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Contraction_Money.log

 ライアーズ・クォーツが眩い光を放ってからは、大騒ぎだった。

 第三面接室の窓から相当強い光が漏れ出ていたようで、メアリーが凄まじい勢いで部屋に飛び込んで来た。

 机に並ぶ二本のライアーズ・クォーツを目の当たりにし、言葉の出ないメアリーに事情を説明し、二つの理由で怒られるフォークス。

 まずこのライアーズ・クォーツ、効果は嘘発見器なのだが光量の調節が効かず、なおかつ魔力の貯留に時間がかかってしまう。一本あたりの値段も相当高く、在庫もあまりないようだ。

 スペアを含めてこのギルドには三本あり、そのうちの一本は今魔力充填を行う業者に預けており、残りの二本をフォークスが使ってしまった訳だ。

 魔力の貯留もタダではない。査問会の切り札である嘘発見器を一気に全部使ったとあっては、いかにギルドマスターの判断であっても、そりゃあ叱られる。

 もう一つの理由はライアーズ・クォーツが発動した原因……フォークスがメアリーのおやつをこっそり食べていた事をクリスがうっかり漏らしたせいだ。多分、こっちの方が怒り方が酷かったように思える。

 結果、ライアーズ・クォーツの魔力チャージにかかる料金はフォークスのポケットマネーから、そして後日メアリーにはお菓子を失敬した本人が買ってくる事で手打ちとなった。


「……ま、紆余曲折はあったけど……イザーク氏が魔狼を浄化して、従魔にしたのは嘘ではなさそうだね」


 財布の中身を確かめながら、フォークスはため息をついた。その時聞こえた小銭の音は、悲壮感を覚える程に少なかった。

 しかし財布の中身はともかくとして、彼の口座の方に結構な額が入っているのでメアリーのおやつ程度で困る事はないだろう。


「不本意だが、バレてしまってはしょうがない。確かに浄化した。そうしないと俺達が全滅しそうだったからだ。どうやったかは企業秘密だ。従魔は……魔狼に乞われて仕方なくだ。何か問題はあるか?」

「いや、何も問題はないね。それどころかウチの稼ぎ頭まで助けてくれたようで、感謝のしようが無いくらいさ。浄化に関しては規格外ではあるが、前例が全く無い訳ではないからね」


 それからフォークスが話してくれたのは浄化の前例、遙か南南西にあるウィンデルと言う国の聖女の話だった。

 曰く、幼い頃から回復魔術に秀でていた少女が呪いを受けた国王を治してしまったせいで聖女として担ぎ上げられたそうだ。

 タイミング悪く、それがこのB世界において最大勢力の宗教であるメルリーズ神聖教会が独自に聖女を擁立してプロモーションを開始した直後の話だった事もあり、事態は紛糾。

 あの聖女は偽物だの、聖女を騙ると神罰が降るだの、挙げ句の果てにはウィンデルの聖女を教会へ拉致しようとしたり、暗殺を企てたりとやりたい放題。

 結果、ウィンデルの聖女は行方をくらまし、メルリーズ神聖教会はそのやり口が民衆に広まってしまい、大きく信者のシェアを減らしてしまったとの事だった。


「呪いは解けないから呪いだ。大昔の神聖魔術には出来たらしいが、今ではそんなもの、とんと聞かないからね。もし現代に負の魔力や呪いを浄化出来る魔術があったら……そりゃあ秘密にもしたくなるだろうってね。君が押し黙る事にも合点が行ったよ」


 腕を組み、一人で納得したように肯くフォークスに、俺は何も言えずにいた。

 シアからのサジェストで、その「大昔の神聖魔術」の詳細がARでウィンドウ表示されている。

 使えなくは無いのだが、コストが酷い。この魔術は魔力だけでなく生命力も相当な割合で削っていく。術式もスパゲティ化したコードのように煩雑だ。

 ……こんな欠陥品のような魔術を使うまでもなく魔力を開放出来さえすれば浄化出来るのだから、WCEの反則っぷりが垣間見える。


「アプローチの方法は違うが、似たようなモノだ。この魔術が世間にバレたら、どうなる?」

「そりゃあ聖女……いや、イザーク氏は男だから聖者か? とにかく奇跡の体現者が顕れたってえらい騒ぎになるだろうね。教会も国も身柄の確保に躍起になるだろうし、下手すればこのギルド内でも争奪戦になるだろうね。命を狙われもするかも知れない」

「そうだろう? 俺は余計な騒ぎを好まない。平穏無事に暮らしたい。俺は斥候や諜報が得意だが、その性質上注目を集めたり知名度が上がったりすると仕事がし難くなる」

「なるほどね。だからここにいる五名のみの秘密にしたいと言う事だね。何らかの結界を張ったのもその為かな?」


 フォークスは苦笑いを浮かべながら周囲を眺めている。……何だ、防音の結界も気付いていたのか。


「知ってたのか?」

「メアリー君が来てる事に気付けなかったし、彼女が戻る時、部屋から出た途端足音が突然消えたからね。しかし高度な結界魔術だ、君は本当に優秀な魔導師のようだね。……何で冒険者ギルドなんかに来たのか分からないくらいに」


 途端にフォークスの目つきが鋭くなった。最初の面接の時程ではないが、強めのプレッシャーが掛けられている気がする。

 これは多分冗談なんかではなく、本当に何故俺が冒険者ギルドに来たのかを知りたがっているんだろう。しかも相当な疑いを持っている。

 一触即発の危うい雰囲気に、三人娘は声を出せずにおろおろと戸惑っている。


「……綺麗なカネが要る、なるべく早く」

「……詳細を聞いてもいいかな、イザーク氏?」


 強い視線のままで先を促すフォークスに、一昨日のアリア救出に関する話をある程度都合の良い様に嘘を混ぜて話した。

 奴隷紋の制御を則って消滅させた等と言えば余計に波風が立つ。アリアは最初から奴隷紋が無かった事にして、後は帳尻を合わせて話を作ればいい。


「……女の子を引き取ったはいいが、戸籍の登録には先立つ物がいる。放浪の旅をしている俺にはまとまった金が無い。金払いが良く即金で貰える仕事は非合法だ。金払いが良くて綺麗な金はすぐには貰えない」

「だから綺麗で手っ取り早く金が稼げる冒険者ギルド……って事かね?」

「ああ。俺はロクな生き方をしてこなかった。あの子には俺みたいになって欲しくない。戸籍上とは言え、普通の子として生まれ変わる時に汚い金ってのは、今後を暗示している様でな」


 しばらくは何も言わずに俺を見つめていたフォークスだったが、やがて大きく溜息をついて生暖かい視線をこちらに向けてきた。


「まるで牢屋から出てきた子持ちの闇ギルドの構成員みたいな事を言うねぇ」

「大して違いの無い話だ、諜報活動をやる上で非合法な手段に打って出た事なんて数えられないくらいある」

「昨日の登録の時点で犯罪者履歴が無いって事は、捕まった事が無いって事だろう? 相当の手練れだな、闇ギルドの奴らは欲しがるだろうな……まぁ、しかしだ。言いたい事は分かった」


 フォークスは面談を開始する際にギルド職員が持ってきた書類のうち、手元に残ってる一枚を拾い上げて目を通す。


「君が昨日クエストに出ている間に、ある程度調べさせてもらった。衛兵のアントニオ氏が甚く君の事を気に入っていたな。魔導師にしては人間の出来たヤツだとね。深雪の牡鹿亭の新しい看板娘は私も見に行った。ありゃあ人気が出るだろうね」


 俺は相当不機嫌そうな顔をしていたのだろうか、フォークス慌てて取り繕うように言葉を重ねた。


「ああ、その、何だ。身元調査もまた我々職員の仕事だからね。不用意に接触したとかそういう事はないともさ」

「……まぁ、既に調べられているなら話は早い。そういう事で、俺はなるべく早めに金が欲しい」


 そこまで話すと、ずっと俺たちのやり取りを聞いていたリアが挙手をした。


「ギルドマスター、よろしいですか」

「……発言を許可しよう、リア君。何だね?」

「イザークさんは魔狼を撃退……いえ、従魔にしました。これはギルド規定における討伐に相当すると思います。魔獣討伐報酬が支払われて然るべきかと」

「なるほどね。言いたいことは分かるが、一つ問題がある。死骸が残っていない事だ。死骸を回収して研究や武器防具の素材にする事で報酬を賄っているんだよね。従魔にしたなら、討伐証明部位も残ってないだろう?」

「それは……ですが、魔獣化した証になる痕跡は確保しました」


 リアがポーチからフィリップから抜け落ちた牙や爪を取り出すが、フォークスは首を横に振る。


「これでは魔狼の存在しか証明出来ない。討伐報酬は出せない。……だが、しかしだ」

「……しかし?」


 尋ねようとするリアには何も答えないままフォークスはやおら立ち上がり、俺の方へと歩いて来た。俺も思わず立ち上がり、目線を合わせる。


「先ほども言った通り、ウチの稼ぎ頭であるこの子達を助けてくれた恩もある。魔狼を狩るとなると人命の損失も考慮しなければならない。それにヨルガの花束の件もある。そこでだ」


 ポケットから一枚のカードを取り出し、そこにペンで何か記入していくフォークス。三人娘はそれが何なのか分かっているらしく、何やらひそひそと内緒話をしている。

 それよりも驚きなのは、そのペンだ。ボールペンはA世界で嫌という程見て来たが、この世界にインクに浸けずに書けるペンが存在するとは思っていなかった。

 筆記用具なんていわゆる羽ペンや黒鉛が主たる物だろうと思っていた。

 何やら記入が終わったフォークスが、そのカードを俺に差し出した。受け取ってカードに視線を落とすと、


【この特別受給票を持つ者に 金貨25枚 を支給する物とする。 F・C・フィッツジェラルド】


 ……と書かれてあった。驚いてフォークスを見上げると、彼はにっこりと微笑んだ。


「これを受付に持って行くといい。大急ぎで出してくれるはずさ」

「……いいのか? 俺はまだ何も仕事らしい仕事をしていないが」

「契約金と言う考え方もあるさ。それに魔獣討伐は基本的にBランク以上はほぼ強制に近い条件で参加させられるくらいのクエストだ。君は立派に仕事をこなしたよ。……それで、一つ頼みがあるんだが」

「何だ? 今度は本当にダンジョンに潜れ、とかか?」

「いや、何……一応魔狼がどうなったかを確認したくてね。出来る事なら見ておきたい。ここに召喚出来るかね?」


 彼も冒険者ギルドのトップを任されている身だ、状況証拠だけでなく、現物を確認しておきたいのだろう。それに元Sランク冒険者だったと言う話だ、珍しい物を見たいと言う気持ちもあるのかも知れない。

 俺はSIを取り出し、操作するフリをしながらシアに尋ねた。


(この部屋にフィリップを出したい。調教とやらは順調か?)

『サイズ調整程度であれば、可能です。大型犬サイズで召喚します。よろしいですか?』

(ああ、頼む)


 俺がシアに頼むと、締め切った部屋の中に一陣の風が吹く。すると俺の横にフィリップが伏せの格好で待機していた。サイズとしてはセントバーナードくらいの大きさだろうか。

 三人娘は小さく悲鳴を上げると、腰を抜かしてガタガタ震えた。今回はちゃんと我慢しきれたようで、タオルの必要は無さそうだ。

 フォークスはと言うと、怖がる素振りを一切見せない。それどころか興味深々といった感じでフィリップに近寄り、その体を撫でた。


『主殿、この無礼者を噛み殺す許可を』

(駄目だ、我慢しろ。こいつは俺の上司だ)

『私の毛並みは主殿の為にあるのに、こんな下賤の者に……屈辱的な……こんな屈辱的な事を……!』


 フィリップが必死で殺意を押さえ込んでいるとはいざ知らず、フォークスはフィリップを可愛がっている。体全体を撫でては頬をすり寄せている。


「いやー! 魔狼とは言えども大人しい子だねえ! 何を隠そう私は大の動物好きでね! こんな犬を飼いたいと思っていた所なんだよ! やっぱり犬はいいねえ!」

『犬ではない! 私は狼だ! 主殿の寵愛を受けて天狼へと駆け上った誇り高き狼だ!』

「どうしたのかなー? お腹を撫でて欲しいのかなー? よーしよしよし! よーしよしよし!」

『やめろ! そこはまだ主殿にも触られた事もないのに! 尻尾も触るな! 何をする無礼者! 主殿! こいつを止めて下さい!』


 フィリップの声が聞こえなければ和やかな動物との触れ合いなんだろうが、これは悲劇だ。フィリップにとっての悲劇だ。

 だがこちらも金貨25枚を受け取る立場だ。せめてフォークスに思う存分モフってもらった方がいいだろう。許せ、フィリップ。


(……俺の為に耐えてくれ、フィリップ)

『主殿!? 何で目を背けるんですか? あ、やめろ! 触るな! 撫でるな! 頬を擦り付けるな! 助けて下さい主殿! お願いです! あの時みたいに助けて……ですから何故目を合わせようとしてくれないのです!? 主殿!? あるじどのーーーー!?』


 たっぷりしっかりモフられるフィリップに、俺からしてやれる事は何も無い。悲痛な念話を送り続けるフィリップを無視して、俺はSIの画面を意味も無く見続けていた。

 ……その結果、フォークスは二十分ほどフィリップを可愛がり続けた。


総PVが2000を超え、ユニークももう少しで1000に届きそうです。

ご愛読頂きまして、厚く御礼申し上げます。とても励みになります。

誤字報告も助かってます、今後ともよろしくお願いします。

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