第百四話:情報交換、そして帝国へ
前回のあらすじ:エドワード達から帝国の現状について情報交換を行った。
百四話です。ようやく帝国へ向かいます。
<アインシュ=ヴァレンタイン視点>
俺たちはエドワードの先導を受け、とある場所へと向かっていた。
「帝国への国境沿いは多くの兵士が巡回している。それにばれないようにこっそり出入りしたとしても、何故か兵士たちが捕らえに来るんだ。」
国境沿いの巡回だけじゃない。出入りする人を監視する何かが国境沿いに配置されているというわけか。考えられる可能性は監視カメラあたりだろうか。帝国の科学力を考慮すればそれくらいはしていても何もおかしくない。
「あの男は魔族を連れて急に現れた。そのまま僕の父である前皇帝を殺害。身の危険を感じた僕は慌てて、皇族にのみ伝えられた秘密の通路を使って城から抜け出したんだ。もちろん、僕を殺害しようと追手が出されたわけだが、グラス達帝国魔法師団が協力してくれたおかげで帝都から抜け出した。」
「だが、国境は越えられないんだろう?どうやってエドワード達はレイクサイドまで来たんだ?」
俺の疑問は至極まっとうなものだろう。アイヴィもエスカも黙ったまま頷く。
「その秘密が今僕たちが向かっている場所だ。さっき、城に皇族のみに伝えられた秘密の通路があるといっただろう?それと同じで、帝国から脱出するための秘密の手段があるんだ。」
レイクサイド近く、帝国との国境から少しだけ離れたその山を登る。普通の山道を登っていくが、途中で山の深くへ入っていく。すると大きな崖の下に小さな洞窟が見えた。
普通に山に登っていてはこの洞窟は見つけることはできないだろう。それに、この山は貴重な植物や素材などはないと冒険者協会では聞いている。冒険者たちもなかなか近寄らないことを考えると、何か隠すにはうってつけのように感じる。
エドワードは何の躊躇もなく洞窟の中に入っていく。俺たちはそれに続いて洞窟の中に入る。
「アイン、手伝ってくれ。この岩をどかす。」
「分かった。」
俺は言われた通りに目の前に積まれている岩をどけていく。岩をどけていった先、地面に何か描かれているのが見えた。全体像はまだ見えていないが、俺にはそれが何なのか分かった。
「これは魔法陣?しかもこれって……。」
「お前は魔法陣についても造形が深いのか。そうだ、これは魔法陣だ。神から与えられた魔法文明の一つ、転移魔法陣だ。」
エドワードは自慢げに話す。"神から与えられた"魔法文明というのはいくつかある。俺も知っている一つは、学院対抗戦の会場だ。あそこの会場は魔法陣によって致命傷に至らないようになっていたが、王国では最重要機密となっていた。
もしかしたら、この転移魔法陣が帝国で同じような立ち位置になっているのかもしれないが。
俺はエドワードから目をそらす。間違っても"俺も転移魔法陣なら使えます"とは言えない。というか、転移魔法が神から与えられていたものだとは。学院対抗戦の会場の方がはるかに高度な魔法のように思えたが、もしかしたらそうでもないのか?
「えっと、アイン君……。」
「言うな、アイヴィ。」
何か言いたげなアイヴィを俺は制する。エスカも同じような表情をしているが、口をつぐんでいるようだ。
「何だ、もっと良い反応を期待していたのだがな。グラス、あれを出せるか?」
「はい。」
そういって懐から取り出すのはかなり大きな魔石。おそらく魔法陣の起動用だろう。
「これから転移魔法を発動する。その先はすでに帝国領だ。心の準備は良いか?」
俺はうなずく。続けてアイヴィ、エスカもうなずく。
エドワードは魔法陣の中心に魔石を置いて、その隣に立つ。グラスもその隣に立ち、エドワードの手を握る。
そして、俺の方にも手を伸ばす。「転移するからつかまっていろ。」と言っているかのようだ。俺はしっかりと手を握り、アイヴィとエスカが俺の肩に手を置く。
「行くぞ。」
俺にとってはいつもとなる転移魔法が発動する感覚。視界が一瞬ぶれると、目の前の景色が少し変わる。転移先は同じような洞窟の中のようだ。
「グラス、魔法陣を隠しておいてくれるか。」
「分かりました!」
元気な返事の後、グラスは詠唱を始める。土魔法を利用して石で魔法陣を隠すようだ。魔法陣を隠し終えると、洞窟の出口の方に向かって歩く。すぐに眩しい陽の光が目に入った。
洞窟の外、そこは先ほどまでと同じような山中のようだ。俺たちの前に立ったエドワードが一言。
「こんな時に何だが、ようこそ帝国へ。」
帝国の中心地である帝都から少し離れたとある町、そこにとりあえず宿をとって俺たちは作戦会議をしていた。
「"帝都"という風に言ってはいるが、明確に町の境界があるわけではない。帝国に入ってしまえば、それぞれの町への出入りは割と自由だ。帝都にだって入るのはそう難しくない。その中で活動するのは大変だがな。」
聞いてみたところによると、帝都の一番中心に城が立っていて、そこに皇帝が住んでいるらしい。当然だが、城の周囲は一番警備が固く、侵入は容易ではない。
帝都では至る所に魔族が歩いているので、下手に逆らおうものなら魔族が暴力を振るおうとしてくるらしい。騒ぎを起こさず、できる限り目立たないようにする必要がある。
しかし、悪いことばかりではない。帝都に行けば、元帝国魔法師団の協力を得られる可能性が高いそうだ。
「あいつらは殿下と私を逃がすためにいろいろ助けてくれたんだ。」
グラスは前皇帝が殺害された時、現皇帝に猛抗議を行ったらしい。魔族や騎士の守りによってその言葉は届かなかったが、それが原因で帝国魔法師団の団長の任を解かれたそうだ。
そこでエドワードと合流。エドワードの護衛として帝国を脱出することを決意したそうだ。
「民の中でも今の状況に不満を持っている者は多いだろう。前皇帝の息子である僕が生きていることが分かれば、協力してくれるはず。」
それはつまるところ。
「クーデターということか。」
エドワードは俺の方を見てしっかりと頷く。
「何にせよ動くなら帝都に入ってからだ。明日には帝都に入る。今日はゆっくり休んでおこう。」
百四話いかがだったでしょうか。過度な独裁を行っているとクーデターが起こる、いくつもの歴史が証明していますね。
次回更新は7/11(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
お知らせ:夏です。夏と言えば……ホラーです!ということで、公式企画『夏のホラー2022』に参加しようと思います。短編を一つ、7/7(木)の午前9時に投稿予定です。そちらも読んでいただけたら嬉しいです。




