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キスはキスと思わなければキスじゃない


 現実世界に戻った時には昼休みだった。彼女の可愛さは時をも超えるらしい。

 弁当を持って屋上へと向かうがそこには僕たち以外に誰もいなかった。まだ五月とはいえ、この暑さでは仕方がない。照りつける太陽からの猛烈な紫外線。コンクリートの上に座れば地味な暑さにケツがじりじりする。こんな所に来る奴の気がしれない。


 まぁ、来てるんだけどさ。


 「なぁ、良介。なんで屋上なんだよ。暑いし教室でいいだろ」


 服部は手でパタパタと顔を仰ぐ。

 

「ええ、外の方が気持ちよくていいじゃない。ほら、こんなにいい天気なんだしさ」


 宙に手をかざし、クルクルと動き回る雫に、僕はほっとさせられた。女の子は紫外線を気にするかもと心配していたのだが、取り越し苦労だったようだ。


 「まあ、そう怒るなよ。クラスの連中には聞かれたくない話だからな」


 僕がそう言うと、服部はそそくさと扉の前に移動し、座り込んだ。ここならば、ちょうど日陰となるし悪くない。ただ、急にドアが開いたら、寄りかかっている服部は後頭部からゴンだ。


……それは問題ないか。うん。むしろ、頭打った方が少しはマシになるかもな。


 「何で俺がここを選択したか分かるか?」


 輪になるように座り、お弁当箱を開こうとしていた僕と雫に服部が急に問いかけてきた。


 「日陰だからじゃないの?」

 「雫の言う通りだろ?」

 「違うんだなこれが。ふふふ」

 「じゃあ、何だよ」

 

含みを持たせた笑いをする服部に、僕と雫は顔を見合わせ、互いに一度頷いた。


 『うぜぇな、コイツ』


 僕たちの心は単純にこれだ。


 「いいか、このドアが急に開いたらどうなる? ……じゃあ、良介」

 「どうなるって、そりゃあ、寄りかかっているんだから、後ろに倒れるだろ」

 「そう、その通り。倒れたらどうなるでしょうか。……では、次、雫!」


 雫は食べる手を止め、ピシッと姿勢を整えた。馬鹿馬鹿しいと思っていても、ゲーム形式っぽくなると乗ってしまうのが雫だ。


 「はい、後ろに倒れたら後頭部を打つと思います」


 雫が小学生のように手を高く上げ答える。


 「そうしたら、どうなるでしょうか。はい、良介」

 「は? 後頭部を打ったら気絶?」


 運が良ければ少しはその腐った脳がマシになるだろう。そうでなければ、どうにもこうにならん。お前の頭がこれ以上おかしくなるとは思えないし。


 「はぁ~、これだから良介は」


  服部は額に拳を当て、大袈裟に俯いてみせた。本気でうざいなコイツ。


 「じゃあ、なんなんだよ。雫は分かるか?」

 「ええ~、分からない」


 雫が悔しそうな顔をする理由が、僕には全く分からない。


 「後頭部を打ったらな……」


 その目力にツイツイ生唾を飲んでしまう。


 「位置的に考えて、そのまんまパンツが見えるぞ。女子のパンツが。最高だろ。ああ、誰か夢の扉を開いてくれないかな。扉を開けば、パンツにコンニチハだ。この扉はどこでもドア。さあ、私をパンツの世界に連れて行って」


 悲劇のヒロインのような芝居をする服部は置いておき、僕と雫は無言で弁当を食べた。こいつを異世界に捨てて来てほしい物だ。




 「なぁ、そろそろ本題に入っていいか?」


 弁当をたいらげてから僕は話を切り出した。僕たちはパンツを求めて屋上に来たわけではなかった。


 「あっ、ああ。……本題? クラスの女子でノーパンっぽい人は誰かって話だっけ?」

 「おい、こらエロ坊主! お前はいったい何の話をしているんだよ!」

 「あっ、何気に姫野さんがノーパンな気がします」

 「雫も答えるな!」


 くそっ、一瞬だけノーパン姫野さんのスカートが、風でめくれるシーンが思い浮かんじゃったよ。


 「顔赤いぞ、良介。なんだ、想像しちゃったか? このエロ魔人め」

 「想像して鼻血を出している人間が言うかそれを。くされエロ坊主」

 「なにを!」


 服部がガンを飛ばしてきた。


 「なんだよ!」


 もちろん、僕は即座に応戦する。火花が散る争いが続く。


 「えいっ、良介の馬鹿!」


 突然に後ろから押された僕はバランスを崩し、


 チュ


 正面から睨み合っていた男の唇に僕の唇が…………


 「「おえぇぇぇぇぇ」」

 「ふん、もう知らないもん」


 雫は腕を組み、プイッとソッポを向いてしまった。何に怒っているのかは知らないが、雫の顔が赤い。そして、何かを忘れるように一心不乱に弁当をがっつく服部。


 ファーストキスなのかな・・・これ? 嘘だよね・・・。違うよね・・・。幻だよね・・・。



 温もりの冷めやらぬ中、僕は意識を閉じて、


 「これを見てくれ」

 手紙の入った封筒を二人の前に置いた。

 

「「これが何?」」


 二人は封筒をマジマジト見て、同時に首をかしげる。


 「何かおかしいんだよ。差出人は書かれてないし、宛先すらもない。」

 「忘れただけじゃないのか?」


 ようやくご飯を食べ終えた服部が、お弁当を片付けつつ言った。


 「手紙書く時って、封筒の裏に自分の名前を書かなきゃいけないの?」

 「……うん。あのな、雫。できれば、名前だけではなくて、郵便番号や住所も記載しような」

 「へぇ~」


 間抜けな声だ。ホントに知らなかったらしい。


「そんなことより、これのどこが問題なんだ? ……もしかして、中身がラブレターとか!?」

「だから、違うと言っているだろ。それに何でこの世の終わりみたいな顔してんだよ。僕がラブレター貰ったら、そんなに悲しいか?」

 「当たり前だろ! 恋人ができるのも、結婚するのも、初夜を迎えるのも同じ。それが親友というもんだろうが!」


 服部の魂の咆哮に一瞬感動してしまった。……が、よくよく考えなくても、こいつの頭はおかしい。


 「うん、そういうのはもういいから。なっ、しず……く?」

 

 何でそんなに睨んでいるの? これがラブレターだったらそんなにダメなの?

 

「ふんっだ!」


 頬に空気を溜め、子供のように拗ねる雫。もうわけがわからん。こいつはさっきから、何に対して怒りを感じているのだ?


 「まあ、中を見てくれよ」


 手で封筒を指すと、服部が中から紙を取り出し、茶封筒のみを僕に突き返してきた。


 「……なんだこれ? 中間試験の勉強に……ラブレター?」

 

 意味不明理解不能という表情をする服部から、雫は手紙を強奪するように手に取る。

 

 「……ほんとにこれは何?」


 二人の気持ちはよく分かる。僕も初めて見た時は同じ反応をした。

 

 「わかんないんだよ。今日の朝、新聞を取りに行ったら、郵便受けに一緒に入っていてさ」

 「誰かの悪戯じゃないのか。そんなに気にすることないだろう」

 「そうだといいんだけど。……なんていうかさ、妙な感じがするんだよ」

 「「妙?」」

 

二人の声が重なる。


 「中身に意味がなさ過ぎて悪戯にもなってないじゃん。むしろ、勉強しろっていうのは、僕の為を思っているよね。」


 そう、そこが怖いのだ。不幸の手紙のように、こうしなければあなたは不幸になると書かれていれば、嫌がらせと分かる。今回の場合、愉快犯にしてはしょうもないというか、何をしたいのかが分からない。むしろ、こうしたらよくなると書かれているのだ。アドバイスにも思えてくる。


 「う~ん、……気になるなら警察に行ったら?」

 「こんなんで警察は動かないよ。実際に被害が起きたわけではないし。それに、僕としてはあまり大事にしたくないよ」


 完全に否定された雫がシュンとしてしまった。申し訳ないが、今は雫を励ます余裕は、僕の心にはない。


 「無視しとけ、こんなの。考えるだけ無駄だよ」


 そう言うと、服部は手紙を僕に手渡す。僕はそれをそーっと、腫物に障るように封筒にしまった。

 クシュンッ

 ドアの向こう側からそんな音が聞こえてきた。

 

「おい……」


 僕が服部と雫にアイコンタクトを送ると、二人は一度頷き、ドアからそっと離れる。


 「あっ、あれ?! くそっ」


 階段を急いで駆け下りていく、ストレートロングの黒髪の女の子の後ろ姿があった。


 「おい、どうする?」


 バッと振り返り、僕は答えを求める。服部でも雫でもいいから、指示がほしい。


 「追いかけろ! 早く!」

 「おう!」


 服部の指示通り、犯人を追いかける。


 「ぜぇぜぇ、くそぉ、どこ行きやがった、あの女!」


 一度だけ後ろ姿を捉えたものの、結局撒かれてしまった。後ろを振り返ってみても、服部たちの姿はそこにない。


 き~んこ~んか~んこ~ん


 「あっ、予鈴」


 どちらにしてもタイムリミットか。諦めよう。


もう数話したら本題に入っていけると思います。最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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