閑話:王都戦線その後 終編
前回のあらすじ:魔族たちとの戦闘中、白狼の森の真の主がやってきた。
閑話終編です。本当は別の閑話も書こうと思いましたが、これで第五章「戦争編」は完になります。
<リン=ライト視点>
とりあえず任務は完了したのだが、……どうしたら良いだろう。
今私たちの目の前には"白狼の森"の主であり、明らかに高貴な存在のように思える魔物が目の前にいる。このまま何も言わずに立ち去るのもありだし、きちんと挨拶するべきかもしれない。それに今回の件について聞くのが良いのかもしれない。
私とルンは困ったような目で騎士団長の方を見る。騎士団長は何を思ったのか分からないが、重々しく頷いて白狼の方へ向かい合う。
「助力感謝する。あのまま戦っていればこの辺り一帯を焼き払ってしまうところだった。」
騎士団長の選んだ選択肢は対話ということらしい。よくこのような方と平然と話すことができるものだ。私たちはすっかり委縮してしまっている。
「ふむ、ヒトと会うのは久しぶりだが、このように力を持つ者もいるのだな。森の異変を調査しに来たといったところか。」
「ああ。瘴気があふれていたり、魔物の生態が変わっていたりと我々にも異変が察知できたので調査しに来たのだ。その結果が、これというわけだ。」
騎士団長は目線を魔族と狼の魔物の死体の方に向ける。白狼も同じ方向に視線を向けた。
「我は数十年ほどこの森を留守にしておってな。帰ってきたらこの有様よ。それにこやつももう百年もすれば我の後継者の資格を得ていただろうに。」
さすがというべきか。人とは考えている規模が全く違う。そもそも数十年という長さを大して感じていないということは、この白狼はそれだけ長く生きているということだろう。
白狼は自分が手を下した狼の魔物を慈しむように見て、手を伸ばしそっと頭をなでる。それはまるで親が子供の頭をなでるような。そんな光景。
私はルンの手を取って一緒に狼の魔物の死体の前まで歩く。顔を見合わせた後、お互いにやるべきことを理解したかのように頷きあう。
ゆっくりと膝をついて、神に祈る姿勢をとる。
「神よ、哀れな魂があなたの元へ旅立ちました。どうかその魂が安らかな眠りを得ることができますように。」
私の祈りに合わせてルンも祈りの姿勢をとる。死者の魂を送る祈り、それもまた聖女の仕事だ。
「そうか、主らは神に仕える者であったか。……感謝する。」
魔物にこのような慣習があるかは知らないが、先ほどの親子のような彼らの姿を見ているとそうしなくてはならない、そう感じたのだ。
騎士団長も何も言わずに、ただ私たちの祈りが終わるのを待ってくれていた。
祈りが終わり、私たちは顔を上げる。そして白狼がゆっくりと歩いてきた。
「さて、主らを森の入り口まで運ぼう。我の背に乗るが良い。」
私たちが乗りやすくなるように、頭を下げる。だが、私はほんの少し躊躇した。というのも、白狼は馬なんかと比べてはるかに大きい。それすなわち、乗った時の高さも比べ物にならないということだ。
「お姉ちゃん?早く!」
いつの間にやら白狼の背に乗っているルンから催促される。心なしか、ルンがワクワクしているのが分かる。
騎士団長もすでに白狼の背に乗っていて私が乗るのを待っている。私は観念して、おずおずと白狼の背に乗った。想像していたよりはるかに高い。……正直、ちょっと怖い。
「では、飛ばすぞ。」
「え?ちょっと、待っ――」
あまりの速さに私は叫び声をあげる。ルンはまるでアトラクションにでも乗ってるかのような黄色い叫びをあげるが、きっと私の叫び声は可愛げのない本当の悲鳴だったことだろう。
「じ、地面。ああ、地面。」
私は大地に降り立ち、地面のありがたみを知る。あっという間だったとはいえ、それはあまりに速く、あまりに高かった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
私のことを心配するようにルンが背中をさすってくれる。なぜルンはこんなに平気な顔をしているのだろう。双子だというのにこういう部分は全然似ていない。
「我がおらぬ間に森が随分と変わってしまったようだ。しばらくは我も森に残り後継の育成に励むとしよう。主らには世話になった、もし何かあれば助力しよう。」
"しばらく"といっても魔物換算だろうから、私たち人間にとっては非常に長いことだろう。だって"ちょっと"留守にするというのが数十年だったりするのだから。
だが、白狼の森の異変が解決されたのは喜ぶべきことだ。これで、先日の王都戦線のような事件はきっと起こらないはず。
白狼はそのまま森へと帰っていき、私たちも王都への帰途へようやく着くことができたのだった。
「ほー、白狼の森にそんな主がいるなんて知らなかったな。」
第一魔法学院のとある教室。私たちは白狼の森での出来事についてレオ殿下とニュートに話していた。
「先日の王都戦線はその魔族の仕業ということか。魔物を操る術があるとは、全く驚くことばかりだ。なぜ僕はそんな場面に立ち会えなかったんだ。」
レオ殿下が悔しがる素振りを見せる。全く、こっちの苦労も知らないで。
「えっと……、あぶ……ない……。」
「ニュート君の言う通りです。何度も私たちは命の危険を感じました。そんな所に殿下を連れて行くわけにはいかないでしょう。」
ルンがぷくっと頬を膨らませて抗議する。どうやら私たちは命を懸けていたというのに、軽い気持ちでそんなことを言うのが許せなかったのだろう。
「はは、すまない。だが、話を聞いて傑作だと思ったのはやはり白狼の背に乗ったリンの話だな。」
「ちょっと待って。何であなたがその話を知ってるの!?」
私は思わず声が大きくなる。私が言った覚えはもちろんない。となれば……。
私はルンの方に視線を向ける。そして、それを避けるようにルンは視線をそらす。
「ルン!」
「ごめんなさい、お姉ちゃん!」
私はルンに詰め寄り、ルンは後ろに下がり逃げる。「だってお姉ちゃん可愛かったんだもん。」などと意味不明なことを言っているが、許すまじ。
そんな私たちの方を見て、レオ殿下は笑い、それにつられるようにニュートも控えめに笑う。私は顔を真っ赤にしながら怒りの感情を爆発させるのだった。
閑話終編いかがだったでしょうか。第五章「戦争編」はこれで終わりになります。第六章では舞台は王国から別の国へ移ります。
第六章に入る前に一週間ほど更新をお休みします。次回更新は6/20(月)の予定です。読んでいただけたら嬉しいです。




