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夏緑  作者: やまき たか
1/2

夏の1

 

 ずっと一緒にいると、色んなことが何となく分かってくる。

 眠いんだろうな、お腹すいてるんだろうな、怒ってるんだろうな、嬉しいんだろうな。

 それから……、


 私のこと、なんとも思ってないんだろうな……。


「……とまぁ、十年も一緒にいるとそんな風に考えちゃってねぇ」


 高校三年生の夏。放課後の教室。わんわんと泣きじゃくる蝉達を差し置いて、私は盛大に溜息を吐いた。

 そして流れるように机に突っ伏すと、向かいに座る友人のあかねが私の額にデコピンを打ち込む。

 ペシっ。

 おでこから景気のいい音が鳴り「ううっ」とつい声を漏らす。


「いだいです……やめてぐださい……」


「辛気臭いあんたが悪い。あと暑いしイラつく」


「半分八つ当たりじゃんかぁ」


 張りのない語尾と共に私が体を起こすと、茜は机に頬杖を立てて呆れた目でこちらを見つめた。


「あのさぁ……みどり、明後日から夏休みなのにそんな後ろ向きでどうすんの」


「だって……」


「だってもなにも、あんたら部活引退してからも毎日一緒に帰ってるじゃん。今だって悠平君の補習待ってるわけだし、何がそんなに不安なのよ」


「いや、それは帰り道ほとんど一緒だから……。それに会話だってこっちが話振っても淡白な返事しかしないしさ……」


「何それ倦怠期? 付き合ってすらいないのに」


 はっ、と鼻で笑いながら茜が言う。

 

 悠平とは家が近所で、小学生の頃に始めた少年野球のチームが一緒だったことをきっかけによく話すようになった。

 中学では悠平はそのまま野球を続け、私がソフトボール部に入り、その後二人とも家から近いこの高校へ進学したのだ。入った野球部では選手とマネージャーの関係が続いた。

 しかし、そんな付かず離れずな関係にも終わりが近付いている。


「てか、どうしてみどりは就職選んじゃったのよ。悠平君スポーツ推薦で進学するんでしょ?」


「仕方ないじゃん。私勉強苦手だし……」


「まぁ県内の学校みたいだし、これからしばらく会えないってわけじゃないとは思うけどさ。これまで通り余裕こいていられないんじゃないの?」


「だよねぇ……」


 百歩譲って進路が変わってしまうのは仕方ない……が、向こうが進学となると話は別である。


「大学生とか……絶対彼女作っちゃうじゃん……」


「まぁ、それは間違いないね」


 頭を抱える私を見て、他人事のように笑い飛ばす茜。


「どっちにしろ、悠平君とただの幼馴染みから進展したいなら、みどりが頑張るしかないんじゃないの?」


 頑張る……。頑張るかぁ……。

 どう頑張ればいいのだろう、とより一層悩みこんでいると、教室の戸ががらがらっと音を立て、それに続いて聞き慣れた低い声が私を呼んだ。


「みどり、終わった」


 悠平だ。


「う、うん。今行く。じゃあね茜っ」


 鞄を持って立ち上がると、「帰り道、夏休みの予定つくっちゃえば」と茜は私に耳打ちをした。


「え、今日!?」


 若干の同様を見せる私に茜は親指を立て、声を出さずに口を動かした。


 がんばれ。

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