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WorldCrack_Exploit.log

異世界でウォッチ○ッグスみたいな大立ち回りやる話、書いてみたいなあ……

そんな愚にもつかない思いつきから書き始めました。

設定はガバいです。雰囲気だけで書いてます。

ストックはほぼありません。気が向いたら書きます。

それでは、よろしくお願いしますー。

 無機質なビルの廊下を走る。後ろからは7人程の男達が追いかけて来ている。薄いブルーのカッターシャツの男達は一見すると民間の警備員だが、全員手に手に拳銃を握り、俺に狙いを付けている。

 パンパンと乾いた炸裂音が響く。俺の顔の横を猛スピードで通り抜ける熱い金属片は、俺の行き先にある壁や窓ガラスを砕く。

 日本では警備員の銃の所持は禁止されている。当然の話だ。銃を持っていいのは警察と自衛官くらいのはずだ。


「クソ、マジで撃ってくる奴があるかよ! ここは日本だぞ!」


 俺は走りながらスマホを取り出し、ハッキングアプリを起動する。このビルの管理システムは既に掌握している。今いる24階のマップを呼び出し、俺と後ろの警備員を隔てる防火シャッターを作動させた。


「何だこれは!?」

「シャッターだ!」

「早く引っ込めろ!」

「駄目だ、アクセスキーが変更されている! サーバーのリセットを……」

「何をしている! ここが駄目ならE-30から回り込め!」


 バタバタと前方の曲がり角から足音がする。俺はさらに前方の防火シャッターも作動させた。

 どちらも相当な重量のシャッターだし、侵入者を捕獲する為の隔壁としての用途もあるため、そうそう簡単に開く事は無い。少なくとも館内設備システムをリセットし、巻き上げ機能を動かさなければ難しい。


「クソ、こっちもか! システムの再起動を急げ!」

「大丈夫だ、このエリアに逃げ道はない。防火シャッターの復旧が終わったらきっちりと始末を付けよう」


 シャッターの向こうではしばらく狼狽る男達の声が聞こえていたが、やがて水を打った様に静かになった。システム復旧の時を待っているようだ。

 館内設備の管理システムにはバックドアを仕込んであるので、権限を元に戻されても再設定出来る。だが、館内設備システムが再起動されると、全ての設備使用状況がリセットされる。簡単に言えば、防火シャッターが巻き上がってしまうのだ。

 本当に火事が起きた時に防火シャッターが開いたらどうするつもりだと若干不安になる作りだ。そう簡単に開かれても俺が困る。

 俺はハッキングツールから「全館停電」の指示を送る。これはブレーカーを作動させるタイプではなく、送電所の脆弱性を利用し、このビルにだけ送電を停止させる命令だ。復旧される前に、管理する端末も何もかも電源を落としてしまえばいい。

 ブーンと力が抜けるような低い音と共に、照明が消える。空調が止まり、シャッターの向こうからは再び声が響く。


「停電だ!」

「ウソだろ、こんなタイミングで……」

「非常電源は?」

「いや、今ヘルメスで使ってる」

「ブレーカーでも落ちたか?」

「防災センター、防災センター、こちらAZ-1。ブレーカーを復旧せよ、どうぞ」

「は? ブレーカーじゃない? ガチで停電じゃねえか!」

「どうすんだよこれ、シャッター開けらんねえぞ!」


 ……これでしばらくは時間が稼げる。後はダクトでも点検口でも探して逃げればいい。

 無ければ無いで窓ガラスを壊して、そこからロープで降りればいい。最悪ロープが下まで足りなくても、5mくらいなら大きな怪我もせず飛び降りた経験はある。


「しかし……本当、どうしてこうなった」


 俺は一つ溜息をついて、手の中のスマホを操作する。そこには一つ、とんでもないサイズのフォルダがあった。そのの名は――


「WCE……一体何なんだ、これは?」


—◇—◇—◇—◇—◇—◇—◇—◇—


「とある研究所のデータを入手してほしい」


 始まりはそんな依頼だった。結構骨の折れそうな依頼をするくせに依頼主は直接会おうとしないし、やたら金払いのいい仕事だったから嫌な予感はしていた。

 世界の名だたる大国が金を出し合って作った「全人類を救う新技術の創出を目的とした超巨大プロジェクト」。我が国日本もいっちょ噛みしており、やたらと厳重なビルが作られた。

 研究機関であるにも関わらず、研究内容は一切表沙汰になっていない。大国が寄ってたかって金を出しているのにだ。一時期はマスコミも嗅ぎ回っていたが、どういう脅され方をしたのか、今では全く話題に出さない。報道しない自由と言う奴だ。

 その胡散臭いプロジェクトの名前はアトロポス。アトロポス・プロジェクト。ギリシャ神話の女神が冠されたその研究機関の中では、人間の運命の糸をちょん切らせないような計画でも行われているのだろうか。

 そんな研究所からファイルを奪い、可能であれば元ファイルを消去せよと言うのが依頼内容だった。


 最初は外部からネットワークへの侵入を試みたが、信じられないくらいセキュリティが厳重だった。いかに迂回しても必ず強固なファイアウォールに阻まれる。

 ハッカー仲間にアトロポスへ侵入を試みた奴がいたので話を聞いてみたが、あまりにもガチガチに締められたセキュリティを突破出来ず、早々に諦めたとの事だった。

 もはや直接乗り込んで、データを盗むしかない。俺はそういう仕事をやらない訳ではない。企業スパイとして身分を偽って長期間侵入したり、直接的に忍び込んでその日のうちに仕事を終える事もあった。

 データの収集、偽データとの置き換え、ハードウェアごと強奪、破壊活動……依頼されれば何でもやった。

 直接乗り込む必要がありそうな件を依頼主に相談した所、やたらと協力的だった。

 侵入用のゴミ収集業者の手配、いざと言う時の為に送電施設やアトロポスから外部へ通報する為のネットワークへのエクスプロイトの仕込み、必要な機材の手配……ありとあらゆる助力を惜しまなかった。

 ここまでやってもらって出来ませんでしたは通らない。俺は念入りに準備をした後、速やかに忍び込んだ。


 ゴミの収集業者として侵入し、パッカー車の内部に潜り込む。中に入ってしまえばこちらの物、事前に受け取っていたビルの内部構造マップを頼りに35階のサーバー室を目指す。

 防災センターの監視画面に欺瞞用の映像を映し続けるウイルスは、収集業者のおじさんがセットしてくれているはずだ。

 後はサーバー室でファイルを入手し、監視カメラのデータもついでに消してしまえばいい。

 巡回中の警備員の監視網を突破しサーバー室に着いた俺は、ファイルをダウンロードするついでに館内の設備を自由に作動させるバックドアを設置し、目当てのデータを漁った。

 データ自体はすぐに見つかったが、回収には骨が折れた。セキュリティチェックが厳しいのも然る事ながら、ファイルへのアクセス方法が非常に特殊な暗号が用いられており、システム上の穴をいくつも突いて、ようやくパスを開く事が出来た。

 俺はスマホをサーバー管理端末に接続し、ファイルを全てコピーしようとしたのだが……


「ちょっとサイズがデカ過ぎないか、これ?」


 市販のスマホを魔改造して作った俺の愛機は、そこいらのPCでは太刀打ち出来ないくらいのデータ容量があった。しかし、その空き容量が全部埋まって尚5%足りない程の大きさだった。俺は泣く泣く秘蔵のポルノ動画を消した。拠点のPCにバックアップはあるが、それはそれだ。

 データの転送が終わり、サーバーを一切合切空っぽにし、さっさと逃げるかとサーバー室を出た所で……


「おい、そこのお前! どっから入った!」


 ……運悪く、警備員に見つかった。そこからダッシュで逃げ出し、半ば飛び降りるように階段を駆け下り、拳銃を持ってる事を知らずに数人投げ飛ばして気絶させ、撃たれながらも防火シャッターで追撃を防ぎ――


—◇—◇—◇—◇—◇—◇—◇—◇—


「そして今に至る、と。クソッ、どこでミスった?」


 どこをミスったかと言えば、無用心に出歩いた事だろう。潜入が久しぶりだった事もあり、奢りがあった部分は否めない。

 完全に閉じ込められた……いや、追手を撒いた廊下には窓以外の逃げ道はなさそうだ。排気ダクトの類も点検口のような物も見当たらない。


「となると……この部屋か」


 停電しているにも関わらず、機械の放つ低い唸り声が聞こえるドアがある。ドアノブはあるが鍵穴は無く、扉の横には薄く光を放つパネルが置いてある。カードリーダーの類だろう。通電していないはずなのに生きているのが気にかかる。


「非常電源が生きているのか? もしかしてさっき警備員が言ってた『ヘルメス』とやらか?」


 もしかしたら、そのヘルメスとやらに取り逃がしたデータが残っているかも知れない。依頼主が意図していない物なら別途ボーナスも期待出来る。逃げ道を探すのが最優先だが、余裕があれば調べても良さそうだ。

 俺はハッキングツールから電子錠の解錠を試みた。非接触のカード読み取り装置にスマホを翳して十数秒待つと、軽い電子音と共にドアが開いた。

 すかさず電子機器をショートさせる信号を送り、カードリーダーを殺す。この扉の鍵が電気錠のみなら、これで外から中へは入れないはずだ……多分。この部屋だけ特別扱いなら制御も特別扱いのはずだ。


「さてと、後は脱出経路――なんてこった」


 俺の目の前に現れたのは、10階以上をぶち抜きにした、広くて天井の見えない部屋だった。居並ぶワークステーションはまるで巨大な図書館のように天井まで積み重なっており、全てが絶えずLEDランプの信号を明滅させている。

 部屋の真ん中には近未来モノの映画に出てきそうな人一人がやっと立って入れそうなカプセルと、それに接続されたパイプ。パイプの先にはさらに液体の入ったカプセルや見た事もない機械が鎮座している。

 確かに、内部構造マップには不自然な空間があった事は確認している。だが、そこに何があるかは一切描かれていなかった。せいぜい吹き抜けの庭でもあるんだろうとばかり思っていた。だが……これは何だ?


「何だこれ、もしかしてこれが全人類を救う研究って奴か?」


 ワークステーション群を軽く眺めてみたが……ダメだ。これは俺にも手が出せない。物理的にもネットワーク的にも介入が出来ない。

 早々に見切りを付けてカプセルに近付いた時、入ってきた扉から耳障りな金属音が遠い天井に吸い込まれていく。

 何事かと振り返ると、扉の端……丁度錠のデッドボルトが出っ張っているであろう位置から火花が散っている。シャッターはもう突破されたのか? 思った以上に復旧が早い。と言うよりも、むしろこれは……


「錠を切断してんのか! マズい、こりゃマズい!」


 狼狽ながらも俺は周囲を探る。脱出の手助けになりそうなモノを見落としていないか、小走りで部屋の中をあちこち見て回る。

 キン、と軽い音がした後ドアノブが乱暴に動く。デッドボルトが一本切られたが、どうやら俺の命運は尽きていないようだ。あの感じだと複数のデッドボルトが張り出す仕組みなのだろう。残り一本かも知れないし、もっと多いかもしれない。

 しかし予断を許さない事態である事には何ら変わりない。後調べていない所は……


「このカプセルの中……!」


 俺はカプセルを乱暴にこじ開けた。もしかしたらこのカプセルをロケットのように射出する事が出来るかも知れない。仮にも世界的プロジェクトの日本支部だ、それくらいの仕組みがあってもいい。

 中を見ると、床にスマホが落ちていた。見たことのない機種だ。少なくともここ最近で発売された物ではないだろう。動画の見やすい大画面が流行である近年のデザインと違い、携帯性を重視したような小型な奴だ。裏面にはオシャレなフォントで「Scientia Infinium」と書かれてある。

 拾い上げてみると、やけにずっしりと重い。そして手の平より少し小さめなサイズが逆に心地いい。最近のスマホではこうはいかない。

 しかしこのスマホ、カバーや保護ガラスがセットされているようには見えない。今時剥き身のままで使うとは珍しい。どこぞのお亡くなりになったカリスマCEOみたいな使い方だ。


「誰かの忘れ物か? ――いてっ」


 後ろから蹴られたような衝撃と共に、カプセルの中に叩き込まれた。尻をさすりながら振り返ると、カプセルの扉が閉まっていた。


「ウソだろ、閉じ込められた!?」


 カプセルの取っ手をガチャガチャ引っ張ったり押したりしても動かない。ロックされたような音はしなかったはずだが、どうなってるんだ!?

 かなり大きめに作られている樹脂製と思しき覗き窓もやたらと頑丈で、殴っても蹴ってもびくともしない。

 カプセルの中にもスイッチ類は無く、起死回生の一打になりそうな物は全く見当たらない。詰んだ。これは詰んだ。

 絶望と諦めがじわじわと脳内を侵食していく中、ずっとドアの隙間から飛び散っていた火花が止み……扉が開いた。

 部屋の中へ雪崩れ込んでくる警備員達。先程までのオモチャのような拳銃とは訳が違う。全員が米軍で使われてそうなアサルトライフルを構えて……ってマジでM4カービンじゃねえか!


「ガチの奴じゃないか……こりゃあ死んだぞ……」


 さっきの拳銃だって本物だったんだ。これが偽物な訳が無い。心なしか手まで震えて……いや違う、震えてるのは手じゃない。握り込んだ謎のスマホだ。

 さっきまでスリープ状態かオフ状態だった所で、電源ボタンか何かを触ったのか分からないが、スマホの画面が点灯している。

 真っ黒な画面に十数行の文章、それに押しボタンのような絵が表示されている。


『WorldCrack_Exploitを検知しました。

 イニシャライズしています......完了しました。

 天候システムからコアシステムにアクセス完了。

 権限情報の書き換え完了。

 バックドアの常駐を確認しました。

 Cogito_Ergo_Sum.sys......ok

 Ouroboros.sys......ok

 Prometheus.sys............ok

 BABEL.sys........ok

 8MComponent...................ok

 転移予定者の記憶保持、魔力付与、能力付与が可能です。

 前バージョンのLoki.sysが含まれています。

 肉体組成時に何らかの異常が発生する可能性があります。

 Hermes.exeの破損チェック、動作シミュレート確認。

 肉体を再構成し、転移を開始しますか?』


 表示されている内容は怪しいが、もはや藁をも掴むくらい切羽詰まっているのは間違いない。俺は迷わずボタンを押した。

 カプセルが徐々に振動し始め、外側が緑色に発光しているのが見えた。

 怯えた警備員の一人がアサルトライフルの引き金を引いた。それが呼び水となったようで、全員が俺に向けて弾丸のシャワーを浴びせる。

 だんだん時間がゆっくりになる感覚が押し寄せてくる。カプセルを叩く音の周期が長くなる。音が間延びしたように緩やかに、低くなっていく。窓ガラスの外では大量の弾丸が空中で停止していた。

 足の感覚が無くなっていく。ふくらはぎ、太もも、大事な息子……まるで存在しなかったかのように霧散していく。

 腰、胴、胸、腕、首、そして頭が消失しようとしたその刹那。

 ――俺が最後に見たのは、カプセルの扉が鉛玉の暴風雨に耐えきれず、ひしゃげて飛び散る所だった。



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