第九十八話:告白、そして西へ
前回のあらすじ:リン=ライトとルン=ライトは無事白狼の森での事件を解決できた。
第六章『帝国編』開幕です。
<アインシュ=ヴァレンタイン視点>
ガタンガタンというリズムよい音とともに目が覚める。
「あ、起きましたか?アイン君?」
隣に座るアイヴィに声をかけられる。俺は寝ぼけ眼をこすり、外を見る。そこにはのどかな平原が広がっている。
「そろそろ街が見えてくると思います。降りる準備をっと、アイン君も起きてたんですね。」
御者台からエスカが顔を出す。俺は狭い馬車の中で可能な限り体を伸ばす。ヴァレンタイン領を出発して数日、ようやく西の国境までたどり着くことができた。
俺とアイヴィ、エスカの三人で帝国に向かうことを決めてからはいろいろな準備を行った。
まずは三人とも馬車を操れるよう、御者の練習を行った。帝国に行くのに徒歩で行くわけにはいかない。それなりに長い時間馬車に乗る必要があるので、御者の練習をしておいて損はない。
そして、俺たちは三人で冒険者の登録を行った。というのも、今後は本名アインシュ=ヴァレンタインという名前で活動するにはいろいろ不都合があると判断したからである。
とはいえ、いつもと違う呼ばれ方をされると咄嗟に反応できない可能性があるため、いつも通り「アイン」として登録した。
アイヴィ、エスカについても同様だ。今後は王国の貴族として動くと、帝国で活動するのに問題が出ると判断し、単純に名前だけで登録した。
もちろんだがこの三人でパーティ登録もしておいた。パーティ名は『キュリオシティ』、好奇心という意味だ。
ちなみにBランクパーティ『パーツェン』のリーダーであるジョージが俺のことを推薦してくれたおかげで、俺たちはパーティとしてはDランクの評価を得ることができた。
とはいえ、冒険者としての能力がいろいろ足りないのは事実なので、最低限の冒険者としての仕事も『パーツェン』のみんなに教えてもらった。何ならこのまま冒険者としても生きていけるくらいにはなれたと思う。……それも道の一つではあるのだが。
そして、今俺たちが向かっているのは南にある帝国……ではなく、王国西にある小国群の一つである。
戦争をしている敵国に馬鹿正直に正面から直接向かうわけがない。俺たちはいったん西を経由することにした。
王国の西側にも広大な土地が広がっているが、王国のように統治者がいるわけではなく、それぞれの地域で独立した国が多く存在している。
王国と帝国がそれぞれ領土を広げるために戦争を仕掛けようとしたが、両者がけん制しあっている間に一時的な同盟を結ぶことで難局を乗り切ったという歴史もある。それくらいには良い関係を結んでいる比較的平和な国々だ。
「見えてきました。あそこが目的地の街、レイクサイドです。」
エスカの声に俺とアイヴィは御者台の方に身を乗り出す。西に広がる巨大な湖、その隣に立っている街レイクサイド。ヴァレンタイン領から最も近いその町に俺たちはたどり着いたのだ。
「Dランクパーティ『キュリオシティ』ですね。確認しました。」
この街の冒険者協会の受付の人からカードを返してもらう。王国で発行された冒険者カードではあるが、それはこちらでも問題なく使えるようだ。
「分かってるとは思いますが、依頼はあちらのボードに貼り付けられます。破ってこちらまでお持ちください。」
「分かりました。」
俺は一言だけ返答してアイヴィとエスカを連れて外に出ようとする。周囲からの視線が刺さるのを嫌でも感じる。長居は無用だろう。
俺はちらりと二人を見る。ひいき目なしにしても二人はかわいい。まだ年齢的には幼いとはいえ、周囲の視線を集めてしまうのも仕方ない。
そしてそんな二人と一緒にパーティを組んでいる俺などは言うまでもなく妬み嫉みの的だ。そんなことを考えていたら、俺たちに近づいてくる影が二つ。
「なあなあお嬢ちゃん達?そんな男とより俺たちとパーティ組まないか?その格好からして魔法使えるんだろう?俺たちもちょうど魔法使いが足りてなかったんだ。」
話しかけてきたのは二人の男。二人とも体格だけ見れば、俺達より圧倒的に強そうに見える。俺はあまりにも予想通りの展開に右手で頭を抱えため息をついた。
「お断りします。」
「そんな下卑た目で見られるのは不快ですわ。」
アイヴィもエスカも冷たくあしらう。だが、そのような態度をとればどうなるのかは日の目を見るより明らか。
「このアマがっ。調子に乗るなよ。」
俺は先ほどの受付の人をちらりと見る。受付の人は目を伏せて、こちらを見ないふりをしているようだ。おそらくこの程度なら日常茶飯事なのだろう。
アイヴィの男につかみかかろうとした男の腕をつかみ、身体強化の魔法を発動する。俺はそのまま人が少なそうな方へ向かって投げ飛ばす。男が床にたたきつけられる大きな音が周囲に響き渡った。
「てめぇ!」
もう一人の男が俺に殴りかかってくるが、今まで戦ってきたどの相手よりも遅い。俺は余裕をもって左手で男の拳を受け止める。男は俺より体格ははるかに良いが、俺はピクリとも動かない。
もう一度ため息を吐く。それから俺はみぞおちの辺りに一発。それだけで男は床へ沈んだ。
俺はパンパンと手を打つ。この男たちは別に放っておいても良いだろう。問題があれば個々の職員が何とかするはず。
周囲を確認すると、俺たちを見る視線の種類が変わっていることに気づいた。
先ほどまでと違って今は「何者だこいつ?」というような、疑惑というか興味というか、そういった類の視線だ。
そんな視線に対して答えてやる必要はない。俺は二人の方を見る。
「早く行こうか。」
「そうですね。」
「分かりました。」
俺は二人を連れて今日の宿を探すため歩き始めた。
九十八話いかがだったでしょうか。なろう小説お決まりの展開を書くことができました。
次回更新は6/22(水)の予定です。読んでいただけたら嬉しいです。




