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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第五章:戦争編
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閑話:王都戦線その後 後編

前回のあらすじ:リンたちは操られた狼の魔物と魔族に対面する。


閑話後編です。えーと、字数調整を間違えたので、もう一話続きます。


<リン=ライト視点>


目を離したつもりはなかった。気を抜いたわけでもない。それはただ単純に実力の差。気が付いたら私の目の前に鋭い爪が振り下ろされる。


金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響く。そしてその衝撃の余波だろう。襲い掛かる突風に思わず顔の前で両手を交差させて身を守る。


どうやらあの魔物の爪の攻撃を騎士団長が防いでくれたようだ。ギリギリとつばぜり合いをしているが、純粋な力では敵わない。押されてきたところを何とかはじいて私たちのいる方へと騎士団長はバックステップしてきた。


「下がっていろ。この魔物を相手にしながら守る余裕はない。こいつは何とか私が抑えよう。」


こちらを見る余裕もないのだろう。騎士団長は一時も目を魔物から目を離さない。


「『起きろ。』」


騎士団長が魔剣に激しい炎をまとわせる。しかし、それにひるむことなく目の前の魔物は騎士団長へ再び爪を振り下ろした。騎士団長は負けじとその手にもつ魔剣を振りかぶった。


私はルンを守るように一歩ずつ下がる。この激しい戦いに私ができることは何もない。下手に手を出せば騎士団長の邪魔になってしまうだろう。


この戦い(・・・・)で私ができることはない。しかし、それ以外ならできることがある。


私は周囲を見渡す。大きな樹の下に腕を組んで立っている魔族の姿を見つけた。私は右手を魔族の方に向ける。


「『光よ、目の前の闇を払いたまえ!』」


まっすぐと私の光魔法は魔族の方へ向かっていく。しかし、私の魔法に気づいた魔族はその場から動かずただ左手をこちらの方に向け何らかの魔法を発動する。あっけなく私の魔法は打ち消されてしまった。


「邪魔をしないでいただけますか?私の最高傑作(・・・・)のお披露目。今が良いところなのですから。」


歯を食いしばる。全力で魔法を撃てば何とか対抗できるかもしれないが、どうやらこの魔族が命令を下したりしているわけではなさそうだ。魔族を倒したとて、この強大な力を持った魔物が止まる保証などどこにもない。


騎士団長と魔物は激しい戦いを繰り広げている。騎士団長も時に魔剣の力で炎を生み出したりしているが、なかなか決め手に欠ける。


「ふむ、中々悪くない感じですね。ですが、そろそろ終わりにしてあげましょうか。」


私は何度か隙をついて光魔法を撃っているが、実力差がありすぎる。すべてこともなげに対処されてしまっていた。


魔族は両手を強く打ち合わせる。甲高い音が周囲に鳴り響くとともに、魔物が騎士団長から少し離れた位置で立ち止まる。


その魔物は激しい咆哮を放つ。私とルンはその咆哮に吹き飛ばされないように踏ん張るが、じりじりと後ろへ戻されてしまう。


その咆哮がどれほど続いたのか分からない。ようやく顔を上げた私が見たのは先ほどよりはるかに獰猛な気配をまとっている狼の魔物の姿だった。


「瘴気があふれている……?もしかして、瘴気の原因はあの魔物?」


ルンが小さい声でつぶやく。その言葉に私はハッとする。瘴気の原因がこの魔物なのだとしたら、私たちはこの魔物を倒さなくてはならないということになる。


ツーっと汗が垂れる。この魔物は少なくとも私たちの手に負えるものではない。


「やむを得ん。やりたくはなかったのだが。」


騎士団長が魔剣から炎を生み出す。私たちの方を向いたりはしないが、後ろにいる私たちに忠告する。


「君たちは全力でこの森から脱出しろ。巻き込まない保証はない。」


騎士団長の言葉は非常に真剣なものだ。気づいてはいなかったが、どうやら騎士団長は私たちを巻き込まないよう手加減をしていたらしい。


私は一歩下がる。今できる最善は何だろうか。一度下がって応援を呼んでくることだろうか。騎士団長の邪魔にならないように逃げることだろうか。


思い出すのは対抗戦のあの日。ルンの結界に成す術もなかったはずのあの少女達の姿。彼女たちは絶望的な状況であっても最後まで打開策を見つけようと試行錯誤していた。


私の服の裾をルンが引っ張る。その目を見て私はすぐに理解した。ルンも私と同じことを思い出していたんだと。


「私たちのことは構わずやってください、騎士団長!」


おそらく私の声色から騎士団長も私たちの決意を察したのだろう。騎士団長の剣にまとった炎が徐々に大きくなっていく。


魔物がそれを待ってくれるはずもなく、大きな爪を振り下ろそうとする。


「『光よ、魔を打ち払う力となれ!』」


咄嗟に詠唱して光魔法を飛ばす。ほんの一瞬だが魔物の動きが止まる。そして騎士団長の炎が今にも振るわんとした次の瞬間、聞いたことのない重厚な声が聞こえてきた。


「我がおらぬ間に随分と好き勝手してくれたな。」


その場にいた全員が動きを止めた。私は未だかつてそれほどまでに美しく気高い姿をした狼を見たことはなかった。


私はずっと、魔族によって操られているあの魔物が"白狼"だと思っていた。しかし、それは間違いだったと今になれば分かる。


それはただ本物(・・)を見たことがなかっただけ。今になってみれば私たちを襲ったその魔物は薄汚れた灰色の毛の狼のようにも見えてくる。


実際はそんなことはないのだが、それくらい私は"白狼"のその美しい姿に感動していた。


その"白狼"は我々の方をじろりと見て、魔族たちの方にも視線を向ける。特にあの狼の魔物の方をじろりと見る。


「我が眷属に手を出すとは、万死に値する。」


「馬鹿な。白狼の森の主はこいつではなかったのか!?ありえ――」


その先の言葉が紡がれることはなかった。何が起こったのか全く理解できなかったが、いつの間にか魔族は何かに引き裂かれるように首・胴体・四肢が分かれ、血が噴き出していた。


主人がやられたからだろうか、狼の魔物は再び咆哮を放ち"白狼"へととびかかろうとする。


「すでに魂が汚されている……。こうなってしまえば、救うことはできん。」


今度はかろうじて見えた。右前足を軽く振るう。ただそれだけで、狼の魔物の首がはねられた。騎士団長は行き場を失った炎をそっと下ろす。


私は、いやルンを含めて私たちはその"白狼"に見惚れていたが、騎士団長は決して油断を解いていない。


「安心しろ。主らに危害を加えるつもりはない。それに先ほどの炎、森への影響を考え手加減してくれていたのだろう?」


「敵でないのなら助かる。あなたに勝てる見込みは全く無いから戦いたくはなかったのだ。」


戦うことを一瞬でも考えた騎士団長の心の強さに素直に尊敬する。ルンは力が抜けてしまったのかその場に座り込む。とりあえずは任務完了できっと良いのだろう。


閑話後編いかがだったでしょうか。前書きにも書いたように字数調整をミスってしまいましたので、もう一話だけ続きます。とはいっても残りはあとがきみたいなものですが。


次回更新は6/10(金)の予定です。読んでいただけたら嬉しいです。

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