第九十九話:西へ、そして宿
前回のあらすじ:アイン達はヴァレンタイン領を出発し、王国の西レイクサイドの街に到着した。
大台の百話が見えてきました。最初の予定ではこんなに続かないはずだったのにどこでこうなったのか。
<アインシュ=ヴァレンタイン視点>
「これで最後かな?」
俺は剣に付いた魔物の血をぬぐう。今は冒険者協会で受けた依頼をこなしている最中だ。依頼を受けた理由は二つ。
一つは、冒険者として動いている以上、依頼を全く受けないというのは怪しまれてしまう可能性があるからだ。面倒に巻き込まれないためにも最低限の依頼は受けておくべきだ。
もう一つは、単純に活動の資金の調達だ。多少の活動資金は父さんが渡してくれたが、活動をしないDランク冒険者が大量の金を持っているというのは明らかに不自然。多少なり「自分で稼いでます」というアピールをしておくのは大事だ。
「ええ、指定されてた分はこれで全部ですね。討伐証明の部位を集めましょう。」
「それは俺がやっておくよ。」
魔物の解体はそれなりに重労働だ。俺がやるべき仕事だろう。ちなみに魔物の解体についても"パーツェン"から習った。冒険者のイロハを教えてくれた彼らには本当に感謝している。
俺はちらりとアイヴィとエスカの方を見る。エスカはいつも通りだが、アイヴィは不機嫌そうに頬を膨らませている。今日はずっとこんな調子だ。
アイヴィが不機嫌な理由は昨日の宿を決める時にさかのぼる。
「それじゃあ、二部屋お願いします。」
ようやく見つけ出した宿の受付に俺はそう言い放つ。すると俺の服の裾がグイグイと引っ張られた。引っ張られた方を見ると、アイヴィがこちらをじっと見ていた。かわいらしい笑顔を見せて一言。
「資金の節約を考えて、一部屋で良いんじゃないかな?」
俺は一瞬思考が止まる。しかし、すぐに気を取り直し、宿の受付の方を向く。
「二部屋で、お願いします。」
アイヴィは頬を膨らませてそっぽを向き、エスカはそんなアイヴィの様子を見て苦笑いをしていた。
昨日のやり取りを思い出し、もう一回ため息をつく。俺が解体をしている間、アイヴィとエスカは食事の用意をしている。
ちなみに万能に思われた"パーツェン"が唯一俺たちに教えられなかったことが、野外での食事についてだった。
彼らはどうも料理が全員苦手だったようで、野営の際にも全員が味に文句を言いながら食べていたそう。そんな二人に野外での食事を教えたのはヴァレンタイン家に使えるメイドのリーネだった。
元々前線基地までは出てきていなかったリーネだったが、戦争が長期化しそうで人手が足りないということで父さんに呼び出されたのだ。何だかんだ優秀な彼女にいろいろ教えてもらったので、料理についても俺達全員がそれなりにできるようになった。
魔物の解体が終了し、俺は近くの川で体のあちこちに付いた血を洗う。服についていたりする分は完全には落とせないが、ある程度落としたのでアイヴィとエスカの方に向かう。
二人の食事の用意も終わったようで、ちょうど良い大きさの椅子に腰かけていた。
「終わりましたか?用意もできましたので食事にしましょう。」
俺もすぐ傍の石に腰掛ける。アイヴィが俺の前に先ほど作ったであろうスープと焼いた肉を置いてくれる。いい匂いだ。
俺はいつも通り手を合わせる。
「いただきます。」
うん、スープも肉も美味しい。簡素ではあるが、今できる中では最大限だろう。アイヴィとエスカも美味しい食事に笑顔になっている。
笑顔な二人を見ていると、俺の視線に気づいたアイヴィがフッと視線を逸らす。うーん、昨日のあのやり取りがそんなに不満だったのだろうか。
「アイヴィさん、昨日のはさすがに私もどうかと思いますわよ。」
どうやらエスカも同じようなことを考えていたようだ。
「だって、アイン君もできるだけ資金は節約したいって言ってましたよね?宿代だって馬鹿にならないんですから、そういったところで節約するべきじゃないんですか。」
ヴァレンタイン領を出発するときに、確かに俺は活動資金をなるべく節約しようという旨の発言をした気がする。
「いや、そんなつもりじゃなかったんだ。確かに節約したいって言ったかもしれないけど、今では冒険者としての稼ぎも得られるし無理する必要はないよ。」
「無理なんて……。」
アイヴィがぼそりとつぶやく。
「さすがに男女が同じ部屋って言うのは倫理的にも良くないよ。二人とも魅力的な女性なんだから、そういう部分は気を付けないと。」
「みっ、魅力的!?」
俺の発言にアイヴィは顔を真っ赤にする。すました顔をしているが、エスカも頬が赤くなっているのが分かる。
そう話しているうちに食事が終わったので、俺は皿を重ねて水辺まで運んで洗うために席を立つ。俺がほんの少し離れたところでエスカがアイヴィに小声で話しかける。
「それで、本当のところは?私はごまかせませんよ。」
「そんな……下心なんて……。ただ、寝顔とか見られたらなあとか……。」
エスカがアイヴィの肩にそっと手をのせる。その顔には一体どんな感情が込められていたのだろうか。
冒険者協会の受付にて、俺たちは依頼完了の報告していた。
「はい、確かに。依頼の完遂を確認しました。こちらが報酬になります。」
「ありがとうございます。」
報酬をきちんと確認し受け取る。いくら信頼できる冒険者協会だとしても、ミスの可能性はありうるので確認しないといけないと教わった。
「そうだ。聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「はい、何でしょう?」
冒険者協会の受付をしているということはこの人はきっといろいろ情報を持っているだろう。
「ええ、帝国について聞きたいんですけど。王国から来たので、帝国の方については全く知らなくて。」
「帝国だと?」
俺の発言に反応したのは受付の人ではなかった。俺は声の方に振り返る。そこにはフードをかぶっている、声質からおそらく女性であろう人が俺の方を見て立っていた。
九十九話いかがだったでしょうか。正体を隠すためのフードって便利ですよね。そんなに正体って隠せるものなんでしょうか?
次回更新は6/27(月)になります。記念すべき百話、読んでいただけたら嬉しいです。




