2話
ホネスト教団での修行も終わりトースケは無事秘伝魔法を修得した、が別にホネスト教団をやめる理由も無いのでそのまま籍はおいていた。
「さて、これからどうするか。魔法を修得したとはいえ魔王もどこにいるか分からないし、どこで使うのかよく分からん。」
どうすればいいのか分からないが、とりあえず生活をしないといけない。仕事でも探すかと思うが、なかなか見つからない。出来そうかと思う仕事を色々当たってみたがことごとく断られた。飲食店なども家から通える範囲では仕事が見つからない。
「くそっ、転生してまで仕事を探す羽目になるとはなっ。」
トースケはそろそろ12になる頃だった。子供のように見られて普通の仕事では相手にされないのかもしれない。トースケはまともな仕事にはつけず、しばらく草むしりや内職のような仕事をすることになった。また仕事探しに役立つかと思い、金はほとんど貰えないが週に1度、高齢者に魔法具の使い方を教えたりした。
仕事が見つからないので実家で過ごしていると、王都の近くで地震が起こったという話が伝わってきた。犠牲者も多く、王立魔力増幅所で事故が起き、多くの住民が避難させられたらしい。王立魔法増幅所とは有害な魔法物質を扱って魔法のエネルギーを取り出す施設である。力の使い方によっては軍事利用も可能ではないかと前から言われていたが国はあくまで生活の為だと主張していた。
トースケはホネスト教団にいた頃に少し寄ったことがある食堂のアスラ亭に行ってみることにした。アスラ亭はセイクリッド教団について調べていたらたまたま立ち寄ったところであり、様々な情報を持った変人が集まる所ということで、一部で有名だったらしい。前に寄った時は王都の政治家の冤罪疑惑について語っている人が集まっていた。
アスラ亭に入って真っ先に聞こえてきたのは
「今回の地震は古代魔法の地震魔法だ、王立魔力増幅所を狙った攻撃だ!」
相変わらず世間ではトンデモ扱いされそうな話が飛び交っていた。
「いや、そんな魔法の使い手は存在しない、第一そんなエネルギーはどこから集めるのだ?」
そんな声が聞こえる中で、「地震魔法とかどうでもいい、正しい情報を!」
「とにかく情報が足りない、冷静に情報を収集しよう。」
など色々な人間が情報を求めて集まってきているようだった。
そんな中で入り口近くで酒を飲みながら講釈を垂れているおっさんがいた。
「王立魔法力増幅所事故は魔王教信者の仕業である、しかし魔王など存在せず、彼らが恐怖によって信仰を集めるためにでっち上げた架空の存在である。」
このおっさんはポストという名前らしい。年は50くらいだろうか、初老で仕事の帰りに酒を飲みながらこうして話をするのが日課のようだ。
「魔王教信者は地震魔法を使ったがそれで増幅所が壊れた訳では無い。
地震魔法はあくまで地震を起こすだけで増幅所を破壊したのは爆破魔法である。」
「魔王教信者は魔王教とかいう悪魔的なもののように見せかけているが、ぶっちゃけ
ただの悪党である。」
「魔王教信者どもは地震は教典に書かれた予言通りであり魔王だ悪魔の所業だといっているが、ただの地震魔法と爆破魔法を使っただけである。マッチポンプである。」
「いいぞ!ポスト、その調子だ!」
「ポストさんの言うとおりだ、魔王教とかいう悪党はいずれ悪行がバレて滅びるだろう。」
何か盛り上がっているが、どうやら魔王という名前がようやく出てきたようだ。
「魔王教信者は王都で流行りの海賊劇に出てくる悪党の様なものである。普段は普通にして悪党であることを隠しているが裏では悪党として悪いことをして暴れたくて仕方ないのである。」
「彼らはまっとうに生きているように見せかけているが、先祖代々悪党である。悪党の血は隠せず、堂々と悪いことをしたいが裏でこっそり悪いことをして気を紛らわせているのである。」
こんな調子で延々と話しているようだ。魔王教の話以外では政治の批判などをしている。
「とりあえず他の話も聞こう。」
そう思いあちこち回ってみると、
「これは太陽と月の予言にかかれている通りだ、ついに終末が来たのだ。」など
言っている人間もいた。
(なんだ?その予言。そんな予言があるのか?)
そんな中やたらと気を引くような言い方をしている人間がいた。
「魔王教信者は世界を滅ぼそうとしている!私は魔王教と戦うために秘伝魔法を身に付けなければならない!」
「私は25年前魔王教の存在に気付き世界の破滅を防ぐことを天に願掛けした。」
「私は叔母のように秘伝魔法を身に付け世界を救わなければならないのです。」
「私はこの国の魔王教の支部を訪れ、金を払うように言いました。」
「私が魔王教と戦うためにダーキニーという悪魔に願掛けしたため、世界の経済が動きこの国の経済が傾きました。」
トースケは後で調べたが、ダーキニーというのはダーマ教に関係したジャッカルの様な姿をした 悪魔らしい。
「私はその責任を魔王教支部に取らせようと、私に金を払うよう言ったのですが、
彼らは私を欺き陥れようとした。」
「私は彼らと戦うために秘伝魔法を身に付けなければならないのです。」
よく聞くと言ってることが支離滅裂な気がするが、どうやら魔王教について情報の拡散をしようとはしているらしい。彼は名前をルクソンというらしい。自らそう名乗っている。
「そいつはやめとけ。」話を聞いていたら周りにいる人間が忠告してきた。
「言ってることが滅茶苦茶だ。その上、話を聞こうとした奴もいるが、上から目線の上に自分に都合の悪いことを言われると魔王教の手先扱いして聞く耳持たねえ。」
なるほどと思いその日は帰り、次の日また来ることにした。
次の日、アスラ亭に来ると入り口では相変わらずポストが講釈をしていた。
それで、何か新しい話はないかと思っていると地震について予言があったのではという話をしている人の集まりがあった。
が、どれもあやふやなもので予言とまで言えるようなものではなさそうだ。
とそこでルクソンが話に割り込んできた、
「魔王教が地震を起こしたのです、魔王の仕業です。」
「私は魔王教を倒さなければいけません。」
とあとは昨日と同じようなことを言っていたが、その話を聞きながらに会話に乗っている人間がいた。
「なるほど、予言というのも状況が変われば外れるものですから、必ずしも当たるわけでは無いでしょうね。」
世間話をしているようで、少しかみ合ってないような話をしていた
「魔王教が長い年月をかけて人間たちから搾取した大量の黄金が大陸の大きな塩湖、魔の湖(魔障の湖としてこの世界では有名)に隠されているようです。」
「それを突き止めた集団が黄金を取り戻そうと集まっているようです。」
「しかし、巨大な蛇が守っており近づけないようです。」
それを聞いてトースケはなぜか重要な話だと思った。
(なるほど、よく分からないけど蛇が何とかなればいいのかな?)
「では今日はこの辺で、私はオブセルバと名乗っておきます。」
このオブセルバと名乗った彼は、年齢不祥で見た目は少年の様にも見える。
彼はアスラ亭を出て行った。
トースケはアスラ亭を出ると人のいないところでホネスト教で身に付けた秘伝魔法を使うことにした。
(直接見えてるわけじゃないけど、別に何も起こらなければ別にそれはそれでいいか。)
「鬼神よ魔障の湖の蛇を降伏せよ、(詠唱)フィアースゴッドサンダー(鬼神の雷)!」
遠くで雷が落ちたような気がする。が、見える範囲でないためよく分からない。
「まあいいか、よく分からないけど今日は寝よう。」