぐらかされるだけで何も教えてくれなかったので、おそらく話せないか話したくないのだろう。とりあえず、アベル先生に話を聞いてみるとしよう。
翌日の放課後、俺は教員の研究棟を訪れていた。魔法学院の教員は研究者や開発者の側面を持っているため、それぞれに研究室が与えられている。しかし、実際に研究している教員はそこまで多くなく、研究室は実質教員の私室と化している場合が多い。
そんなことを考えていると、目的であるアベル先生の研究室の前についた。コンコンとノックをしてみるが、反応がない。ボードに在室中となっているので、中にいると思うのだが…。再びコンコンとノックすると明らかに嫌そうな声で「はーい」という返事が返ってきて扉が開いた。ぼさぼさした頭に大きめの眼鏡をかけた若い男の先生が面倒そうな顔で立っている。
「わざわざ僕の部屋に来るなんて、誰だ?見ない顔だが、新入生か?」
「こんにちは、アベル先生。学院の一年生でアインシュ=ヴァレンタインと言います。今日は先生に相談があって尋ねました。」
「アインシュ=ヴァレンタイン…、どこかで聞いたような…。」
顎に手を当てて何かを思い出そうとする。ハッと急に何かに気づいたような顔をしてこちらの手を取ってきた。
「君がアインシュ君か。入学試験の魔法陣の問題、君の解答は実に素晴らしいものだったよ。僕はあの魔法陣を完成させることを想定して出した問題だったけど、君は魔法陣を完成させるだけでなく、さらに消費魔力を5%抑えるような工夫をしていたからね。」
「あ、ありがとうございます。先生の書かれた本『魔法陣教本 ~初級編~』を読んで勉強しましたので。とても分かりやすかったです。」
そう、ラット兄さんのお土産でもらった本はこのアベル先生が書いた本だったのだ。難しくて分からない人が多いということだったが、個人的には非常に分かりやすいと感じた。
「あの本を読んでくれたのか。個人的には分かりやすく書いたつもりだったんだけど評判があまり良くなかったからね。君とは魔法陣について話をしてみたかったんだよ。ぜひ、上がってくれ。」
魔法陣の話題のおかげか、先生に気に入ってもらえたらしい。先生の招待に応じて部屋に入る。魔法陣について先生と話をするのも楽しそうだが、今日の本題はそれではない。
「先生には申し訳ないのですが、今日は魔法陣の話をしに来たのではないんです。先生が呪いについて研究をしていたと聞きまして。」
十四話目いかがだったでしょうか。アベル先生は外見に無頓着な研究者という感じで、この世界では珍しいまともな研究者です。見切り発車だったので、この呪いをどう解いたら良いかいまだに決まっていません。




