第九十三話:激励、そして使者
祝100話(閑話含む)!ここまで続けられたのは読んでいただいた皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
前回のあらすじ:かつてともに依頼をこなした冒険者パーティと再会を果たす。
第九十三話です。話が大きく動き始めます。
帝国の攻撃から一週間ほど経過した。激しい攻撃とは対照的に、恐ろしいほど帝国の動きは見られなかった。だが、それはこちらにとっても様々な準備の時間が取れるということで、非常にありがたいことだった。
「この辺りは背の高い草木が多いので、隠すことができると思います。設置してもらっても良いですか?」
「分かりました。」
俺はかがめば身を隠すことすらできそうな草原に通信機を組み立て始める。地図を見せてもらい現在地を確認。大体の座標を計算し、魔法陣を通信機に書き込んでいく。
現在俺たちが行っているのは国境付近への通信機の設置だ。先日の国王との通信でそうするように命令が下ったのだ。
もちろん、前線基地に置いてあるようなちゃんとした通信機ではない。文字を送ったりすることはできず、あらかじめ決められた文面を自動的に送るような通信機だ。
例えば、敵の姿を確認した場合、前線基地へ"敵影あり"と座標と一緒に送信するという具合だ。言ってしまえば、のろしの魔法版のようなものだ。ただのろしより早く、正確に情報を伝達することができるというだけだ。
"機能を簡易化してそこら中にばらまいておくことは可能か?"
国王のその一言から、非常に簡易的な性能ながら最低限の役割を果たすことのできる通信機を作ったのだ。
できることならちゃんとした通信機を配置したかったのだが、それは材料的にも人員的にも不可能だ。しかし、機能を大幅に制限したものなら可能かもしれないと思ったのだ。
実際、文字を入力する機構が最も技術的に難しい部分なので、この簡易版を作ることは比較的容易だった。
そうやってできた簡易版の通信機を、先日再開した冒険者パーティ"パーツェン"のみんなと一緒に設置していたのだった。
もちろん帝国側の動きを警戒しながらになるので、一つ置くのにも時間がかかり、すでにこの作業は三日目になっていた。
「ふむ、材料が切れたな。今日のところはこれくらいにして切り上げよう。」
リーダーのジョージの掛け声にパーティ全員がうなずく。すでにかなりの数の通信機を設置している。もちろん設置場所も考えているので、国境を警備する兵士たちがすぐにでも利用できる。
唯一の懸念点は帝国側に気づかれてしまうことだが、魔道具に詳しくないものであれば一見するとただの箱にしか見えないので、おそらく壊されるくらいだろう。
もし壊されていれば、それはそれで敵の侵入に気づくこともできる。
前線基地に戻ってきた俺たちを待っていたのは車いすに乗っていた父さんとそれを押す母さんの姿だった。
「お帰り、アイン。首尾はどうだい?」
「可能な限りいろんな場所に置いてきたよ。詳しい場所はエルさん、地図を出してもらっても良いですか。」
「ああ、問題ない。」
通信機の置いた場所をマークした地図をエルさんが父さんに手渡す。父さんはそれを右手で受け取り、じっと見る。
「うん、これだけあれば国境の警戒は十分だろう。……すまないな、俺が動ければ。」
「大丈夫。父さんはゆっくり休んで。」
帝国の攻撃で重傷を負った父さんは一命をとりとめた。それもひとえに、神官たちの献身的な治癒魔法のおかげだろう。
しかし、だからと言って完全に治癒できたわけではない。
顔の左半分には大きな火傷の跡が残り、火傷が神経まで達していたのか左腕はまだ動かすことはできず、力なくぶら下がっている。
まだ体力が完全に戻ってはいないから車椅子でいるが、下半身はそこまでひどい怪我ではなかったようで、再び歩くことができるようになるだろうとのことだ。
俺は父さんから目を離し、その車椅子を押している母さんの方に目を向ける。母さんはいつもの笑顔を見せる。
「安心して。私がこの人を無理やりにでも休ませるから。ねえ、あなた?」
「あっ、ああ。そうだな。」
父さんが目を覚ましてから母さんは日に日に元気を取り戻しているようだ。父さんの意識が戻らない間は気丈に振る舞っていたものの、憔悴しているのが目に見えた。
父さんと母さんが元気でいてくれて非常に嬉しいのだが、心配になるのはヨーダ兄さんである。
ヨーダ兄さんは何か悩んでしまっているようで、今は部屋の一室から出てこないような状況だ。ご飯などは食べているようなので、健康には問題ないだろうが顔を見せてくれないのはやはり心配になる。
とはいえ俺からヨーダ兄さんにかけられる言葉はもう無い。幸いにも帝国の動きが無いので、今のうちに存分に悩んでもらおう。ヨーダ兄さんが出した結論を俺は尊重するだけだ。
しかし、その平和は長くは続かなかった。とはいっても、帝国の攻撃が始まったわけではない。想定外の来客が訪れたからだった。
「国境警備兵のC班から通信が入りました。」
「帝国の攻撃か?」
前線基地の通信機の前で車椅子に乗った父さんが兵士に質問を返す。
「いえ、攻撃ではないようです。連絡では"確認求む"と。」
俺が簡易版の通信機につけた通信は少ない。その中でも"確認求む"はいわば、"その他"に該当する。つまり、国境警備の兵士がどうすれば良いか分からなくなっている、という状況ということだ。
「何があるか分からない。気を付けてくれ。」
車椅子に乗った父さんを連れて行くわけにはいかない。一体何が起こっているのか分からないが、俺たちは警戒しつつ国境付近へ向かうことにした。
「……なあ、まだ来ないのか?」
「黙れ、そこで静かに待っていろ。」
国境付近で見たのは俺たちに通信をしたであろう兵士、そしておそらく帝国から来たであろう魔族の姿だった。魔族はまるで「敵意はありませんよ。」とでも言うかのように両手を挙げている。
俺はその魔族の姿を見て唖然とする。俺はその魔族と会ったことがある。
「おお、アインシュ=ヴァレンタインだな。あんとき戦ったのは騎士のおっさんだったけど、よくもやってくれたな。」
その魔族はエスカがコッドの実験に利用されたとき、実験場の前で待っていた魔族だ。確かタレス騎士団長が仕留めたという風に聞いていたが、今ここにいるということは仕留め損ねたということなのだろう。
魔族の言葉にその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた。
「単刀直入に聞く。あの方――皇帝が話をしたいそうだ。来るか?」
九十三話いかがだったでしょうか。皇帝の目的とは?そして、実は筆者のお気に入りである魔族が再登場です。
次回更新は5/20(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




