第九十五話:同行、そして対話
前回のあらすじ:ヨーダ兄さんと一緒に皇帝と話をしに行くことに。
第九十五話です。今までに出してきた伏線、全部回収できるか不安です。
ヴァレンタイン領と帝国の国境、それを超えて森の中を歩く。大して道は整備されていないが、先日の戦闘のために多くの兵士が通ったためかほんの少し獣道のようになっていて少し歩きやすい。
「そろそろ森を抜ける。するとすぐに俺たちの前線基地がある。そこに皇帝はいる。」
俺とヨーダ兄さんの前を歩く魔族。わずかな時間ではあるが、魔族と行動を共にすることになるなんて考えもしなかった。
俺はヨーダ兄さんの方をちらりと見る。わずかに緊張しているような顔をしているが、周囲をしっかり警戒していて、むしろ緊張が良い方向に働いているようだ。
俺たちは今回のことを十中八九罠だと思っている。なので、俺はできる限りヨーダ兄さんの傍から離れないようにしている。そうしておけば、俺はすぐにヨーダ兄さんの手を取ってヴァレンタイン領の方に一緒に転移することができる。
もちろん敵の魔族だって転移を使えるだろうが、はっきり言って先に転移してしまえばそれを追いかけるのはほとんど不可能だ。
ようやく森を抜ける。そこにはヴァレンタイン領側と何も変わらない平原が広がっている。
その平原に立っている簡易テント。おそらくあれらが帝国側の前線基地ということだろう。その中でひときわ目立つ大きなテント。あれが皇帝のいるテントに違いない。
俺たちの姿を確認した兵士が出てくるが、先頭を歩くあの魔族の姿を見ると何も言わずに下がっていく。
「こっちに来な。皇帝がお待ちだ。」
案の定一番大きいテントに通される。そこには大きなテーブルときれいに並べられた椅子。一際豪華なそれに座る一人の男性。きっとそれが皇帝だろう。
「ようこそ帝国へ。歓迎はできないが、少し話をしようじゃないか。」
<ヨーダ=ヴァレンタイン視点>
ごくりと息をのむ。目の前のこの男が戦争を引き起こした張本人。怒りを感じ、拳を握りしめる。だが、今回の対談は必要なものだ。我慢するために、ゆっくりと息を吐いて目の前の男をじっと観察する。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前はアーベニール。この帝国で皇帝をやっている。」
アーベニール。これが皇帝の名前。
「え、あんたってそんな名前だったのか?」
俺たちをここに連れてきた魔族が驚きの声を上げる。部下の中でもかなり位が高そうなこの魔族でさえも皇帝の名前を知らなかった?
「俺が名乗る必要などないからな。"皇帝"。その称号があれば大抵のことはどうとでもなる。俺の名前を知ってる奴なんてこの世界にはほとんどいない。」
……なんだ?言い回しが妙に感じる。
「まあ座りな。安心しろ、お前らは罠だと思ってるかもしれないが本当にただ話をしたかっただけだ。……アインシュ=ヴァレンタイン、お前にな。」
皇帝はアインの方に鋭い目つきを向ける。その目にどのような感情を込めているかは俺には分からない。
何も言わず俺の隣に立っていたはずのアインが席に座る。その目は皇帝と同様に鋭い目つきで皇帝をじっくりと見つめている。
アインのことは子供のころから見ていたから分かる。この目は何かを観察するような目だ。何か気になるところを決して見落とさないという、そんな決意のこもっているかのような目だ。
「お前らにも俺に聞きたいことがある。だからわざわざ罠かもしれないと思っていても来た。その度胸を評して先に話を聞いてやろう。」
まだ空いている椅子はあるが俺は席にはつかない。皇帝は罠ではないと言っているが、いざという時すぐに動けるようにするためだ。
じっと黙っていたアインがとうとう口を開く。
「あなたの目的は?」
アインの質問に皇帝は満足げな表情を浮かべる。
「あくまで俺の目的を聞くか。ふむ、どう答えたものか。」
皇帝は考えるそぶりを見せる。しかし、ほんの数瞬で顔を上げる。
「俺の最終目的は"故郷へ帰ること"だ。」
故郷へ帰る?一体どういうことだ?
意味が分からず、アインの方を見る。アインの表情は少しも変わっていない。だが、これはむしろ何かを隠すためにあえて表情を変えていないように見える。
「それと今回の戦争、何の関係がある?」
アインの二つ目の質問。故郷に帰ることと戦争、この二つは全く関係が無いように思える。全くの同感だ。
再び皇帝は考えるような様子を見せる。
「戦争の目的か……。いくつか理由はあるが、そうだな。その方が俺にとって楽しいからだ。」
「お前っ!」
俺は思わず前のめりになり、机を思い切り平手でたたきつける。皇帝の発言を理解できない、いや理解したくなかった。
あの戦争で敵味方問わず多くの犠牲が出た。それを"楽しいから"というふざけた理由で済ませていいはずがない。
皇帝は俺のことを気にすることもなく話を続ける。
「経験ないか?自分の思い通りに事が進むと快感を感じるだろう?事が大きくなればなるほど、その快感も大きくなる。そして思い通りにいかなかった時、それはすなわち困難だ。そういった困難を乗り越えるときの達成感ほど満たされるものはない。」
だからと言って他の人の命を犠牲にしていいはずがない。
俺は怒りを込めて皇帝を睨みつける。しかし、その皇帝の目を見て俺は逆にひるんでしまった。皇帝の目から感じられるのは狂気。この男は狂っている。
スッと皇帝の目から狂気が消える。
「他に質問はあるか?今日の俺は機嫌がいい。答えられない質問でも間違って答えてしまうかもしれないぞ。」
ギリっと歯を食いしばる。アインも俺と同じような気持ちなのか、強く握りこぶしを握っているのが見えた。
しかし、アインはあくまで冷静に次の質問を皇帝にぶつける。
「あんたの"故郷"はどこだ?そこに帰るために"何"が必要になる?」
アインの質問に皇帝は今まで以上の満面の笑みで、高笑いを挙げ始めた。
九十五話いかがだったでしょうか。皇帝のキャラに悩みに悩んだので今回と次回はかなり難産になりました。代わりに皇帝の背景がかなり固まったので、いずれ閑話とかで出すかもしれません。
次回更新は5/27(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




