第百話:宿、そして尾行
前回のあらすじ:冒険者として活動しつつも情報を得ようとしていたところ、何やら情報をもっていそうな人を見つけた。
遂に本編百話です!ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。これからものんびりと更新していきますので、この先も読んでくれたら嬉しいです。
<アインシュ=ヴァレンタイン視点>
「帝国だと?」
フードをかぶった女性と思わしき人の声に俺は振り向く。しかし、その人は俺の方を一瞬だけ見るとそのままそそくさと冒険者協会の建物から出て行ってしまった。
一方、そんなことは気にも留めず、受付の人が俺に話しかける。
「申し訳ありません。帝国に関しては私たちもあまり情報がないのです。帝国は人流も制限していて、情報が入ってこないのです。おそらく私たちより戦争の当事者である王国の方が情報を持っているでしょう。」
「やっぱりそうですか。えっと、さっきのフードの人は?」
「フードで顔がよく見えなくて……。それに、一応個人情報については守秘義務もありますので。」
まあ俺も顔はよく見えなかったし、受付の人が分からないのも無理ないか。というか守秘義務ってあったんだ。
俺はちらりと周囲の冒険者を見る。強面の冒険者が目をそらすのが見える。明らかに俺のことを知っている様子。本当に守秘義務ってあるのか?それともただ単に先日の出来事で目立ちすぎただけか?
これ以上情報は得られないと判断し、俺たちは冒険者協会を出る。すでに先ほどのフードの人の姿はない。
探すべきかとも思ったが、俺たちはこの街に不慣れだ。一人の、しかも名前も姿も分からない人を探すのは不可能だろう。
俺はアイヴィとエスカに挟まれながら宿に向かって歩き出す。
「今日の宿のご飯は何ですかね?やっぱり魚でしょうか?」
「あれだけ大きな湖の傍にある街ですからね。魚が特産になるのも不思議ではありません。昨日の魚もとてもおいしかったです。」
ここレイクサイドはその名の通り、大きな湖の傍に立っている。その湖でとれる魚が特産品であり、王国では見られない珍しい魚も食べることができる。
二人は宿のご飯を楽しみにしているようで非常に浮足立っている。
だからだろうか、俺たちをじっと見つめる視線には気づいていないようだ。
俺たちが冒険者協会を出てから、ずっと見られている。一時的に見られているだけかと思ったが、その視線は俺たちが歩き去ろうとしてもついてきている。
気づいていないふりをしながら、その視線の出所を探る。
そこまで離れていない。人ごみに紛れながら、気づかれないようにこっそりと俺たちについてきているようだ。
「そうだ。せっかくだし、そこの茶屋に寄らない?美味しいお菓子があるって話を聞いたんだ。」
「美味しいお菓子!」
「良いですね!」
二人が食い気味に俺に詰め寄ってくる。ここまで反応があるとは思っていなかった。やはり二人とも甘味に目がないのだろうか。
ちなみに、この茶屋に美味しいお菓子があるという話は本当だ。女の子二人を連れているならと、冒険者協会の受付の人がお勧めしてくれたのだ。
俺たちは茶屋に入り、席に着く。二人はメニューを食い入るように見ている。
「アイヴィ、コーヒーとケーキを俺の分も頼んでおいてくれる?ちょっとお手洗いに行ってくる。」
「分かりました。」
二人は選ぶのに夢中で俺の言葉をあまり気にしていないようだ。俺は席を立つ。お手洗い……へは向かわず、二人に気づかれないようそっと茶屋の外に出た。
俺が店から出るのと同時に、先ほどまでと同じ視線が降り注がれる。俺はその視線の主を探す。
見つけた。さほど遠くない路地の入口。俺が出てきたことに気づいて慌てて路地に隠れようとする。しかし、俺はそれを逃さない。
「一体何の用ですか?さっきからずっとつけてきていますよね?」
「な!?」
俺を付けてきていた人物が驚きの声を上げる。当然だろう、先ほどまで茶屋の入り口に立っていたはずの俺が先回りして目の前に立っていたのだから。
転移魔法を使っただけだが、俺のことを知らない人ならそんなことできるとは思わないはず。自分の目が信じられないのか、俺の方を信じられないという目で見ている。
あれ?この人って冒険者協会で"帝国"というワードに反応していたあのフードの人じゃないか?……だったら。
「そんなに気になるんですか、"帝国"が?」
わざとらしく抑揚をつけて、俺はなるべくあくどい笑顔でそう言い放つ。
「!?」
目の前の人物は分かりやすく肩がはねて驚く。あまりの反応の良さに、何だか悪いことをしてしまったような気さえしてくる。
「くっ、まさか他国にまで帝国の刺客がやってくるとは。申し訳ありません、陛下。私は約束を守れそうにありません……。」
うん?何だか様子がおかしいぞ。刺客とは何の話だ?
「もはや、ここまでか。」
そういって、フードをとる。丸い眼鏡に、きれいに編み込まれた三つ編み。赤茶色の髪が特徴的な女性の顔が露になった。
「だが、私とて口を割るつもりはない。たとえどんな拷問を受けようと、あの方の居場所は話すつもりはない。」
「いや、ちょっとこちらの話を。」
少しで良いからこっちの話を聞いてほしい。それに"あの方"って一体何だ?どうどうと落ち着くよう両手を前に出すが、こちらのことなど意にも介さずあれよこれよと妄想を連ねている。
どうしようかと頭を抱えていたところ、大通りの方から声がかかる。
「あれ、グラス?そんなところで何してるの?」
「で、殿下!?なぜここに?」
どうやら俺のことをつけていた女性はグラスという名前らしい。いや、そんなことより"殿下"だと?
何だか厄介ごとの気配が香っているが、こちらとしても情報が欲しい。そのためにも、いったん落ち着いてもらうところから始めよう。
百話いかがだったでしょうか。新章には新キャラがつきものですよね。彼らの正体とは一体……?
次回更新は6/29(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




