第十三話:出会い、そして勇者
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前回のあらすじ:魔法を使えない少女アイヴィと出会う。
十三話目です。アイヴィの魔法が発動しない原因を探っていきます。
「私、エスカ=ヴィレッジはアインシュ=ヴァレンタインに決闘を申し込みます。」
面倒なことになった。まさかこんなことになるなんて。この国において決闘は貴族の誇りをかけた戦いを示す。歴史的には、決闘によって自らの正当性を示した貴族は何人もいるが、今となってはそれももうさびれた慣習だ。そんなものを持ち出してくるとはエスカは大分必死なようだ。だけど、
「断る。」
「この後、訓練場で…。えっ?」
決闘は互いの合意がなければ成立しない。したがって、俺が断ってしまえば何も問題ない。まさか断られるとは思っていなかったのか、呆けた顔をしている。
「俺は戦うために魔法を使いたいわけじゃない。自分の疑問に思ったことを解決したいだけだ。もちろん、やむを得ない場合は身を守るために魔法を使うかもしれないけど、決闘は別に断ることも可能だしそうではないだろう。」
決闘よりもはるかに今はアイヴィの謎のほうが気になる。教室の出入り口の前でたむろしている人たちに「ちょっと失礼」といって教室から出る。エスカが慌てたようにこちらに呼びかけるが、それに気づかないふりして教室から速足で離れていった。
さて、今俺はアイヴィを探している。何か約束をしていたわけではないので、どこにいるかは分からない。もし今も魔法の練習をしているのであれば、おそらく人目につかない場所で練習しているだろう。彼女は自分が魔法を使えないことに対してコンプレックスを抱いているようだったし、それを考えると訓練場の隅か、それとも校舎裏あたりだろう。
ということで探してみると、予想通り訓練場の隅の人気のないような場所でアイヴィを見つけた。朝と同様に必死に詠唱しているが、魔法が発動する様子はない。
「アイヴィ、ちょっと良いかい?」
「え、あっ、アイン君。うん。どうかした?」
「君の魔法が発動しない原因をいろいろ考えてみたんだ。ちょっといくつか試してもいい?もしかしたら魔法が使えるようになるかも。」
「本当!魔法が使えるようになるなら私はどんなことでもするよ!」
ものすごく食い気味に反応した。想像以上の反応でこちらのほうが戸惑ってしまう。
「いや、『かも』だから。まだ原因が分かっていないから、それを解明するという話だし。」
ちょっと落ち込んだような顔を見せるが、すぐに立ち直ったようだ。さっそく実験を始めてみよう。
「まずは一度、何でもいいから詠唱してもらってもいいかな?」
「う、うん。『火よ、起これ』」
やはり何も起こらない。魔法が発動しないことに対して申し訳なさそうな顔をする。まずは魔力の操作ができているかどうかを確認してみよう。母さんの時は他人の魔力の流れは感じられなかったが、自分の魔力操作の練度があがるにつれて他人の魔力の流れも接触時は感じられるようになっていた。
「じゃあ、ちょっと手を出して。」
彼女はおどおどしつつも手を出してくる。その手をそっと握り、意識を集中させる。彼女の魔力が感じられる。これが詠唱するときにどう動くかに注意して。
「よし、もう一度詠唱してみて。」
「わ、分かった。『火よ、起これ』」
彼女の魔力が動いている感覚がする。魔臓から魔力を引き出し、それを操作することは詠唱によって起こっている。しかし、彼女の手のあたりまで魔力が流れてから魔力は放出されず、魔臓の方に戻ってしまった。
「魔力の流れがどうもおかしいな。本来なら、そのまま放出されるところが魔力が魔臓に逆流しちゃってるな。」
「魔力の流れが分かるの!?そんなの聞いたこともないんだけど。」
「俺の魔法はちょっとみんなの使う魔法と違うからね。本質的には同じなんだけど、まあそれはいいや。それより実験の続きをするよ。」
その後、いろいろな魔法を使ってもらったが、どれも同じような結果だった。ということは詠唱による魔力の操作に関しては特に問題はないが、別の点に問題があるのだろう。魔力が逆流する現象なんて心当たりがない。これは原因解明のために実験以外にもいろいろ調べてみないといけないな。
ということで現在俺は学院の図書館に来ている。魔法学院の図書館の蔵書量はかなり多いうえに、魔法の専門書の種類も豊富なため、何かしら分かるかもしれない。
と思った俺が馬鹿だったのかもしれない。魔法の専門書をいくつか軽く流し見てみたが、どれも意味のない情報ばかりだった。どの専門書を見ていても、大量の呪文の紹介であったり、いかに呪文が素晴らしいかしか書いていない。俺は図書館に来たことを後悔していた。
情報が得られなかったとはいえ、結構長い時間調べ物をしていたためかなり疲れてしまった。息抜きがてら、ぼーっと本棚を眺めていたらかつてラット兄さんが読んでいた勇者の物語が目についた。懐かしさを感じてその本を手に取り、パラパラとめくってみる。小さいころの絵本とは違い、かなり詳しく書いてある。しかも、勇者が魔法を倒して世界が平和になりました、で終わっているのではなく、その後の勇者の後日談も書かれているようだ。一体、勇者は魔王を倒した後どんな風に生きていたのだろうかと気になって読んでいた時ある一文を目にし、ハッと息をのんだ。
「勇者は魔法を使えなくなっていたが、剣の腕前も一線を画していたため騎士団の指南役として国力の増強に一役買った。」
と書いてある。魔法が使えなくなった?確か勇者は非常に強力な魔法も駆使して魔王を倒していたはず。それなのになぜ勇者は魔法を使えなくなったのだろうか。慌てて前のページを読んでいくとそれに関する記述をようやく見つけることができた。
「魔王は勇者を討伐したが、その際に強力な呪いを受けてしまい魔法を使うことができなくなってしまった。」
勇者の魔力量は豊富だった、それなのに魔法が使えない。これは今のアイヴィと全く同じ状況ではないだろうか。勇者とアイヴィが同じ状況なのは何か理由があるのだろうか。それにもし本当に同じ状況ならば、魔王が施した"呪い"がキーになるのは間違いない。
なんの成果も得られなかったと思ったが、想定外に収穫があった。少し勇者について詳しく調べてみよう。
十三話目いかがだったでしょうか。もっといろいろな実験風景を描きたいのですが、そもそも実験が思い浮かびませんでした。勇者の呪いの話はそこまで有名ではありません。次回でほとんど解明する予定です。




