好きだった人好きな人
「悪かったな、雫があんな態度ばかりで」
ボーリングを終えた僕と美奈は、6年ぶりに一緒に帰路についた。その途中で昔遊んでいた公園をみつけて立ち寄ったのだが、一緒にいた雫は「私は帰る」と足早に立ち去ってしまた。
「うんん、気にしないでいいよ」
僕の隣のブランコに座る美奈が明るく答えてくれた。
ただ、そう言われても、雫の態度はあまりにも酷かった。ボーリングでも一切目を合わせようとせず、美奈が優しく声を掛けても冷たく一言であしらう。そのせいで、美奈どころか僕達全員が居たたまれない気持ちになったのだ。
「それにしても、懐かしいね、この公園」
「そうだね。よく、この公園で遊んだよね。かくれんぼしたり、鬼ごっこしたり、……いろいろあったよね」
最後の別れを告げたりと一瞬頭を過ぎり、口に出そうになったが意地で食い止めた。だって、僕たちにとって……少なくとも僕にとっては思い出したい過去ではない。
「それに、最後の別れもここだったよね」
が、僕の気持ちを踏みにじるかのように、美奈が笑顔で僕の顔を覗き込んできた。
……美奈にとっては嫌な記憶ではないのだろうか? 僕は人生を捨てたくなるくらい後悔した。吹雪の中、この公園で泣き続けた。もう一生選択を間違えたくない。心からそう思ったし、選択なんてしないと誓った。
「私はね、あの日までずっと、転校のことを良に伝えるべきか悩んでいたの」
思い出すように真っ暗な空を見上げる美奈の姿は、どこか寂しそうで、でも、同情を寄せ付けないような明るさがある。
「その選択は間違いだったみたいだね。凄く後悔したんだよ、私。まあ、『好きではない』なんて良が言うから悪いんだけどね」
ぷくぅと頬を膨らませ、でも目が合うとえへっと微笑んできた。凄く可愛い。この笑顔が大好きで、僕は彼女のことを好きになったのだ。そして、その笑顔は6年たった今でも変わらなかったと思うと少し安心した。
「……ごめんね。僕もあんな答え方して後悔していたんだ。あのね、本当は美奈のことが大好きだった」
「えっ?! なっ、なっ、何よ急に」
暗いせいで顔色まではよく分からないが、動揺しているのは確からしい。何か間違ったこと言ったかな? ……あっ、そっか。
「もちろん今も大好きだよ」
そうだよな。過去形にしたら気分悪いよな。
「えっ、そっ、そんな。……あのね、私も良のことが大好きだった。それに、今も好きだよ。私も良のこと、今も昔も大好きだよ」
美奈はそう言うと、座ったままブランコを漕ぎ始めた。きぃきぃと軋むその音が、6年という長い時間を如実に表している。
「ありがとな。これからも友達でいてくれよ」
軋む音に負けないように、大きな声で言った。
「……えっ?」
急にブランコを止め、睨んでくる美奈。
「……何か間違ったこと言った? 美奈も僕のこと友達として好きなんでしょ。だから、友達になってよ」
「……うん」
不満げに口を尖らせる美奈。雫といい、美奈といい女の子はよく分からん。
「あのね、実は私、もう一つ後悔していることがあるんだ。これもまた、選択を間違えたってやつかな。何か分かる?」
意地の悪そうな声で尋ねてきた。そんなの分かるわけないじゃないか。
「分からないよ。何?」
「クスッ。ぜ~ったいに教えてあげないよぉ、だ」
(本当はね、告白するか、しないか悩んでいたんだよ。結局、日和って友達って単語をつけた。最低の選択肢だよね)
「何でそんなこと言うの。気になるじゃん。教えてよ。ねぇ、ってば」
必死に懇願してみたものの、完全に無視されてしまった。言う気がないなら、元から聞いてこなければいいのに。
「さっ、帰りましょ」
「はいはい」
スッカリ錆びついてしまったブランコを降り、僕たちは再び帰路に着く。