表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

好きな人が犯人なはずがあった


 「放課後雑談部の活動を開始する」


 甲が上に来るように組まれた両手の上に顎を置く服部が、深刻な面持ちで言った。

 

 「……部活でも何でもないだろ」


  そんな部活は存在しない。部活動みたいに規律の厳しいところに身を置きたくないけど、帰宅部みたいに無気力なのも嫌だ。そんな僕と服部が放課後に教室で雑談をするようになったのが始まりだった。そこに雫が加わり、現在の活動は三人で行われている。


 「もっと熱い心を持て、良介。俺たち放課後雑談部は女性のエロイ話をするために設立されたのだぞ。

人数を増やして本物の部活に昇格するぞぉ、おお!」


 服部が右こぶしを振りかざすのと同時に、雫が「おお」と笑顔で拳を上げた。

 坊主頭のくせして煩悩たっぷりな馬鹿と、自由気ままに生きる幼馴染と、いったいどうしてエロイ話をしなければならないのだろうか。


 「そんなことより、昼休みに立ち聞きしてた奴を探そうぜ。何か手がかりないのか?」


 服部があからさまに嫌そうな表情を向けてくる。お前とわい談する方がよっぽど嫌なんだが。


 「なんでだよ、面倒くさい。そんなの一人の時にやれよ。今は女性の話をする時間だろ」

 「そんな時間は元々学校に存在しねぇよ! というか、朝からエロイ話をしてたじゃねぇか!お前の場合は年中無休でエロ雑談してるだろ!」

 「細かいことは気にするな。いいか、エロは世界を救うんだ。愛じゃないぞ、エロが世界を救うんだ。エロイ女性の前では、男の諍いなんてウンコみたいなもんさ」


 なぜに僕が諭されるように言わなければいけないだ。それに、


 「エロイ女性を取り合って、新たな諍いが生まれるのでは?」

 「うぅっ!」


 脳内に雷が落ちたかのような、鈍い声が響き渡った。そして、一呼吸おいて、よろよろと体を揺らしながら、弱弱しい声を服部が出す。


 「みんなで分け合えばいいだろ。……なっ」


 親指を立て、キラッと歯をみせ微笑みかけてきた。それをみて、戦場から命からがら生き延びた戦士が、「あとはお前らに任せた」という映像が僕の頭を過る。

 が、あまりに失礼すぎるので、必死に頭を左右にふり煩悩を振り切った。


 「なあ、何でもいいから、犯人探しを手伝ってくれよ」

 「えぇ~、めんどい。女が関わらないならやりたくない」


 服部は完全にだらけきり、机に突っ伏してしまった。


 「雫がいるじゃねえか。それでいいだろ」

 「胸のない女は女じゃねぇよ。こんなツルペッタン山脈に興味はない」

 

 最低だこいつは。何故か雫は僕を睨んでるし。


 「ちょっと待って、雫。僕はそんなこと思ってないぞ。服部の趣味嗜好の問題だよ」

 

 両の手を顔の前に出し、僕は必死に否定を、いや、その場しのぎの誤魔化しをする。実際、胸が大きな女性の方が好きだし。仕方ないよ。だって男の子だもん。

 

 「うぅ~。……ホントに?」

 

 雫がちょこっと首を傾げて、恥ずかしそうに呟いた。

 

 「ああ、もちろんだとも。ほんとだとも」

 「そっか、なら、よかった。えへっ」

 

 にぱぁと微笑む雫。よかった、どうにか機嫌が戻ったらしい。

 

 「胸のない女の話など興味ないことはないが、あまりない。そんなことより、早くエロ談話しようぜ。わい談しよ、わい談。」

 

 足をパタパタさせてアピールするという、やっていることは子供なのに、中身があんまりだ。脳内で一人でやっていてくれ。……と言いたいところだが、僕一人で犯人を捕まえられるとは思えないし……。

 

 「はぁ、お前は何を言っているんだ。犯人は女だぞ」

 「マジでか!」

 

 机の上から、僕の真ん前まで顔を近づけるのに、わずか0.03秒だ。こいつはマジで凄い。色々な意味で。


 「ああ、しかも巨乳だった……と思う」


 最後の言葉だけぼそっと呟いた。巨乳かどうかは知らない。後姿しか見えなかったし。


 「うぉぉぉぉ。俺はやるぞぉぉぉぉぉ」


 ようやくやる気を出してくれたみたいだ。犯人が貧乳だったらスマン。


 「雫も頼むよ」


 握手を求めると雫は顔を赤らめキョロキョロし始めた。


 「どうしたの、雫?」

 「えっ、いや、うん。こちらこそ、お願いします」


 茹蛸のように顔を赤くし、しかも湯気を出す雫。……よくわからんが、手を握ってくれたということは協力してくれるということなのだろう。


 「それで、犯人確保のためにどう動くべきだと思う?」

 「そうだな、……さっきから立ち聞きしている奴がいるから、そいつが犯人だろ」


 服部が平然と言ってのける。


 「……何言っているの? 頭おかしいの?」

 「おかしくねえよ。ほら、あそこ」


  ボソッという服部の視線の先、ドアの方を見てみると、確かに人影がある。

 

 「捕まえるぞ。お前らはそこにいてくれ」 

 

 そっとドア前に移動しようとすると、ガシッと腕を掴まれた。

 

 「何?」

 「お前ずるいぞ」

 「ずるい?」

 「ああ、女の子の確保とかずるいぞ。俺も行く。そして、事故に見せかけておっぱいを揉む。できれば、事故を装って押し倒し、おっぱいに顔をうずくめるか、女の子の下の秘法に顔をうずくめたい」

 コイツは駄目だ。目が完全にいってしまっている。性犯罪者予備軍どころか、性犯罪者そのものだ。

 「ここで寝ていろ」

 「うっ!」


 首筋をチョップする。もう目覚めるな。人類のためにも。


 「あとは任せたぞ、雫」

 「ラジャー」


 敬礼して答えてくれた。


 「よしっ、いくか」


 しゃがんで、抜き足、差し足、忍び足でそっとドアの前まで移動し、ドアに手をかける。


 「ふぅ~」


 軽く息を吐き、心を落ち着かせる。よし、開けるぞ!

 ガラッ バン


 「お前は誰だ!」


 僕がそう叫ぶと同時に、昼に見た綺麗で長い黒髪を靡かせ、女が逃げ始める。ただ、逃げられるハズがない。僕はこれでも男だ。

 

 「待てよ、おらっ」

 

 廊下の直線を走りきる前に、今度は捕まえることができた。


 「神妙にせい! お前の目的はなんだ!」


  掴んだ女の腕を上にあげ、振り向かせる。


 「……えっ!? なんで?」 


 そこには、額に汗を滲ませつつ、目を潤ませ、そしてほんのり顔を赤らめる女性が。……少し視線を下げれば、まごうことなき巨乳。しかもそれは、今朝見た……


 「姫野さん?」

 「すっ、すいませんでした」


 僕の手を振りほどき、深々と頭を下げる姫野さん。

 なんで姫野さんがあんな手紙を僕に?


 「ねぇ、なんでこんなことしたの?」

 「すっ、すいませんでした。その……」


 姫野さんは真っ赤な顔で、恥ずかしそうに言いよどむ。

 この反応からも、姫野さんが立ち聞きしていた犯人で間違いない。何で? もしかして、僕のことが好きで、ついついあんな手紙を! 差出人の名がないのもうなづけるな! 照れを隠すためにおかしな内容を書いたのか!!

 ……無理があるな。差出人がないことくらいしか納得がいかない。

 

 「あっ、あの、菅野君?」

 「んっ、いやなんでもない。なんでも。でも、どうしてこんなことを?」

 

 逆に嫌われていて、嫌がらせというほうがよっぽど納得がいく。……自分で考えていて凹んできた。

 

 「えっと、その、すいません。私、昼休みは屋上で過ごすのが好きなんです。屋上から、桜の木を見渡すと心が落ち着いて」

 「その気持ち凄くよく分かるよ。僕も悩んだり凹んだりしている時に、木を眺めていると心が落ち着くから」

 

 そっか。だからあの日。

 

 「知ってる。菅野君って、休み時間になると外見ているもんね」

 「えっ、そうかな。そんな見てたかな」 

 

 ……あれっ? 何でそんなこと知っているんだ? 僕は窓側の一番後ろの席。姫野さんは二列横の一番前の席。


 「うん。いつも見てるよ。それに、何だか凄く落ち着いた空気で……その、かっこいいっていうか……」

 

 唇の前に手で三角形を作って、ボソボソと呟くものだから最後の音が聞こえなかった。

 

 「えっと、ごめん、何て?」

 「いやっ、何でもないんです。……ほんとにすいませんでした」

 

 姫野さんが慌てたように頭を下げる。

 

 「……なんで、こんなことしたの?」

 何回同じセリフを言うんだ僕は。


 「えっと、ですね。いつもは授業が終わったらすぐに屋上に向かうのですが、今日はノートをまとめるのに苦労して、行くのが遅くなってしまったんです。そしたら、既に菅野君たちがいて、入ろうか悩んでしまって……」


 姫野さんはバツが悪そうに俯いてしまった。恥ずかしくて屋上に入ろうか悩む姫野さんか。想像するだけで可愛いな。


 「悩んでいると……その、服部君がノーパンっぽい女子がどうとか言っていて、その……」


 スカートの裾を力いっぱい握りしめる姫野さんに、僕は何にも悪くないのに、申し訳なく思ってしまう。だって、そこの話を聞いていたということは、雫のあの発言も聞いていたということだ。


「そしたら天野宮さんが……私がノーパンと言うので……」

「だから、その後の会話が気になって、聞き耳を立てていたということ?」


 あまりに恥ずかしそうな様子に、僕はフォローを入れた。すると、姫野さんは無言で、力なく二度頷いた。


「そっか。なんか、こちらこそごめんね」


 手紙の犯人ではないのか。それなら、いったい誰が犯人なんだ? 単なる悪戯と考えるべきか。


「じゃあ、教室に戻ろうか。一応、服部と雫にも状況を説明したいし」

「はい。……お二人とも怒りませんかね?」


 横に並んで歩き始めると、ちょこんと僕のブレザーの裾を掴む姫野さんが、不安そうに僕を見つめて聞いてきた。


「えっ、あっ、うん。大丈夫だよ」

 

 顔が熱い。慌てていたから忘れていたけど、今ここにいるのは僕の好きな人だ。

綺麗な黒髪から醸し出される甘い香りが僕の鼻孔をくすぐる。細く長い綺麗な手に、スカートから出てくる、白く、でもむっちりとした太ももを連想させる足。大きな胸にも関わらず、クビレがこれでもかというくらい強調されている。


「でも……」

「大丈夫だよ。あの二人は怒ったりしない」


 服部はむしろ喜ぶだろうな。雫は怒るどころか、キョトンとするだろ。あいつらは馬鹿だからな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ