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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第六章:帝国編
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第百一話:尾行、そして殿下

前回のあらすじ:アインは尾行してきた人物を追い詰めた。すると、もう一人"殿下"と呼ばれている人物が現れた。


百一話です。"殿下"の正体とは……?


<アインシュ=ヴァレンタイン視点>


「グラス、冒険者協会に行ってたんじゃなかったの?それにその男の人は……。」


「殿下、いけません。こいつは帝国のことを探っていました。私たちを探していたに違いありません。」


俺は頭を抱える。今までの情報からするに、この"殿下"は皇帝の息子ということなのだろう。だが、アーベニール(あの野郎)の息子とは考えにくい。つまり、この"殿下"は……。


「殿下、お下がりください。『大いなる風の化身よ、我に力を与えたまえ。全てを……』。」


げ、急に詠唱を始めやがった。それにこれは……超級魔法!?こんな街中でそんなの撃ったら、大変なことになるぞ。


俺は詠唱を止めようと近づこうとするが、それより先に"殿下"がグラスの頭を拳骨を食らわした。


「こら。こんなところでそんな規模の魔法使ったら街が悲惨なことになるだろう。」


グラスはかなり痛かったようで、頭を押さえてうずくまる。助かった、止めてくれなければ力ずくで気絶させに行くところだった。


そこで、"殿下"がグラスの前に出て俺に話しかける。


「こいつがすまない。問答無用で攻撃してこないということは、話す余地があるということだろう。」


良かった。この"殿下"はまともらしい。


しかし、そろそろ帰らないとアイヴィとエスカにあれよこれよと言われてしまう。両方を解決するには……。


「見てたなら知ってると思いますが、俺の連れがそこの茶屋にいまして。危害は加えないと約束しますので、そこで話しませんか?」


「ほう、良いな。あそこの茶屋は行ってみたかったのだ。」


「で、でんか~。」


俺は二人を連れてアイヴィとエスカの待つ茶屋へと戻った。





「それで、お手洗いにはいかず、私たちを尾行していた人にあっていたと。私たちに黙って。私たちを置いて。」


ちくちくとアイヴィの言葉が刺さる。今は二人を待たせていた茶屋にて、先ほどより広い席に移ってお説教を受けている。

そんな俺の様子を見て、グラスはくすくすと笑っているし、"殿下"も笑いを抑えきれていない。


俺はエスカの方をすがるような目で見る。エスカも怒っていたようだが、アイヴィが代わりに説教しているので今の状況を静観していた。俺の視線に気づくと、「そろそろ許してあげますか。」とでも言わんばかりの表情を見せる。


「アイヴィさん、それ以上は宿に帰ってからにしましょう。まずは、そのお二人から話を聞かないと。」


ちょっと俺の想像と違っていたが、まあ仕方ないだろう。アイヴィもエスカの言葉を受けてようやく落ち着いたようだ。


"殿下"は注文していたケーキを頬張り、優雅にコーヒーを一口飲んでから話し始める。


「僕たちの前に君たちのことを聞きたいな。グラスがいろいろ口を滑らしたから、大体予想はついているんだろうし。」


俺たちの素性を話していいか一瞬悩む。だが、俺の予想通りならきっと話しても大丈夫だろう。周囲で俺たちの会話を聞いている人がいないことを確認して、話し始める。


「俺たちは王国の冒険者……いや、王国の貴族です。本名はアインシュ=ヴァレンタインと言います。」


あっさりと自分の素性を話したことにアイヴィとエスカが驚愕の表情を見せる。


「王国貴族。ヴァレンタインと言えば、帝国領と隣接していて今は戦争真っただ中のはず。なのにこんなところにいるということは……皇帝の首を直接狙っているということか。」


やはりこの"殿下"、相当に頭が切れるようだ。たとえ嘘をついていたとしてもいずれ正体を見破られていたかもしれない。俺は"殿下"の言葉に静かにうなずいた。


一方、グラスは何も分かっていないようなとぼけた顔をしている。頭の上に「?」が出ているのが目に見えるような気さえしてくる表情だ。


「そっちが誠実に話してくれた以上、こちらも誠意を見せないとね。僕の名前はエドワード=グスタフ。前皇帝グスタフ8世の息子だ。」


アイヴィとエスカの表情がさらに驚愕に染まる。俺は路地でのやり取りから予想できていたが、その事前情報が無かった二人にとっては当然の反応だろう。


「こいつはグラス。元帝国魔法師団の団長だ。少し阿呆なところはあるが、魔法の実力に関しては帝国でも指折りだ。」


阿呆という部分は聞いていなかったのか、グラスは鼻高々に得意げな顔をしている。


帝国魔法師団の団長とは。確かにあの路地で発動しようとしていた魔法は超級魔法に匹敵する威力を持っていそうだった。街中で放とうとするおつむの弱さを除けば、相当な実力者なのだろう。


「こいつはいくら言い聞かせても"殿下"と呼んでくるが、一応は姿を隠している身だ。エドワードと呼んでくれ。それに敬語も不要だ。」


「分かった。俺のこともアインで良い。」


「おい、お前!ふけッ!」


「不敬だぞ」とでも言おうとしたのだろうか。しかし、その言葉が紡がれるより早くエドワードの拳が飛んだ。なるほど、二人の関係性というものはよく理解できた。


ずっと黙っていたアイヴィが俺の服の裾を引っ張る。


「紹介を忘れてた。こちらはアイヴィ=ドレッド。そして、こっちがエスカ=ヴィレッジ。どっちも王国貴族の令嬢だよ。」


アイヴィとエスカが小さく礼をする。


「貴族の女性がそんな旅に同行するとは……。なあ、アイン、王国の令嬢というのは誰しもここまでたくましいものなのか?」


「いや、そんなことはないと思うけど……。」


そんなことはないと思いつつも、俺は戦場の真っただ中へ向かっていった母の姿、そして対抗戦でアイヴィ達が戦った双子の聖女の姿を思い出す。うん、きっとサンプル数が少ないだけだ、と自分に言い聞かせる。


そこまで話した時、妙に建物の外が騒がしいことに気づいた。茶屋の店員も何やら慌てている様子。


「どうかしたんですか?」


「それが、近くの川で魔物が大量発生しているらしいんです。それで冒険者協会が緊急依頼をだしたって。」


"緊急依頼"。それは冒険者協会が緊急事態に被害をなるべく抑えるために冒険者たちを招集する制度の事である。冒険者として活動している以上、俺たちも向かわなくてはならないだろう。


「ふむ、緊急依頼か。僕たちも向かおう。」


エドワードとグラスもついてくるらしい。帝国の話を聞きたかったが、ひとまずはこの緊急依頼をこなすとしよう。


百一話いかがだったでしょうか。最近非常に暑いですが、皆さんは体調を崩したりしていないでしょうか。自分は完全に夏バテしてしまい、食欲がかなり減衰してしまっています。ゼリーで栄養補給する日々……。


次回更新は7/1(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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