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追憶とボーリング


 そんな風に悩みながら、雪の降る中で僕はいつもの公園に向かっていた。クリスマスが近いからか、町中がイルミネーションで飾られている。店は活気づき、色々な所からクリスマスソングが聞こえてきた。そんな中を歩いていると、告白するんだという気持ちが強くなっていく。

 

『私のこと友達として好き?』


 僕より先に着いていた彼女は、綺麗な金髪に雪を積もらせて、そう僕に問う。告白するか否かの二択を選びきれない僕は、また新たな選択を迫られた。好きと答えるべきか、嫌いと答えるべきか。それとも、適当に誤魔化すべきか。

 僕は悩んだ末、『好きではない』と答えた。三択の中でいうなら誤魔化しを選んだのだと思う。決して嫌いとは言っていない。ただ、好きという選択肢を僕は選ぶことができなかった。ここでその選択肢を選んでしまうと、一生彼女と恋人どうしになれない、そう思ったからだ。


『そっか、そうだよね。……ごめんね』

 

 彼女は泣いた。そして、降りしきる雪の中を駆け、姿をくらませる。その日以来、彼女と出会うことはなかった。彼女は次の日に転校したらしい。僕に対する裏切りの気持ちを持って転校したのかと考えるとゾッとする。

 僕は選択を間違えていたのだ。「転校してもずっと友達だよね」と彼女は言いたかったのだろう。これからも連絡を取り合いたい、そう思っていてくれたのだと思う。僕はそんなことに気づきも、気づこうともせず、彼女を失った。愚かな選択肢を選んだのだ。




「おい、良介! どうかしたのか?」

「えっ?」


 三人が心配そうに僕を見て、立ち尽くしていた。


「あっ、いや、ごめん。何でもない。それで、みんなはどこに行きたいの? 僕はどこでもいいからさ、みんなが行きたい所に行こう」


 そう、選択何てしなければいいのだ。できる限り人に任せておけばいい。人が決めてくれない時は、サイコロでも転がせばいいのだ。


「私はボーリングに行きたい」


 切り替えの早い雫がそう言った。普段はこの切り替えの早さにムッとすることが多い僕だが、今回ばかりはありがたい。


「雫にしてはグッドなアイディアだな」

「雫にしてはというのは余計だよ。良介のくせに」


 雫がぷくぅとほっぺを膨らませる。


「いいですね。私もボーリングしたいです。最近、ずっとしていなかったので、上手に投げられるか不安ですけど」

「まあ、姫野さんがそう言うならボーリングに決定だな。よし、行こうぜ」


 服部は急かすように教室を後にした。僕たちは驚きながらも、荷物を持って彼を追いかける。


「おい、何をそんなに急いでいるんだよ。後ろ見てみろよ」

「あれ? 二人は?」

「お前が早すぎて、随分と後ろだよ。まったく、何をそんなに急いでいるんだ?」


 やっと追いついたと思ったら、既に昇降口だもんな。急ぎ過ぎだ。


 「何にも分かっていないな。今から俺たちはボーリングに行くんだぞ。ボ・オ・リ・ン・グに!」

 

 服部が無駄に力強く言う。ほんと無駄に。


 「ボーリングだといいことでもあるのか?」


 姫野さんが滑って転んで、パンツが見えるというラッキースケベがあれば最高だが、そんな馬鹿なことが現実にあるはずがない。


「ふぅ、やれやれだな。あのな、ボーリングは体を、特に上半身を動かすスポーツなんだぞ」

「だからなんだよ。上半身が激しく動くと何の意味が……あっ!」


 そうか、姫野さんがボールを投げれば、おっぱいがプルンプルン、ゆさゆさどころか、ブルンブルンと暴れ回ること間違いなしだ。


「ようやく本質に気づいたようだな」

「ああ、……でも、どうやってそれを目視するんだ。後ろ姿しか見えないだろ」

「トイレに行くとでも言って、横から覗き込めばいいだろ」


 なるほど、素晴らしい案だ。何だか、服部が煌めいて見える。


 「でも、それだと数回しか見れないだろ。目の前で揺れ惑うおっぱいがあるというのに、一回しか見れないのかよ」

「ふっふっふっ」


 意味ありげな笑い。人さし指と親指でピストルの形を作り、それを顎に当てる服部。

こんなの期待する以外できない。


「いいか、確かに投げる時に揺れる胸は数回しか見ることができないかもしれない。でもな、胸を揺らす方法は他にもあるだろ?」

「ほかにも? それはいったい?」


 そんな都合のいいものがあるものなのか?


 「ハイタッチだ。わざと手を高く上げてハイタッチを要求するんだ。そしたら、ジャンプをするしかない」

「そうか! お前は天才だ。そうすれば、至近距離で暴れ馬のような胸を拝めるというわけか」

「そういうことだ。俺は初めからボーリングを選ぶつもりだったのさ。このためにな」


 目を見開き、服部がきっぱりと言った。

 あの時、自分で選択しなくてよかった。僕だったら、多分悩んだ末に、ゆっくりと会話ができるカラオケを選んでいたと思う。やっぱり、自分で選択をするのは駄目だな。うん。


「なんの話をしているの?」

「どうかされましたか?」


 いつの間にか追いついていた姫野さんと雫が、同時に問うた。


「えっ、いや、何でもないよ……なっ」

「ああ、ボーリングのハイスコアとアベレージはいくつくらいかと話していただけだ」


 ナイス誤魔化しだ、服部。一瞬、聞かれたかとビクッとしたが、この様子なら問題ナッシングだ。


「じゃあ、行こうか」


 服部が、ボーリングの上手い下手で盛り上がる雫と姫野さんの話を遮るように言った。二人は頷き、会話を再開する。

そんな中で僕と服部は一度目を見合わせた。


 『絶対に俺たちが暴れさせるんだ』


 そう深く誓った。

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